89章 ウルフパック
最後に仲間の所に顔を出した。
89章 ウルフパック
最後にグリフォンとハーピーと一緒に待機している竜生神とSクラスの人達がいる場所に行った。
少し先でホグス、ザラ、スーガはグリフォンとハーピーたちと、何か話をしているのだが、ザクトだけはポツンと離れて立っていて、落ち着きがなく青ざめているように見えたので声をかけた。
「ザクトさん、大丈夫ですか?」
「だ······大丈夫です」
少し声が震えている。
ザクトのドラゴンのアセンは、ちょっと申し訳なさそうだ。 今回は竜生神の感情に左右されていないようで安心だ。
何とか落ち着かせようと、話しを続ける。
「ガドル先生とザラ先生に、思いっきり絞られたと聞いていますが、上達しましたか?」
「ここだけの話、ザラ先生は魔法の事になると人が変わりますね······こ···怖かったです」
「えっ?······そうなのか?······フェンリルはザラ先生といつも一緒だったよな? 魔法の指導の時って先生は人が変わるのか?」
「そんなことはなかったぞ。 多分ザラも時間がないから焦っていただけじゃないのか? アージェスじゃあるまいし、熱心だが普通だぞ」
フェンリルは肩をすぼめた。 その時、後ろから声がした。
「なにか言ったか?! 私が熱心だって?」
聞いていたのはアージェスだ。
「便利な耳をしているな」
フェンリルが呟く。
「なんだと?!」
「聞こえなかったのか? もう一度言ってやろうか?」
「「ガルルルル!!」」
アージェスとフェンリルは顔を突き合わせて睨み合っている。
なぜそんなにアージェスがフェンリルを嫌うのか、以前にマルケスがこっそりとアージェスに聞いてくれた。
「傭兵組合にいると、人間より竜生神の方が偉いように感じる。 ガドルなどはどちらが偉いとかなどあるはずはない。 それより想像もできない努力をしてきた私には感服すると言ってくれる。
それでもどうしても劣等感が心の片隅にあるんだ。 なのに霊獣は人間ではなく竜生神を選んだ。 ちくしょう! 羨ましいじゃないか! そう思わないか?!」
······だそうだ。
なんだか優しい理由なので、喧嘩を止める気にもならない。
ガルガル言っている二人のおかげで少し緊張がほぐれた様子のザクトの肩をポンと叩きアージェスの後ろからついてきていたギブブに向き直った。
放出系の魔法がないアージェスとギブブは、今はここにいるがオーガと行動することになっている。
「アンドゥイ国側にお兄さんがいました。 ギブブさんに最善を尽くすように伝えて下さいと言っていましたよ」
「ありがとうございます。 やっと兄も一流になれたようですね。 後で会うのが楽しみだ」
そう言ってニッコリと笑った。
ギブブの笑った顔も······始めて見た······
グリフォンとハーピーと、熱心に話していたザラとホグス、そしてスーガが俺を見つけて近づいてきた。
ホグスが手をあげて挨拶をする。
「来たか。 アンドゥイ国側には行ってきたのか? ガドル先生はどうだ?」
ガドルと配置が別々になった事のショックは隠しきれないが、自分がいなくても俺たちなら大丈夫だろうと思ってのことだ。 その気持ちが励みになる。
「もちろんお元気です。 みんなに気を緩めないようにと言付かっています。 心配はないと思いますが」
「もちろんだ」
さんざん訓練をしてきた。 シミュレーションも何度もした。 不測の事態も予測し対処法を考えた。
やるだけの事はしてきたという自信があるから大丈夫だ。
「それよりコーマンですが、今まで俺に二度も呪文封じ魔法をかけられているので、俺の所には来ないと思います。 そうなると、アンドゥイ国側ではなく、こちらに来ると思われます。
奴は隠形魔法を使うので見つけるのは困難ですので、不意打ちを食らわないようにくれぐれも注意してください」
スーガが俺の肩に手を置く。
「お前は心配するな。 ドゥーレクだけに集中しろ」
すると横からガルルと唸り声が聞こえた。 フェンリルがいつの間にか横に来ていたのだ。
「我もいるから安心しろ。 あの野郎は絶対に許さない。 必ず我が倒す」
珍しくフェンリルの声が怒っている。 俺やスーガが何度も狙われたことをよく愚痴っていた。 「我の仲間に······」と、嬉しいことを言っていたのだ。
狼は本来群れで生きる。 俺たちはすでにフェンリルの群れの仲間という事だろう。
可愛そうだが、コーマンは終わったな······
しかしさすがフェンリルは頼もしい。
「俺とレイが攻撃を始めたら、直ぐにあちらも攻撃してくるはずだから気をつけろよ」
「任せろ!」
狼の群れのことを「ウルフパック」というそうです。
アルファ(ボス)はシークかな?




