6-12 情報提供
みんなの持っている俺への認識は、「猪退治の名人」で「魔法使い」なのだ。
つまりタイラントボアのようなアンカマーと戦う戦闘能力があると思われていない。
俺個人を見れば間違ってはいないが、別に一人でやるとは言っていない。
ちゃんと人数を揃え、複数人で戦うと言ってみたものの。
「うーん。その人たちだけに任せるってのは無理なのかい? ほら、創君が危険な場所に向かうというのはね、おじさんの心境的に気が進まないんだよ」
本当に心配されている。
困ったことに、俺を引き留めているのはほとんど善意からだ。
町の人の怪我を治す手伝いをして欲しい、そんな考えもあるだろうが、俺が心配だという彼の言葉に嘘は感じない。
神戸町とは月に1回か2回だけだが長い付き合いで、確かに顔見知りも多い。
顔を合わせたら世間話をする程度の仲で、俺の方も身内特有の気やすさや親しみを感じている。
向こうにしてみても、もしかしたら親戚の子供程度の感覚で付き合ってくれている気がするんだよね。
だからこそ、危険に立ち向かう事を止められる。
大きな被害が出たのだから、危険度の判定はかなり厳しめだというのも止める理由だ。
すでに1頭倒しているというのは、まだ教えられない話だ。
もしかしたら素材の供出を求められるかもしれないので、これを教えてしまうのは躊躇われる。教えるのは、残り2頭を倒した後だ。その時の反応で決めたいと思う。
神戸町のみんなを信用していないわけではなく、彼らの人間性、善性を理解しているからこそ、教えられない。
彼らはあくまで美濃の国の住人だからね。正しい国民は、国の為に正しい判断を下すんだよ。善い人だからこそ、お国の為に頑張るんだ。
根無し草みたいな俺とは違う。
まぁ、タイラントボアの居場所を教えてもらえないのは仕方がない。
情報提供を受ける事は諦めて、自分で探すとしますかね。
無理を言って困らせるのも悪いし、相手を説得しきる手札を見せられないのなら、頭を下げてこの場を収めよう。
手間はかかるがやってやれない事じゃないからね。
「では、残念ですが、諦めるとします」
「……その顔で諦めたと言われても全然説得力が無いぞ。うちの悪ガキがイタズラしている時と同じ顔をしてる」
「何のことでしょう?」
「はぁ。下手な事をされたら余計危険だよなぁ。まったくもう」
俺が諦めると言ったら、おじさんはため息をついて白旗を挙げた。
「降参だよ、降参。場所は教えてあげるから、ちゃんと準備してから行くんだよ?」
「はい! ありがとうございます!!」
俺が諦めていない事を察したおじさんは、不意の遭遇戦にならないよう、居場所を教えてくれるようだった。
何と言うか、我がままでごめんなさい。
でも、俺ってそんなに考えが顔に出るタイプか?
普段、そんな事を言われた覚えが無いんだけど。