78章 アニエッタの憂鬱
夜、レイがミンミの気配を見つけた。
アニエッタもいるので、俺たちはそこに向かう。
78章 アニエッタの憂鬱
その日の夜、テラスの椅子にボ~~ッと座って月を見ていた。 レイは俺の膝の上で眠っている。
満月には少し早い楕円形の月だが、充分に明るい夜だった。
突然レイが顔を上げた。
「あっ! ミンミだ!」
「えっ? どこ?」
空間認識魔法で探すと、訓練場の隅にあるベンチにアニエッタと座っているのが見える。
「あんなところでどうしたんだろう? 行ってみよう!」
「うん!」
寝ているフェンリルを見ると、確かに目が合ったのだがフイッと視線を外したので、放っておく事にした。
俺とレイは訓練場の入り口まで飛んでいってから、アニエッタの所までゆっくりと歩いてく。
月明りの中に浮かび上がるシルエットは、なぜか憂いを帯びて見えたが、凛として美しい。
そして俺に気づいて膝の上から飛びあがったミンミを目で追い、俺に気付いて立ち上がった。
「あっ······シークさん」
「どうしたのですか? こんなに夜遅くに」
「·········」
アニエッタは、俺が近付いて来るのを、黙って見ている。
俺と一緒にベンチに座り直した。 少し先の木の上にミンミとレイが仲良く肩を並べて止まっていた。
アニエッタがなぜか沈んでいる。
「なにかあったのか?」
「べつにそういう訳では······」
そう言いながら自分のスカートのフリルを指先でなぞっている。
俺はアニエッタの顔を覗き込んだ。
「······不安?」
「ええ······少し······」
チラリと俺の目を見てからまたスカートのフリルに目を落とす。
俺はフリルをなぞる手を、優しく包み込んだ。 アニエッタの白く細いキレイな手は少し震えている。
「大丈夫だから。 アニエッタはオーガの里の中で回復に専念してくれればいいから······あの村の中には黒魔法の影響を受けた魔物や巨大昆虫は入ることができないから安全だよ。
ケガの回復はドライアドたちに任せて、ミンミとアニエッタは竜生神とドラゴンの魔力回復に専念してくれるだけで大丈夫だからね。
それに、この前、レイに魔力回復魔法を重複加護してもらったから、魔力回復スピードも威力も格段に上がって、充分間に合うと思うから、何も心配する事はないよ······な?」
アニエッタはそうではなくて······と、小さく首を振る。
「他に何か心配な事があるのか?······あぁ、オーガはデカくて怖いけど、優しくていい奴ばかりだから、怖がる必要はないぞ」
アニエッタは一段とうつむく。
「えっと······グリフォンも見た目はデカくて怖いけど、フェンリルに比べたら可愛いものだし······」
俺はベンチから降りてアニエッタの前に膝を付いて顔を覗き込んだ。 すると、ポタポタと涙が落ちてくる。
「な······なにも心配する事は無いから······大丈夫だから······えっと······」
理由も分からず目の前で泣かれると、どうしたらいいのか分からない。
とりあえず、俺の服の袖でアニエッタの滴り落ちる涙を拭いてあげる。
「アニエッタ···?······どうしたんだ?······なにかあったのか?」
もしかしたら俺が知らない何か重大事件が起きているのかと、心配になった。
「······が······なの」
消え入るような声で何かを言ったが、聞き取れなかった。
「ん? なんて言ったんだ? 大丈夫だから言ってごらん?」
アニエッタは両手で顔を覆って、一段と泣き崩れる。
「ア···アニエッタ······なにがあったんだ?」
「······あなたが······心配で······」
俺は愕然とした。 俺を心配して、こんなに思い悩んでいてくれていたんだ
······愛おしい······
優しくアニエッタを抱きしめる。
「大丈夫······俺は死なない」
小さな背中をトントンと叩き、反対の手で白く美しい髪を撫でる。
「なにがあっても······必ず君の元に戻るから······約束する」
アニエッタはうんうん頷きながら俺の腕の中でいつまでも泣いていた。
アニエッタは心配で仕方がないのですが、止めるように言うこともできない事が分かっているので、辛いですね。
( >Д<;)




