6-9 素材かモンスターか
カードモンスターにして戦力にするか、素材にして既存の戦力を強化するか。
これについては、真っ向から意見が分かれた。
「あの毛皮は魔力によって強度を増す特殊なものだ。加工して鎧にできれば、かなりの戦力向上が見込める。
やはり、素材にすべきだ」
「あの戦闘能力をそのまま運用した方がローコストです。見た目のインパクトもありますから、防衛戦力として優秀なのは間違いありませんし。
ここはモンスターとして運用すべきかと」
「ねー。またあれが来た時に、正面からおんなじのをぶつけた方が早くない?」
「2頭以上出てきた場合に備え、みんなが戦えるだけの装備を作りたい!」
「装備なら他で補ってもいーでしょ?」
「あれを防具にし装備して進化すれば、我らはまた一段上の存在に成れるのだ!」
「任せちゃえばいいじゃん」
「何を言う! 我ら魔剣部隊、剣を持ち最後まで主の為に戦う所存! 他の何かに戦を任せる気など無いわ!」
「えー。でもでもー、主にとっての最善は、アンタらが戦う事なのかなー?」
「数は力だ! それに、我らはすでに勝利している!」
ある程度、忌憚のない意見を聞きたいと思い俺と夏鈴は発言を控えることにした。
俺たちが発言すると、それが是である事になりかねなかったからだ。
まずは本心からの意見が聞きたかった。
そうして始まったのは、終や魔剣部隊、魔槍部隊といった近接戦闘組による「素材推し」の意見と。
凛音や魔術部隊による「モンスター推し」の対立である。
どちらの意見にも理があり、益がある。ただ、視点が違うだけである。
俺が思っていた以上に、みんなには“自分”があり、個性があり、それぞれの考えがある。
カードから召喚されたモンスターとか関係なく、既に彼らはユニークなのだろう。
一枚のカードでは表しきれないキャラクターを持って生きている。
そんな彼らをカードで縛るのは心苦しいが、「カードモンスターでいた方が強くなれるから!」という理由で「解放されたくない!」と強く主張するから、俺たちの関係はそのままだ。
「技術の進歩は一足飛びにはいかないんだ! 素材!」
「頼りになる前衛が欲しいのよ! 今回私の出番が最後だけじゃない! モンスター!」
意見の食い違いから、終と凛音が正面から睨み合い、怒鳴り声をあげる。
他のゴブニュート達も一触即発といった雰囲気だ。
場の空気は最悪である。
そろそろ俺が意見を取りまとめなくてはいけない。
「今回は、素材で。
前衛に関しては、草原大狼の進化に期待してくれ。次の進化がもうすぐだから」
みんなの意見をまとめ色々と考えたが、俺と夏鈴の意見は一致し、素材を選ぶこととなった。
勝利した終達は勝ち鬨をあげ、凛音たちは残念そうにそっぽを向いた。
あとで何かフォローした方がいいかな、これは。
このあとすぐに化け物猪の素材をカード化し、コピーを画策したけど。残念ながら、星の数は4つ。本気でコピーするには荷が重いという結果であった。
こいつの毛皮と骨は魔力により強度を増す特殊でハイレベルな素材なので、コピーが難しいのは仕方がない。そこはもう、素直に諦めるしかなかった。
ただ、素材として優秀という事は製品に加工してしまえば有用なものができるという図式が成り立つので、そう悪い話でもない。
あとは俺たちに使いこなそうという気概があるかどうかだけだ。
その、できた装備もコピーや強化が大変なんだろうけどね。
すぐに代替わりするような役に立たないものではない、長く使える装備ができると思えばいいだけだ。
化け物猪は強くて厄介だけど、素材として見るとかなり美味しい。
防衛戦では相手をしたくないけど、積極的に狩りに行く分には悪くない敵なのかもな。
今度、神戸町で同じようなモンスターの目撃情報が無いか確認しておこう。