4-12 箱庭の侵入者④
そういえば、最初の少年の名前を聞かなかったな。
あんまりにも駄目な感じがしたので、聞く気にもならないから、まぁ、良いか。
それよりも、もう一人の少年だな。
「えーと、キミは――」
「ひっ! ごめんなさい、ごめんなさい」
「まず、名前を教えてもらえないかな」
「はい! 翔太です!」
もう一人の方は体格はいいが心が折れているので、いろいろ教えてくれそうではある。
しょうがないよね。ボコボコにされるのに慣れている奴なんて滅多にいないし、耐えられる奴はなお少ない。
俺に向かって平謝りする卑屈な態度も、情けないとは思わないよ。
この翔太君。かなりボロボロなので、まずは傷を治してあげることにした。
「魔力よ、かの者の傷を癒せ『ヒール』」
「え? 回復魔法? 本当に?」
使うのはノーマルの『ヒール』だ。
翔太君の怪我、見た目は酷いけど、レベルの高い回復魔法を見せる必要じゃない。
治りきらなくてもいい、その程度の治療だ。
ただ、その程度の回復魔法でも珍しいらしく、翔太君はかなり驚いている様子だ。
えーと。
これまでも『ヒール』ぐらい人前で使っていたと思うんだけど。ここまで驚かれたのは、たぶん初めてだぞ。
そんなに珍しいのか? 神戸町には2人居るって話だぞ。それって珍しいのか?
いや、この子は村出身だし、都会に出ればそこまで珍しくないはず。
大丈夫だ。
これまで、すでにやらかしているとか、そんな話は無いはずだ。
ちょっとだけ、需要に対する供給が足りないだけなんだろう。医療のレベルが下がってるだろうからね。そういう事もあるかもしれない。
俺は少し混乱する思考をどうにかまとめると、自分は大丈夫だと、何度も自分に言い聞かせる。
そうだ、問題なんて何も無いんだよ。
それよりも。
翔太君からは聞きたい事があるんだよね。
大した事じゃないんだけど。
君らの村、米とかの収穫はどんな感じかな?
豊作? それとも……不作?
こっちにさぁ、出て来ないと拙いとか、そんな話が出ていたりしないかな?