6-20 素材売却
神戸町に戻ると、俺はヒーローになった。
あのタイラントボアは討伐が非常に難しく、ここの住人はそういった事に慣れていなかったため、追い払う事しかできなかったのだ。
何度も襲われると予測されていたのに、その脅威が無くなったことでみんなは沸きに沸いた。
そしてそれを成した俺たちはヒーローという訳である。
「飲め! お前が持ってきた酒だが、飲め!」
「いやー、めでたい!」
「創さん、ツマミにこれを食べませんか?」
めでたいという事で、宴をする事になった。
証拠となる毛皮があるので、俺がタイラントボアを討伐したという話を疑う人はいない。
どうやって、と方法を聞きだしてきた人がいたので、「毒を使いました。前に、川島で手に入れた毒です。武器に塗って、肛門から直接」と答えておいた。
嘘は言っていない。ただ、色々と説明が足りないだけだ。
聞いた側も細かい話を聞きだすのはマナー違反というか、宴の邪魔になるので聞き出そうとはしない。
空気を読んで、明るい雰囲気を作れる程度に情報を求めただけだ。
そういった細かい部分については、また宴が終わった後にでも詰めていくのだろう。
宴は俺たちが戻った昼過ぎから、その日の晩までずっと続いた。
これからの復興を思えば暗い気持ちになるのだろうが、不安の中でも一番大きいのが無くなったので、気持ちが前を向くようにと大いに騒ぐのだった。
「この毛皮を売ってほしい、ですか?」
「ああ。額は1千万円。納得してもらえないか?」
宴が終わった翌日。
俺は神戸町の町長に、戦利品の毛皮を売ってほしいとお願いされた。
毛皮などの戦利品については、俺に所有権があるのは事前の取り決めで決まっている。
神戸町側はできないだろうと高を括っていたというのもあるが、それ以上に功労者に払う金銭を押さえたいのでそうなっていた。
しかし実際に物を見ると意見を翻したくなるようで、どうしても毛皮が欲しいと今更言い出したのだ。
提示された1千万円は、俺の見立てだけど、かなり安めの金額になる。
あのレベルのモンスターを放置したときの被害はもっと大きくなるだろうし、実際にこれからの復興に使う資金を考えると、その程度では済まないと子供でも分かる。
桁を一つ上乗せしても大丈夫だろう。
ただ、俺は神戸町に義理があり、頼みを無下にできない気持ちがある。
彼らは若い俺をいいように使おうとする事など無く、一人前として扱ってくれている。これまで、彼らから理不尽な要求を突き付けられたことは一度として無い。
「分かりました。今回に限り、それで手を打ちましょう。
ですが、次回以降は事前の取り決め通りにしてくださいね」
「ああ! もちろんだとも!」
だったら、信用して融通を利かせるぐらい構わない。
これに味をしめて繰り返すということもないだろう。それぐらいの信頼関係が俺たちの間にはあるんだから。