4-13 箱庭の侵入者⑤
昔の人間が土地を求める理由って、飯が理由のほとんどなんだよね。
飯の供給がしっかりできるなら、土地ってそんなにたくさん要らない。管理が面倒くさいから。
基本、狭い土地を管理する方が楽なんだよね。
そんな訳で、俺が確認したいのは「飢饉が起きそうかどうか」だ。
よその村の食糧事情なんて調べる機会、なかなか無いからさ。聞けるときに聞いておこうと思ったんだ。
食料の値の上がり方とか、判断材料はいくつもある。
そういった情報を教えてもらえれば解放すると約束をする。
俺は、嘘なんて言わないよ。
帰り道で襲うとか、そんな姑息で卑怯な事もしない。
ただ、もしも俺の情報が外に漏れたとして。権力者が俺を手に入れようとしたと仮定する。
その場合、彼らの村は間違いなく、このゴブニュート村の攻略拠点として使われるだろう。
それが幸せな結果に結びつかない事は容易に想像できる。在日米軍とかが揉め事を起こすようなものだ。利益があっても、それ以上に不利益があるのだよ。
これは脅しでもなんでもなく、ただの事実であると断言しよう。
「言いません! 絶対に言いません!」
理解力の高い子供は嫌いじゃないよ。話が早いのは良い事だからね。
翔太君から話を聞きだし、彼の住む村、高富の話を聞く。
食料供給に問題は無いと思う、らしい。
食い物の値上がりが始まったとか、そんな話は聞いていない。生活はそこまで苦しくないし、まじめに働けば飢えることは無いという。
困ったことは、あって精々が「塩の値上がり」ぐらいだという。
塩の話と言えば、夏の前に塩業者が事故か何かで塩を駄目にして塩不足になった、という事があった。
この話があったのは神戸町だけど、美濃の国全体に被害が広がっていても不思議じゃない。なので喫緊の事案は無いと思われる。
逆に平和過ぎて、平和ボケした子供がゴブリン相手に度胸試しをしている有様だ。
「ぼ、僕は止めようとしたんです。でも、康太君には逆らえなくて……」
康太君というのは俺がクソガキ認定した子供の事だ。彼は村長の息子で、権力と腕力の二つを武器に、同年代の子供を従えているらしい。
世も末だね。いや、人間って変わらないね。
どんな状況でも権力者が下の人間を顧みない。狭い世界で強いからって、何をしても良いと勘違いする。
それが人間って奴の本質なんだろうね。綺麗な部分があるのも確かだけど、汚い部分もしっかりとある。
俺も康太を反面教師にしないといけないな。
俺だって勘違いしやすい位置にいるわけだしさ。
その後も、この国の歴史や基本的な社会システムといった、今さら人には聞き難い情報を回収する。
もしも神戸町で人に直接聞くと怪しまれるかもしれないような、常識レベルの情報ばかり。
翔太君に何を思われても特に問題は無いので、ここぞとばかりに質問をした。
質問を終えたら翔太君にはそのまま帰ってもらい、康太については後で別の場所に置いておくので、心配しないようにと言い含めておいた。
シナリオとしては、康太に連れられゴブリン村に行った翔太少年は、ゴブリンに追い掛け回され、康太とはぐれて一人になり、今まで身を潜めていたけどゴブリンの姿が見えなくなったしようやく戻って来れたことにした。
康太もボコボコにしたけど、怪我は治しておこう。不本意だけど、怪我が酷いのはリアリティに欠けるから。で、本当に適当な場所に置いておく。
あとでこいつが何を言おうが大丈夫なように偽装もしなくちゃいけないなー。ゴブリン狩りをして偽装用の『ゴブリン・クラン』を造らなきゃ、だ。
はぁ、面倒だね。