6-2 ニューマン①
ニノマエの連中の報告を聞き、出歩かなければしばらく大丈夫だと俺は判断した。
堀井組の方は、あのテルって男をそのまま帰したので、こちらを過大評価して、相応の戦力を整えるために時間を費やすだろう。
ニノマエの連中と俺の関連性はたぶん分からないはずだから、そっちから情報を抜き取りつつ備えれば安全だろう。
他もまだ様子見だよ。
で、もしも堀井組が攻めてきたと仮定して、その時に戦力の要になるのは終である。
実は人間じゃ無かったとか、人間を辞めただとか、そもそも召喚モンスターだった終は、俺のカードモンスターとなり、『フリーマン』から『ニューマン』になっていた。
……これでもしも次の進化があれば、『ワールド』になるのかね。コスト激重のくせにあんまり強くなくって、破棄してマナに換えるしか使い道の無いクソカードとか。
『フリーマン』が『ニューマン』になったからって、さすがにそれは無いか。
事の起こりは、終に子供が産まれてしばらくの事であった。
「ご主人! 奏が、奏が! 大きくなった!!」
「は? 大きく? 何かよく分からんが、見に行くよ」
「すまない!」
終はゴブニュートと結婚し、子供を儲けていた。でき婚なので順序は逆だが。
で、その子供に奏という名前を付けて、とても可愛がっていた。ゴブニュートの赤ちゃんは俺も初めて見たので、記憶にある人間の赤ちゃんとほぼ変わらないんだな、と感動した覚えがある。
子供が産まれて数日後、終が血相を変えて俺の所に来た。
「子供が大きくなってしまった」と言って。
さすがにその「大きく」というのが普通に成長するのとは全く違う何かというのは察する事ができる。俺はとにかく自分の目で確認しないと状況が分からないから、終に誘導され彼らの家に向かった。
「ごしゅじん?」
そこで俺が見たのは、赤ちゃんからいきなり保育園児サイズになった奏であった。
昨日まで「おぎゃー」と泣いていた赤ちゃんがいきなり3歳児になった。そりゃあ終も驚いて俺を呼ぶわけである。
まぁ、俺もどうしてこうなったかは知らんけど。
「なぁ、ご主人。奏は大丈夫なのか? なんでいきなり大きくなったんだ?」
「それはもう、母親の特性を引き継いだから、としか言えないな。
ほら。カードのゴブニュートって、増える時はいきなり大人の姿で増えるだろう? 奏の場合は調のお腹を痛めて産まれた子供だし、最初こそは赤ちゃんだったんだろうけど、大人になるまではこうやって、一気に成長していくんだろうね。
俺も初めての事だから断言はできないけど」
俺のカードモンスターでは無いゴブニュートは、5人ほどいる。彼らには普通に生活し、終たちのように自然に増えてもらうことをお願いしてある。
しかし終の妻である調は、まだ『ゴブニュート・クラン』の一員であった。そこから考えると、奏の急成長は母親に引っ張られたと見ていい。
ただ、問題が一つ。
急成長は大人になったら止まるのか、それともそのまま急成長し続けるのか、である。
カードモンスターから産まれたのにカードモンスターでは無い事で、奏の仕様にバグが生じている可能性があり、老衰まで急成長し続ける危険性があった。
何も知らない、考えついていない状態ではまともな判断も下せないだろうから、そのあたりも含めて俺は終に説明した。
予想される、その打開策も含めて。
「なぁ、ご主人。俺も、ご主人のカードモンスターに成ることは可能か?」
そして終は決断したのである。
人間を辞めることを。