5-2 美濃の国②
この星には、六つの大陸と、六つのダンジョンがある。
そしてダンジョンが引き起こした六つの災厄により、人類の文明は破壊された。
破壊された文明は完全に消えて無くなったわけではなく、本を始めとしたいくつもの方法で、滅びより百年以上経った今でも現在もその断片を残している。
ただ、そういった知識が残っているために人は中途半端な行動を起こし、足りない世界に絶望するのだ。
「今の世界に見合った方法が必要なのだ。
科学だけが支配する世界ではなく、魔法を前提とした新しい方法論が、必要なのだ」
魔法が現れた世界でも、科学技術が通用しないわけではない。
ただ、それまで前提としていた条件――ダンジョンも魔法もモンスターも無い世界――が崩れたため、効率が低下し、実用性が薄れただけだ。
魔法があるのだから、魔法を使った方が効率がいい部分がある。
古い科学だけにこだわる必要は無く、魔法を取り入れた魔法科学とでも言うべきモノを作り上げようとしている。
魔法科学、その第一歩が『錬金術』である。
「犯罪者として捕らえ、自分用に使おうとするからこうなるのだ。
まったく、卑しい者は考えが浅くて困る」
「然り。それに同調した警察もまた、見直しが必要ですなぁ」
大垣の市民議会。
そこでは時々、一つの話題が出る。
議員の一人、貴金属買取店を営む店長に対する嫌味で、彼が捕まえようとした「錬金術師の少年」の話題だ。
法を拡大解釈して錬金術師の少年を不当逮捕した上に逃げられたという事で、もっと他にやり様があったのではないかと部外者が好き放題に彼を罵る。
初老の店長、『金野 成樹』はこの話題が出るたびに、口を噤むしかない。
金属であれば大概の情報を見抜くことができるギフトを有する金野店長だが、失敗は失敗である。
下手に反論すればそこから更に追撃を食らうし、上手く反撃するには別の実績が必要だ。現状は黙って嵐が過ぎるのを待つしかない。
「あれ以降、彼は大垣には顔を出していないとか」
「肉の売却はもうしないようです」
「岐阜には何度か顔を出したと聞いた事がありますが?」
「ああ、それは私も聞きましたな」
議会というのは、大人数であるためどうしても派閥単位でまとまりができる。
そうなると同じ大垣の市民議会の議員と言っても、大垣全体の利益より派閥の利益を優先するようになり、結果、敵対派閥と足の引っ張り合いを繰り広げる。
金野店長や警察署長らの派閥は、錬金術師を捕まえたが取り逃がしたという事で敵対派閥から長く攻撃を受けている。
敵対派閥の彼らにしてみれば、自分たちの利益に直接は繋がっていないが、敵の弱体化という間接的な利益を貪っているわけだ。
上手くすれば警察署長の首を挿げ替え、自分たちの身内で議席を押さえたいのである。
「岐阜に何度か顔を見せているという事は、案外、近くに住んでいるのでしょうな」
「上手く接触し、こちらに取り込めれば良いのですが」
金野店長らは、この件に口を挟めない。
ただ、呪詛の篭った目で敵対者を睨み付けるだけであった。