5-7 尾張の国の警察④
警察は、様々な犯罪についての捜査を行う。
中には行方不明事件の捜査というのもあるのだが……。
「堀井組のチンピラ大量失踪事件で、捜査届か。無視しておけ。何か言われたら「現在捜査中です」とだけ答えておけばいい」
「いいんですか?」
「当たり前だろう。「仲間が旅人を拉致しようとしたら返り討ちに遭いました。行方が分かりません」なんて言われて探しに行く方がおかしい」
「まぁ、そうですよね」
「そんなどうでもいい事より、こっちの窃盗の調査の方が先だ。下手すりゃ外国人犯罪者の案件だぞ。売却先の裏を取ってこい」
「ハイ!」
事件捜査をしないと言い切ることもある。
主に犯罪者の後始末関連で、被害者側の訴えであるならともかく、加害者側の訴えなど聞く理由が無いと突っぱねたりする。
名古屋の警察に創を襲撃した堀井組から捜査要請があったが、こういった事件を担当する部署の部長は、どうでもいいと切って捨てた。
「まったく。こっちは善良な市民のために働いてるんだっちゅーの。暇じゃねーんだよ」
警察は人手不足のため、かなり忙しい。
目の前の仕事を熟さないといけないこともそうだが、先を見据えた人材育成も行わなければいけない。
そうなるとどうしても仕事に優先順位を付けて、先に終わらせるものと後にするものが出てくる。事件の重要性などを考慮し、殺人事件などの犯人を放置できない件を優先する。
だから堀井組のような反社会的な組織の被害など知ったことでは無いと突っぱねるぐらいの事は平然と行われるのだ。
一応、犯人(?)と目される人物は尾張から出て行き、美濃の国に入ったという記録が残っている。
大量殺人を疑っていい話ではあったが、次に国内へ入ってきた時、関所で詳しく話を聞かせて貰えばいい。
それに、状況的にはただの自己防衛、正当防衛でしかないのだ。そういう意味では事件性がないので、本当に話を聞かせて貰って終わりであろう。
これを過剰防衛という事は、まず無い。
1人2人から襲われたというならともかく、数十人から四六時中襲われ、身を守ろうとするのに過剰も何も無い。
堀井組の事務所にカチコミをするならともかく、襲ってきた連中を返り討ちにするぐらいなら許容範囲であった。
堀井組も馬鹿では無い。
この件を明文化させることが目的であり、創を注目するように仕向けることこそが目的であった。
捜査が行われないというのは、彼らにとって想定の範囲内である。
数十人に襲われ、それを返り討ちにできる一個人。
普通であれば、誰だって手に入れたいと注目するだろう。
警察が行方不明事件を捜査しないのは織り込み済みで、それでも創を手に入れようと動くことを期待しての行動であった。
もっと細かく言えば、創を手に入れようとした尾張の政治家が手酷い目に遭えばいいと思ってのことであったが……。
「あ、これ、捨てといて」
「はーい」
堀井組などどうでもいいと、この部長は訴えそのものを無かった事にした。
尾張の国、その上層部に、創の情報は伝わらないのであった。