6-19 ボア完殺③
タイラントボアは、苛烈な性格をしているようだが、基本性能は攻撃ではなく防御寄りである。
毛皮の強度が突出していて、互いに攻撃しあう時、生物とは思えない硬質な高い音色を奏でる。金属同士がぶつかり合っているとしか思えない。
よって足を止めての殴り合いは千日手となる。
そんな中で有効な攻撃というのは突進ぐらい。
突進による一撃は毛皮だけで相殺しきれるほど弱くはなく、一般的な大型動物なら即死しかねない威力がある。
敵2頭は片方がタンクとして足止めに専念し、もう片方が突進でアタッカーになる。
妊娠している方が走り回るのはお腹の子供にどんな影響が出るか分かったものでは無いが、それでも勝つためにはそれぐらいしか無いのだろうね。
攻撃する方が一方的に有利かというと、そんな事は無い。
防御側に回ったこちらのボアは突進に合わせて牙を突き立て、カウンターでダメージを稼いでいた。
ついでに、まとわりつくもう1頭を上手く誘導し、位置取りを調整するなどして同士討ちを狙うという、とてもクレバーな戦い方をする。
非常に安定した戦いなので、手出しするのを躊躇うほどだ。
「夏鈴。勝てると思う?」
「90%以上の確率で、このまま押し切るでしょう。不確定要素さえ無ければ」
俺の確認に、夏鈴は突進を繰り返す妊婦ボアの腹を見ながらそんな返事をした。
そうだよな。このまま行けば、そのまま勝てる。事実、妊婦ボアは度重なるカウンターで、すでに血みどろ。ボロボロの毛皮がダメージの大きさを物語っている。
これはそういう話だ。
「合わせるぞ!
凛音、準備して。終も次の突進に合わせて攻撃を」
手出し不要と思える戦いだが、俺は攻撃のための準備をする。
仲間に指示を出し、機を窺う。
ボアにも大声を出してこちらの意図を伝えたので、あとは上手くやるだろう。
あの2頭にこちらの位置がバレることは気にしない。
どうせ、もう臭いでバレているだろうから。
最期の突進。
そう思わせる気迫で、妊婦ボアが走り出した。
大型トラックなみの巨体が木々をなぎ倒しつつも減速せずに迫り来る。人間ならば跳ね飛ばされて終わりのその一撃が、それ以上の巨体に衝突した。
響き渡る轟音。
最後に微調整をされたのか、これまで擦れ合うような接触だったのに対し、今回は正面衝突という結果になった。
とてつもない頭突きを受け、双方ノックダウン。
死んでこそいないが、これはすぐに戦線復帰とは言えないダメージだった。
そうなると、残っているのはタンクをしていた1頭と、俺たちである。
「『ファイアジャベリン』!」
「『マナボルト』!」
「うおぉぉっ!!」
「行くぞ!」
凛音と魔術部隊の魔法、終の剣が残り1頭を屠らんと襲う。
倒れた妊婦ボアは魔剣部隊が止めを刺しに動き、魔槍部隊は安定のバックアタックで意識を分散させる。
相手は激戦後のタイラントボア。
まだまだ危険な相手だが、油断をしなければ確実に勝てるだろう。