5-4 尾張の国の警察①
尾張の国の治安維持機構、警察組織は仕事をしないわけでは無い。
堀井組と敵対関係にあるため、仕事が追い付かない状態にあるのだ。
「部長! またモヒカンが暴れていると!」
「またかよ!」
「部長。新木さんですが、警察に協力する気は無いと言って……」
「そうか、すまないな」
「いえ。本官は引き続き捜索を行います」
堀井組との確執により、手が出せない部分が多くあるのだ。
尾張の国の政治家は、まず一定ラインの技術を維持するために、中央の整備に全力を注いだ。
その成果として、名古屋では発電や無線といったいくつかの技術が未だに維持されており、他よりも豊かな生活が約束されている。
ただ、そのしわ寄せは全て地方に行ってしまった。
名古屋以外の都市は高い税金に見合う行政サービスが行われておらず、多少の電気設備はあるものの、越えがたい格差に不満を募らせている。
堀井組はその格差から大衆を守るために生まれた組織なので、「みかじめ料」という独自の税金を徴収するものの、それに見合った働きをしている。
問題を起こす客から店を守るとか、何か犯罪行為があれば犯人にリンチという罰を下すなど、警察以上に大衆を守っている。
国の法に拠らず、独自の法で動きはするものの、大衆にとっては国以上に頼りになるのが堀井組なのだ。
……裏では堀井組が警察組織に対し工作を行い、警察が民衆を守れないようにと動いているのだが、そんな事は表に出ない話でしかなく、よしんば警察がそれを公表しようと誰も信じないといった状態であった。
そんな大変な状態にある警察だが、つい最近、とある旅人の手により状況が少しマシになった。
一部の地域でチンピラが、モヒカンをした堀井組の下っ端が大量に減ったのだ。
実際には創を捕まえようとした堀井組がモヒカンに集合をかけてモヒカン大移動とでも言う状態になったため、一時的に密度が偏っただけなのだが、それでも警察にとって好機であることに違いはない。
モヒカンの数が減った南半分の地域にある警察は、彼らに頼らずともいい、警察が信頼されるようにと行動を活発にする。
しかし堀井組の残留した連中も、それを黙ってみているわけではない。
警察への襲撃を行い、少しでも自分たちのシマを守ろうと動き出す。
この場合、守られるのは民衆ではなく堀井組の利益だ。
警察官への暴行は誰にとっても利益にならず、むしろ治安悪化を促していく。
尾張の国の南部は沿岸部であり、国にとって大切な交易の地である。
そこの治安悪化は貿易商離れに繋がるのだが、目先のことしか見ていない者にとって、いずれ訪れる未来など考慮に値せず無いも同然であった。