6-13 槍と猪
教えられた場所は、神戸町や本巣より、もう少し北にある山だった。
俺が神戸町に来るときに通っている道よりも西寄りで、帰りがけの駄賃に戦っていけるようなところである。
ああ、だからゴブニュート村にも来たんだ。
相手も餌を食べられたとはいえ追い払われたわけだし、まだ行っていない場所を試したとか、そんな話か。
村の辺りも奴らの行動範囲なわけね。
タイラントボアの住処と村の距離は、直線で10㎞ぐらい。
山の間で、慣れない人間が荷物を持っているなら半日かかる道のりだけど、身軽でデカい奴らなら1時間とかからないだろうな。下手すると10分ぐらいで踏破されそうだ。
他にも被害が出て良そうだけど、そこは俺が責任を持つところじゃないから。
細かい事情は考えない。
俺は俺のやりたい事に集中しよう。
慣れた山道から慣れない山道へ。
山道から獣道へ。
村で戦った時のメンバー、三人娘はデフォルトとして終と魔剣部隊、魔槍部隊、魔術部隊、癒術部隊を連れて歩く。
山の草木をかき分ける必要が無いほど、連中の後を追うのは簡単だった。
野生動物ではないタイラントボアは、とにかく巨大だ。移動するだけで周囲の木々をなぎ倒すし、その痕跡をどうにかする手段も無い。
倒れた木々を追っていけばすぐにその姿を見付けることができた。
ただ、俺たちの姿を確認する前から臨戦状態だったようである。
猪は鼻が良いというので、俺たちの持つ金属の匂いに反応し準備を整えていたのだろう。
「散開ー!!」
姿を確認したと言うより、姿を現したと言うべきか。
木々が倒れる恐ろしい音を立てながらタイラントボアが突進してきた。
俺は慌ててバラバラになって逃げるように言うが、魔槍部隊の面々が不敵な笑みを浮かべ、固まって前に出た。
「無茶だ!」
「ファランクスには程遠いですが、これが槍使いの意地って奴です!」
密集した彼らは、槍の柄をつま先のアタッチメントに固定。衝撃を地面に逃がしつつも自分を固定台にして、その穂先をボアの方に向けた。
たった5本の槍衾。
槍の長さはたった3mしかないので、ぶっちゃけ見た目がしょぼいけど。
それでも敵の突進を迎え撃つ人の壁が出来上がった。
タイラントボアの毛皮に槍が通じなかった一番の理由は、ゴブニュートの腕力の問題だ。
槍の強度と鋭さを考えればあの毛皮も貫けてもおかしくは無いのだが、ある程度以上の強度を持つ物が相手だと、どうしても突き刺すために腕力が求められる。
武器の性能に依らない部分での工夫が必要で、彼らはそれを大地に求めた。理論上、突進の勢いがあれば槍は刺さるはずである。上手くすればさらに強固な頭蓋骨さえ貫通するだろう。
しかし、それには代償が求められる。
突進の勢いを大地に逃がすとしても、それで突進が止まることは無いから、部隊員は大型トラックに撥ねられた小学生のごとくぶっ飛ばされるだろう。
ほぼではなく、間違いなく重傷コースだ。下手すれば死ぬ。回復魔法のリキャストタイムは過ぎているので用意するけど、蘇生魔法はまだ無いんだけどな。
下手な介入はみんなをより危険に晒すだけ。
俺は手出しできず、ただ死なないでくれと祈る。と言うか、余所に行け。彼らの覚悟が無駄になるが、大怪我されるよりは心臓にいいから。
だけど俺の祈りは届かない。
タイラントボアは槍衾に突撃している。バラバラになって逃げている俺とか他の仲間ではなく、こんな時に限ってそこを狙う。
そして――槍と猪がぶつかった。