6-11 タイラントボアのおかわり
神戸町にやってきたが、神戸町はまるで何かの襲撃を受けたかのようにボロボロだった。
「おお、創君じゃないか……」
町に入り、なじみの飲食店に顔を出せば、そこには包帯を巻いた知人が大勢いた。
店のオーナーは無事だが、客の半数は怪我人だ。回復魔法の使える人がいたとは思うけど、手が足りないんだろうな。
彼らは俺を見るとどこはほっとした表情を見せたが、雰囲気に疲れがにじみ出ている。
状況は相当悪いようだ。
「何があったんです?」
「海の向こうのモンスターさ」
これは聞いた話だけど、海の向こうにある大陸にはダンジョンがあって、そこからモンスターが発生しているらしい。
で、そういったダンジョン産のモンスターは野生化したモンスターよりも強力で、備えの無い街が襲われればこうやって大きな被害を出すという。
人は奴らの事を「望まない来訪者」アンウォンテッドカマー、略してアンカマーと言っている。
本当なら日本海沿岸部の国が迎撃をしているんだけど、ちょっと前に越前の国の主力の一人がやられたらしく、討ち漏らしが出てしまった。
もともと海岸線は広いので討ち漏らしが出るのはしょうがないんだけど、今回は内地でも討伐に何度も失敗し、ここまで侵入を許したのだという。
神戸町の場合、最近規模を拡大した畜産業のおかげで人的被害は少なかったものの、購入した家畜の一部を食い荒らされ、大損害を出している。
「これで創君からもらった米と麦が無かったら、餓死者が出たかもしれないなぁ」
不幸中の幸いというか、まだマシと言っていられるのは穀類の生産が十分だから。
畑は荒らされたが
家畜の数が減った事もあるし、すぐに飢えることは無いようだ。
俺は怪我が酷い人の治療をしつつ、聞いた話をまとめる。
神戸町には大きな被害が出たし、何人もの死者が出たらしいが、致命的とまではいかない。
時間はかかるが、自力の再建は可能という事。
襲ってきたモンスターは、俺たちが討ち取ったタイラントボアで間違いない。
ただし数が問題で、もう2頭、どこかにいるらしい。
俺の希望は叶ったわけだが、被害を出した町を見ると喜ぶこともできやしない。
最後に、重要な点。
タイラントボアが逃げた先は確認してあるので、攻めに行くことができるという事。
素材として美味しいし、ここは是非、俺が退治に向かうべきだろう。
神戸町はタイラントボアがいなくなれば脅威がなくなりハッピー。
俺たちは優秀な素材が手に入ればハッピー。
誰も損をしない、とても合理的な話である。
「いや、創君に任せるのは……。
出来ればしばらく、治療行為に専念してもらえないかな。もちろん、報酬は払うよ」
「いえ、早く脅威を払う方が重要では?」
「君はまだ若い。こんなところで命を危険に晒すことは無い」
それは神戸町の人を説得できれば、という但し書きが付くけど。
みんな、俺ではタイラントボアを退治できると思ってないね。