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5-12 男一匹、一人旅⑤

 テルは最小限の教育しか受けていない無学の身であるが、頭が悪いわけではない。

 地元でいくつもの農村を見てきたテルには、目の前の町の人口と畜産業の規模に、大きく食い違いがある事に、すぐに気が付いた。


 これが「農作物を輸入している」町であれば、テルも驚かない。

 だが、神戸町は「農作物を輸出している」町なのだ。

 ニノマエという行商人が嘘を言っていなければ、彼の言う「神戸町」が目の前の「神戸町」と同じであれば、こんな規模の畜産業などできるはずがないのだ。



 畜産業とは、存外穀物を消費する。

 餌には草を食わせるだけでいい、などと言うのは小規模な畜産業の話である。

 大規模な畜産を行うには、どうしても餌に穀物を与える必要があり、それで畑仕事がいっぱいになり、ちょっとした不作なのに家畜を食わせられなくなるほど飯に困窮するのが常である。


 少なくとも、テルが見知った畜産業の村はそうであった。

 これでは冬を越せないと、泣く泣く家畜を解体していた人たちの姿が頭に思い浮かぶ。


 食料の大規模化・大量生産には家畜が有効であるのは間違いないが、それでも限度というものがある。

 機械化でもしない限り、ありえない光景だ。



「機械化? そうか? いや、そんなはずはねぇ」


 テルは神戸町にそういった機械、コンバインなどの存在が思い浮かんだが、それは無いとすぐに妄想を振り払う。

 古い書物にある複合農作業機(コンバイン)は、失われたものの一つだ。農民が「コンバインってのがあればもっと楽に生活できるのかね」と口にする、なんだかよく分からない凄い物の代名詞でしかない。こんな場所にあるはずがない。


 人力ではどうやったって限界があるはずなのに、生産力の底が見えない。

 なぜ、ここまで食料にゆとりがあるのか?

 テルは困惑しつつも、自身の仕事をこなすため、聞き込みを開始した。





「え。ハジメおにーちゃん? ぼく、しってるよ! すっごいの!!」

「そうなのかい? じゃあ、おじちゃんに教えてくれるかな?」

「いーよ!」


 テルは最初、大人を中心に創の情報を集めていた。

 飯屋で店の従業員や客に、それとなく話題を振るのだ。


 だが、結果は空振りだ。誰も何も教えてくれない。



 そうやって人の反応を見ると、創の情報は意図して隠されているというのが何となく理解できた。

 知っているだろう事は間違いない。だが、言わない。教えない。むしろそういう話題を振ると、逆にテルの素性を聞きに来る始末だ。


 物理的に、暴力的に聞き出そうとするなら可能だろう。

 だが、一般人に暴力で話を聞くというのは、テルの矜持が許さない。創の様に身内を殺した奴となれば話は別だが、何もしていない民間人を相手に暴力を振るうのは駄目だとテルは考えている。

 だから、口止めしてもすぐにその事を忘れそうな子供を選んで話を聞く。ちょっとお菓子を与えれば簡単にいろいろと教えてくれる。



 テルは自分の中でいくつもの情報が噛み合ったのを理解した。


「ニノマエの連中も関係者とはな」


 ニノマエとは「2の前」で「1」だ。

 漢数字表記の「一」は「ニノマエ」であると同時に「ハジメ」とも読む。


「あんにゃろう、ただの魔法使いじゃあねぇ。ギフト持ちか」


 猪退治の名人。

 なんか凄い魔法使い。

 ここ、神戸町に酒やハチミツなど、色々持ち込んだ。

 短期間で資金を調達し、商売を始めた。


 やっている事は地味だが、それでも全部見れば異常性がよく分かる。

 テルは創の尻尾を掴む事に成功した。



 ……成功してしまったのだ。


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