6-5 化け物猪
環境の変化ってのは、徐々に徐々に移り変わり、分かり難かったりするものだけど、今回の変化は非常に分かりやすかった。
カンカンカンカン!! カンカンカンカン!!
9月の終わり。
クソ暑い夏も終わり、そろそろ涼しくなってきたという頃。
ゴブニュート村にいた俺に、「敵襲来」の鐘の音が聞こえた。
「4回! 北か!」
鐘の音は、鳴らし方によって方角が分かるようになっている。
東西南北それぞれにつき、1~4回、連続して音を鳴らす事になっているのだ。
そして今回は4回連続。北から敵が現れたという敵襲警報である。
警報を聞いた非戦闘員のゴブニュートは南のシェルターに向かい、俺や戦える者はすぐに村の北、防壁のある所まで駆けていった。
村の周りはレンガの壁に覆われている。
高さ2mはある村の壁、その内側には足場が組んであり、そこに俺たちは集合した。
そうして集まった俺たちが見たのは、通常よりもかなり大きな猪であった。
これまで狩ってきた猪は、大きい物でも体高が大体1m弱といったところだ。それが、どう見ても2m、俺の身長よりも大きい。
生物としてあり得ないサイズで、これだと体重は1トン超えではないだろうか?
口の両端から除く牙は恐ろしいほど伸びていて、こちらを突き刺さんばかりの禍々しさすら感じる。
明らかに異常な個体であり見張りをしてた者が慌てて警報を鳴らしたのも頷ける。
「終、凛音! 壁に突進させるな! 夏鈴は前衛を用意するから指揮を頼む!」
俺は『ゴブニュート魔剣部隊』――『ゴブニュート鋼鉄剣士隊』の進化カード――を召喚し、夏鈴に指揮権を委譲する。俺よりも適任だ。
「散開し、森へ行け! 全速前進!
創様、毒煙球を壁付近に! まずは臭いで追い払います!」
「了解!」
夏鈴はあの猪の異常個体を村から離すべく、矢継ぎ早に指示を出す。
魔剣部隊は森に散り、注意を引く。俺は奴と村の間にある壁に向け毒煙球を使って、こちらに来ないようにと祈りを捧げる。
この場合、壁の上から攻撃を仕掛けて猪を追い払おうとするかどうかだが、下手に刺激すると猪はこちらに突撃しかねない。
ヘイト管理か脅威度判定か、それがどのように左右するか分からない現状は、何をするべきか判断に迷う。
「創様。あの牙から察するに、敵は攻撃されれば排除に動く性格と思われます。壁の上からは支援に限り、直接攻撃を控えてください。
終さんは煙を迂回して下に降りて、攻撃に加わってください。細かい事は現場の判断にお任せします」
「……分かった。ここから攻撃はしない。壁を壊されたらたまったものじゃないからな」
俺が次の行動に出ないでいると、夏鈴が俺の動きを止め、終には迎撃に回るよう指示を出した。
残念ながら、俺に支援系のカードはあまりない。回復系のスペルカードはあるけど、それぐらいで防御系のスペルは無い。畜生。
終の方は普通に戦って勝とうとしている様子で、武具を装備しそのまま下に向かっていった。
残る凛音は、ここで待機らしい。
下のメンバーが失敗した時の備えだ。
彼らが死んでしまったり、ヘイト管理に失敗した場合はまたこちらに来るだろうから、その時は俺と二人で攻撃魔法を使う事になる。
こうして非常に緊張感のある時間が始まった。