4-8 祝宴/この世界は
貴重な品であれば、カード化して保存すれば安心できる。壊れたとしてもすぐに直せる。
食料品をカード化すれば、何回でも同じものを食べることができる。
カード化をアイテムボックスのように使う事もあるけど、食べ物に関して言えばこっちの方が上だと断言できるね。
なので、本来であれば貴重なお酒も惜しまず振る舞えるわけだ。
「ははは! 美味いなぁ!」
「すまん、氷をくれ!」
今晩は、ゴブリンたちがゴブニュートに進化したお祝いで、酒を振る舞うことにした。
進化と言うか、やったのは合成だけど、そこは細かい事である。
より上位の存在になったと、喜んでおけばいい。
彼らはまだ言葉を上手く使えないが、酒を飲んで上機嫌になっている者が多いのは分かる。
中には酒が苦手な者もいるようではあるが、そこは個人差だろう。果物のジュースもあるので、そちらを飲んでもらいたい。
初期カードの『ミルク』に摩り下ろしたリンゴ、ハチミツ、卵を加えてよーく混ぜたリンゴセーキが自信作である。
『ミルク』のカードも使用頻度はかなり高いので強化と進化を何度もしており、味も栄養もかなり自信があるよ。
さすがに、ミルクから乳牛を作る事はできなかったけどな。
ミルクを適当な動物に合成する事もできないし、搾りたてのミルクが欲しければやっぱりどこかで牛を確保するしかないかな。
岐阜市もどこかに畜産センターとかがあって家畜の類がいたのは確かだけど、今の時代まで生き残っているかどうかは知らない。
この世界はこれまで集めた情報から考えると、パラレルワールドか何かで、俺が生きていた時代から見てかなり先の未来のようだ。
文明が滅んだ先の世界って奴だな。
だから地形とか地名が一致するし、過去の遺跡のように当時の建築物が残っていたりする。
人の性格と言うか考え方も、当時の物が残っているようにも見えるし、影響はあると思う。
岐阜市の貴金属買取店の女性店主。彼女の考え方は日本の人権派の考え方そのものだったからね。少なくとも、現在の文明レベルではありえない考え方だと思うし。
「以前に存在した考え方が今でも残っている」とした方がしっくりくる。
なんで過去の日本が崩壊して、今、こんな世界になったかは知らないけど、世界は連続しているようだ。
魔法とかがある物理学に真っ向からケンカを売るような世界だけど、地続きだ、とは思う。
逆に、こうやって魔法とか訳の分からないカード能力のようなものが現れたから、世界が崩壊したんじゃないかとは思うけど、確証はない。
そこら辺にゴブリンが歩き回るような世の中じゃあ、ロクにインフラも維持できないだろうから。
飛行機とかが飛ばなくなれば、日本は詰むからね。仕方がない。
アメリカとか中国とか、大陸の方にはドラゴンも出たって話だから、そっちは別の意味でヤバいだろうな。
インフラ以前に生き残れるかどうかって話だよ。
どこかのアニメでは戦闘機がミサイルでドラゴンキラーだったけど、ミサイルって高いからね。相手の数次第では生産が間に合わずに押されて終わりだろ。
俺自身、ドラゴンなんて勝てるヴィジョンが見えてこない。
魔法を連発した程度じゃダメだろうからなぁ。
いや、戦う気なんてサラサラ無いんだけど。
「ぎゃー! それ、俺の肉!」
「早い者勝ちだー!」
「お、ケンカか? いいぞ、やれー!」
酒を飲むと人が変わるのか、フリーマンたちはさっきから羽目を外し過ぎである。フリーダムか。
真面目な事を考える場ではないとはいえ、声のした方を向けば、あまりにもひどい絵面が俺の目に飛び込んできた。裸族ダイバーか。
どちらにせよ、残念な連中だ。
俺は悪い酒の飲み方をしている連中にため息を吐くと、夏鈴に一言頼んで抑えに回ってもらう。
彼女は生真面目なので、こういう場でも俺の隣に控えている。
凛音や莉奈は普通に飲み食いしているんだけどな。
あとで、二人きりで飲めばいいか。
夏鈴にだって気を抜く時間があってもいいだろうから。酒が嫌いと言うことは無いはずだし、無理を言ってでも飲ませようかな。
こういうのは稀にしかない事なので、皆で祝いたいんだよ。