5-3 堀井組の男たち
「イシマツ、サブ、キチロー。本当に、いいんだな。やっちまうぞ」
「応。テッペー、頼む」
堀井組のとある事務所。
そこで三人のモヒカンが床に正座をしている。
そしてその後ろには別のモヒカンが立っており、その手にはハサミが握られていた。
彼らがやろうとしているのは、足抜けの儀式。
ここ、堀井組のチンピラ階級の彼らにとってのそれは、断髪式の形で行われる。
足抜けをしようとする三人は、そのモヒカンを組に捧げることで最後の務めとするのだ。
たかが断髪と馬鹿にしてはいけない。
彼らはモヒカンを己のアイデンティティとする教育を受けており、彼らにとってモヒカンを失うという事は、心の支えを失う事に等しいからだ。
ただ、それだけの覚悟を決める出来事が、彼らの身に起ったというだけである。
「ガキ一人を攫うのに、60人以上の兄弟が消え失せた。死体一つ残っちゃいない。
俺たちは、真実を知らなきゃいけないんだ」
この三人は、創を攫えと命じられた堀井組のチンピラである。
ただ、配置の都合で創達と直接相対することが無く全てが終わり、多くの仲間が行方不明になったことだけを知ることになった。
創達の戦いの痕は確かに存在するが、本来そこにあるべき死体が一つも無かった。
焼かれた森の一角には人がいた痕跡はあっても、それ以外が何も無かったのだ。
死体が無いという事は、仲間達は生きているかもしれない。
さすがにそこまで楽観視するほど三人は愚かではない。
仲間が殺された事は分かっているのだが、あの場所で何が起きたかが分からない。
仲間、兄弟達の最期が分からないのだ。
「墓前に添える花一つ無ぇってのは、いくら何でも哀しすぎるだろ」
男が命を賭けて戦った。
ならば、その死に様ぐらい誰かが語ってやらねばならない。
三人は、その為に組を抜ける事にした。
堀井組に居るなら、組のために働かなければならない。
ならば組を抜け、真実を求めて旅に出ようと考えた。
馬鹿なことをしている自覚はある。
アテがある訳でも無い。
どうすればいいかなんて、難しいことを考える頭が無いのは知っている。
ただ、そうしなければいけないという心の叫びが彼らを突き動かしていた。
男が三人、旅に出る。
兄弟達の想いを一身に背負い、彼らは南に向けて歩き出した。