4-21 冬の話
冬の間は動かない。
主に仕込みの期間と割り切る。
ただ、冬って奴はやる事が非常に少ない期間だったりする。
農作業に割り当てられていた連中の手が完全に開くため、人手が余っている状態になるからだ。
村にいるゴブリンやゴブニュートも例外ではなく、彼らは普段はやらない“それ以外”の仕事をやる事になる。
「へー。割と上手くできてる」
「練習、した!」
冬にやらせること、その一。
草鞋・編み笠・ゴザを作る事。
農作業のうち、自生している稲はかなり多い。そして自生している品種の場合、一本当たりの収穫量は田んぼで作る食用品種の半分以下だ。
そいつらを収穫していると、おそらく普通の農家よりも稲藁が溜まるわけで、その消費先として草鞋と編み笠、ゴザを作らせているのだ。
稲藁はクッションや焚き付けにも使うけど、草鞋などの製品はあればあるだけ今は消費先があるので、積極的に作らせている。
作り始めた当初は手間取っていたりやり直しをしていたゴブニュートも、今では褒められるほどスキルが身に付きだした。
この分なら、いずれ外で売れるようになるかもしれない。
人里には革靴とかもあるんだけどね、高いから。
草鞋はスリッパとかサンダル的な扱いで、一応需要があるんだよ。
ごくごく小規模だけどね。
冬にやらせること、その二。
石垣など、防衛設備の増築。
高さ1m程度の石垣でも、背の低いゴブニュートが隠れて戦うには十分で、ついでに敵の侵入を阻む役に立つ。
この場合の敵とは、人間であり、猪や狼などの害獣である。
木の柵もあるんだけど、二重三重に防壁があってもいい。撤退しながら戦えるからね。
「けど、石ころが足りないわけだ」
「このあたりの、大きめの石は全部集めたかも、です」
問題は材料で、本当に小さな小石程度ならともかく、大きめの石が不足している事。
魔法で増やせないものかね?
あ、冬以外でもやっているというツッコミはしないで欲しいかな。
畑まわりの石は、草が枯れている今のうちに回収するのがベストなんだよ。
冬にやらせること、その三。
酒と保存食、味噌と醤油の仕込み。
他の季節よりも、今のうちに仕込んだ方が失敗が少ないからだ。
暇になったから仕事を任せているというわけじゃないけど、酒造と醸造が冬限定の仕事である事は間違ってない。
「今年は普通に成功すると良いな」
「……酒蔵もちょっとマシになったと思うし、頑張る!」
前回は、日本酒の仕込みに失敗した。
お酒担当のゴブニュートは、前回よりも賢くなったし、今度こそ大丈夫だと意気込みは十分だ。
他にも乾物を作ったりと、手を出している事は多い。
シイタケとか、原木栽培と菌床栽培の両方が成功しているので、乾物にする量が多い。
そのままを焼いて食べるのも好きだけど、出汁にするなら乾物の方が良かったはず。
どれも買う事ができるけど、作る事もできるんだからこっちでも生産を始めないとね。
買いたいものは多いので、少しでも出費を減らさないと。
春から商隊を派遣するんだから、節約は大事だよ。
「冬は暇だ」とか言ってみたけど、結局やる事はたくさんあって、本当に冬が暇になるのはずいぶん先だな。
ゴブリンがゴブニュートになったし、去年よりも作業効率がかなり上がったから、生産力は上昇したと思うけど。
これも充実していると言うべきかね?
何か労いも必要かな。