5-1 美濃の国①
“現代”で言う所の岐阜県南半分。
“現在”で言う所の美濃の国。
そこは日本列島に数ある国の中で、総人口は50万に届かない程度の中堅国家である。
ぶっちゃけてしまえば。
流通に関しては海運の方が強く、太平洋に面した尾張や駿府、堺、武蔵方面のような国には勝ち目が無い。
付け加えるなら京である京都が日本列島で最も栄えているのだが、上を見ればきりが無いだろう。
美濃の国がこれらの国に勝てる可能性は、万に一つも無い。
逆に日本海側は軒並み酷い状態である。
時折、海の向こうよりやってくる強力なモンスターとの戦いを余儀なくされ、人類の生存圏としては最悪の部類だ。
農地はあれど、耕す人と安全が無い。戦続きで鍛えられた人材を擁するも、生産力の無さを内陸の国から支援され、ようやく国としての命脈を保っている状態であった。
美濃の国の政治家は、そのほとんどが基本的に世襲制である。
明治以降の技術レベル、全国への電報などが可能であれば選挙というシステムも機能するが、馬や人力での通信システムしかない場合、選挙というのは現実的な選択肢ではない。
それに印刷技術の劣化が激しいため、新聞を毎日刷るような事もできない。お上が情報を握りつぶす事が容易な世界では、お上に都合の良い様に情報統制もされやすい。
学校というシステムが小学校レベルまでしか教えられなくなっている事が原因とかではなく、半ば妥協なども合わさり、有力者による市民議会と、世襲政治家たちの評議会が国を動かしている。
細かい部分は市や町、村がそれぞれ自由に動いている。主に市民議会が政治を行う。
ただ、大枠を決め、できるだけ同じ方向を向いて利害を調整するように、世襲政治家の一族が市民議会の議長を務め、同時にその上の評議会の議員を兼任する。
そうやってまとまれる最大単位が今の国になる訳だ。
「噂の錬金術師はまだ確保できんのかね?」
「申し訳ありません……」
内陸にあり、中堅国家でしかない美濃の国は足りない物が多い。
食糧こそ自給、輸出できているものの、主に金属製品が少ない。もっと具体的に言えば、鉄が足りない。
この世界、中世後期のヨーロッパや江戸時代程度までいくつもの技術が後退しているが、知識が完全に散逸・失伝しているわけではないし、残っている技術や物品もある。
ただ、モンスターの跋扈という野生動物以上の「インフラの敵」が存在するため、維持しきれない面があるだけなのだ。
そういった理由から、北海道から石炭を輸入できる太平洋側の国以外では、鉄が足りないし、電気の利用も難しい。
木を燃料にした製鉄では、生産が追い付かないのだ。そして鉄の生産のために、電気の普及が遅れに遅れる。
こういった負のスパイラルから抜け出せない国は美濃に限らず、多い。
だから彼らは求めている。
通常とは異なる製鉄技術を持つ者。“錬金術師”を。