6-17 インターバル
2頭のうちの1頭は早々に倒せた。
最初の魔槍部隊の足止めが良かったのだろう。
走り回る巨体を相手にすると、どうしても遠距離攻撃は狙いが甘くなりフレンドリーファイアが怖くなる。
けっこうな被害、大怪我をされてしまったが、回復魔法で治療しきれる程度だったので良しとしよう。
「一応、今と同じレベルの戦闘ならもう一戦いけるんだよな」
「はい。味方の消耗は小さいです。創様の回復魔法は温存されていますし、同レベルの被害までなら許容できるでしょう。
ただし、あれ以上の被害が出た場合、回復が追い付かない危険性があります」
戦闘そのもので取り返しの付かない被害など出ていないが、消耗はしている。
怪我の方は大丈夫だ。全員全快している。
ただ、魔力の消費がキツいことになった。
というのも、癒術部隊の魔力が尽きたのだ。こればかりはどうしようも無い。
魔槍部隊の2人が腹や胸のあたりを大きく抉られたうえに、他にも2人が骨折してしまった。治療に必要な魔力の量が多く、すっからかんになった彼らはここでリタイアだ。すでにカードに戻している。
なので、治療手段は俺のスペルカードしか無い。
回復魔法関連のカードは頑張って増やしているが、多様化というか種類を増やすことにも意識を向けていたため、重傷者が3人以上出ると厳しいものがある。
保険となる癒術部隊が機能しないとなると、相応のリスクを背負うことになる。
死んでもカードに戻してまた召喚すればいい、などとは考えていない。そうやって仲間を人間ではなく駒として扱えば、俺は間違いなく屑に成り下がる。
人として生きるという事は、越えてはならない一線を持つ事だと、俺は思う。
敵対者なら構わない。だが、身内に対して冷酷であってはいけない。
いざという時に死んでくれと頭を下げるのはしょうがないが、「あとで生き返らせればいい」などと命を軽く扱いたくない。
「夏鈴。一度後方に下がって、回復を待とう。もう1頭も、万全の態勢を整えてから挑めばいい」
「あの、創様。それを手駒に加えれば、解決する問題では?」
状況を確認した俺は、安全策を提案する。
タイラントボア退治は今日中に行わなければいけないほと逼迫した話でないのだから、時間を有効に使うべきだと判断した。
癒術部隊の魔力の回復を待ち、万全の体制で挑めばいい。
俺はそう考えたのだが。
夏鈴はそんな俺に困った顔で、タイラントボアの方を指して言う。
「こちらにタイラントボアが1頭付けば、もっと楽に勝てるのでは無いでしょうか?」
……ああ、そうだね。
相手はタイラントボア1頭。
こちらはタイラントボア1頭を前衛に俺たちが支援に回るなら。壁役として活躍できるのがいるのなら。安全性は疑うべくもない
凛音達も優秀かつ凶悪な前衛が1頭いてくれれば戦いやすいだろうから、今よりは被害が出ないはず。カード化すれば意思疎通できて連携もしてくれるようになるから、即戦場投入でも問題は無い。
最後のは雌で牙が短いらしいから、もうちょっとマシになるかな?
うん、大丈夫そうだ。いける、いける。
『タイラントボア(雄)』:モンスター:☆☆☆☆☆☆:大:3ヶ月
タイラントボアの雄を1頭召喚する。タイラントボアは、魔力を扱い、牙や毛皮を硬化する魔物である。嗅覚に優れ、動きは素早く、泳ぎも得意で、人間が逃げ切ることは不可能だ。大きな岩をも砕く突進は獲物を逃れ得ぬ死へと誘うだろう。
タイラントボアは家族単位以上の群れを作らず、基本は単独行動を行う。しかし単独であっても、雑食で大食らいのタイラントボアが出現した地域は、全てを食い荒らされると言われている。
大丈夫だよな?