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5-17 蠢く前に消えた誰か

「クッソフザけんなよ!! ぶっ殺すぞ、テメーら!!

 ……畜生、マジでこのまま放置かよ」


 某国某所。底には一人の少年が捕らえられていた。

 中肉中背の体、その手足に大きな鉄の輪っかをいくつも付けられ、鎖などに繋がれてはいなかったが、その重みで動けないでいる。

 歳は15であったが、癇癪をおこし口汚く暴言を吐く姿を見ると、もう少し幼く見える。


 魔法を使えば脱出できるかもしれないが、下手に暴れれば今いる建物を壊し生き埋めになるし、そもそも鉄の輪っかをどうにかしないと動くに動けない。

 細かい魔法の制御が苦手で大きな魔法を使うことばかりやっていた少年にとって、この状況は簡単に覆せない。


 こうやって暴言を吐けるのは、まだ掴まって日が浅いというか、初日だからだ。

 飲み食いもせずに人が暴れられる期間というのは、存外少ないのである。





「腹が減った。喉が渇いた。なんで俺がこんな目に……。

 せっかくチートで異世界転移だっていうのに」


 この少年は、この世界にいつの間にか居た。

 直前どころかそれ以前の記憶が曖昧で、知識的な記憶は引き出せるが、エピソード的な記憶がほぼ思い出せない。

 分かるのは、自分が21世紀の日本人だったという事ぐらいだった。


 そして少年は、強大な力を手に入れていた。

 それはこの世界に適応するためのギフトであったが、そんな事は分からない。ただ、強力な魔法を使えるという事しか理解できていない。

 力の意味も何もかもを理解できていなかった少年は――暴君となった。



 最初こそ海の向こうから迫り来るモンスターと戦い、尊敬されていた。

 慕う者、憧れる者、従う者、奉仕する者。

 そういった連中が現れると、最初こそ戸惑っていたが、次第に当たり前と思い増長していく。


 本人にその気は無かったが、一つの状態が普通になると、そこから喜びが消える。

 自分は凄いのだから、もっと扱いを良くするべきだと思ったわけではない。

 凄いと褒めてくれた喜び。チヤホヤされる快感。慣れることで失った、ちょっと前まであったそれ(・・)を得ようと、以前のように(・・・・・・)扱って欲しいと思ったのだ。

 周囲が変わったのではなく、本人が変わったという自覚を持てなかったのだ。



 その変化を始めた当初こそ、周囲は何とかしようと頑張った。

 しかし前と同じ(・・・・)では、感動が無い。

 前より上(・・・・)にしないといけない。


 際限の無い待遇改善が破綻するのは当たり前だ。

 得られるリターンとコストの釣り合いが取れなくなれば、人心が離れていき、実際に待遇が悪くなる。


 それでも初期よりはずっといい待遇をしていたし、彼に自覚を促すように努力もした。

 その願いを少年は振り払い、話し合いで解決しようとした人を何人も手にかけてしまった。

 その願いとは逆の自覚をしてしまったのだ。「自分は特別なのだから」という、最悪の方向へと。





 その後の話は簡単だ。

 少年は寝ているところに薬を使われ、動けなくなってこの有り様である。

 直接殺しはしないが、それ以上に残酷な、飢餓と断水による衰弱死をさせると決められた。


 水は魔法でなんとかなるが、飢えだけはどうにもならない。

 普通の魔法使いはカードから無限にパンを生み出すことなどできないからだ。


 輪っかを外す人手、召喚魔法の一つでも使えれば話は変わるのだが、少年にそういった事ができないのは周知の事実である。


 この世界の魔法を覚えようとしなかった、研鑽を積まなかった故の結実。

 土台となる何かがなければ、土壇場で何かを身につけることすらできない。

 よって助かる手段は、無い。





 数日後、どこかで英雄が魔物に殺され死んだという話が流れたが、このあたりではよく聞く話。

 すぐに人の記憶から消えた。

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