6-7 毒の合成
戦いが長期化すると、終のスタミナがヤバくなる。
全力戦闘、10分。
さすがに戦い続けるのではなく途中で他の仲間と交替しながらとはいえ、このレベルの敵を相手にすると心許ない数字なのは確かだ。
「魔力は活力になる。賦活せよ、回帰せよ『スタミナ・ヒール』」
なので、魔法による体力回復を行う。
『スタミナ・ヒール』は疲労状態を回復させる魔法だ。
疲労とは乳酸が筋肉に溜った状態を言うらしいので、乳酸の除去と栄養補給を高速で行うイメージで『ヒール』を強化してみた。
あとは筋肉の硬直や断裂の回復効果もあって、自分にも使ってみたが、なかなか使い勝手の良い魔法に仕上がった。
現在のストックは2枚だけなのだが、大事に使いたいなどと言わず、ガンガン使う気でいるよ。じゃないと仲間が死ぬかもしれないからね。
当たり前だけど、戦闘における優先順位一番は「自身の生存」だ。
で、次に仲間の生存。
敵を必ず殺す事。
施設や道具の保全はその次だ。
村の壁を壊されたくなくて、あの化け物猪を森に誘い込んでもらったけど、それは壁が壊れたら昇っている自分たちに被害が出るから。
下手すれば、壁の上にいるメンバーが一網打尽になるのだ。だから森の方に誘導してもらった。
森の中では、魔剣部隊に続き魔槍部隊に終を合わせた11人が必死に戦っている。
剣も槍もあいつの毛皮に通じないので、全員、ケツの穴を狙って攻撃する。
抜くのに失敗した槍が刺さりっぱなしで、アレを根元まで押し込めれば胃袋を貫通し止めになりそうだというのに、暴れまわる猪の前に、そこまでする余裕を作れないでいる。
正面から攻撃するというのは論外で、奴の前に立とうものなら体重と膂力の差でいとも容易くボロ雑巾に変えられることは間違いない。
あの猪の牙が体に刺されば、人間ぐらい簡単に死ぬだろうな。正面は絶対にダメだ。自殺と変わらない。
何か支援する方法は無いかと思うけど、煙球シリーズは相手が動き回っているので効果が薄いだろうし、狩りゲーのように毒生肉などを使ったところで今は食べないだろう。
攻撃魔法を使う事も考えたけど、それをするなら下に降りて戦う必要がある。人にやらせている身分で言っていい事とは違うが、リスクが大きすぎるので却下だよ。
白兵戦闘も同じ理由でやらないよ。それは大将である俺のしていい事じゃない。
「いい加減、くたばれぇぇーーっ!!」
終が裂ぱくの気合と共に、腹を切ろうとする。
相手の突進に動きを合わせ、方向転換の隙を上手くついての一撃だった。
しかし普通の動物ならば柔らかいはずの場所だが、相変わらず非常識な金属音を鳴らし、剣は通じず弾かれた。
足への一撃は特に足りない。毛皮と肉と、骨と。どれも届かない。
背中に続いて腹も駄目。顔面については言うに及ばず。眼球を狙うよりはケツの穴を狙った方が手っ取り早い。
武器を失った誰かが目潰しを行ったが、なぜか効いていない。
奴の眼球には保護膜でもついているのだろうか?
「あ。だったら武器に塗ってしまえば!」
今すぐみんなを強化する事はできない。
だけど、皆の武器に塗る毒などを用意する事なら出来る。
手持ちにあったブツと樹液を合成し、即興の補助アイテムとした。
「武器に塗るものを用意した! 両手が空いている者が取りに来い!」
あの猪は頭がいい。
俺は何を作ったのか具体的な説明を行わず、臭いのキツイ煙球と、お約束と言われるネタアイテムを無手のゴブニュートに渡した。
これを塗ってからケツの穴に突き刺せば、きっと鬼のようなダメージを与えられるだろう。
次、この村に来たら、一目散に逃げだしたくなる最悪をプレゼントしよう。
いや、次など無いか。この化け物猪は、ここで確実に殺すのだから。