75章 説得
ドゥーレクを説得しようとするが、まるで聞く気がない!
75章 説得
ドゥーレクとフェンリルのやり取りを聞いている間も体の震えが止まらない。
もちろん怖くて震えているのではない。 怒りでこんなに体が震えるものだとは思わなかった。 目の前にるドゥーレクに向かって、今にも飛びかかりそうになるのを辛うじて抑えている。
俺は平静を保つように努力しながら、ゆっくりとフェンリルの足の下から前に出た。
「ドゥーレク、なぜだ。 なぜあれだけ信頼していた父を裏切った! なぜ両親を殺した!!」
どうしても聞いてみたかった。 あんなに優しかったドゥーレクがなぜあんな悍ましい強行に出たのか。
父と母に······国王と王妃にどんな怨みがあったのか。
ドゥーレクは人差し指を前に突き出して左右に振る。
「チッチッチッ。 私を信頼していた? これだから子供は困る。
奴は私を嘲りバカにしていた。 官学を出ていない私を見下していたんだ。
王妃もそうだ。 優しそうな顔をして、私をバカにしていたのが分かった。 私の目をごまかす事は出来ないのですよ」
「そんな事はない! 母は人をバカにするようなことはしない。 ただの思い過ごしだ!
それに父はいつもドゥーレクは凄いと言っていた。 何でもよく知っていて尊敬に値すると言っていたのに!」
「ハハハ。 親というのは子供にあさましい姿を見られるのが嫌な生き物なのだよ。 心の中でバカにしていても自分は他人を認めてあげる心の広さを持っているという所を子供に見せたいのだよ。
事実、奴はいちいち私の政策にケチをつけてきた。 宰相の私の意見に必ず反対してきた。 それも大勢がいる前で私を諭そうとする!
若くして才能あふれる私が妬ましいのだろう。 出る杭は打たれる。 分かっていたが我慢の限界だった!」
「確かにお父様はドゥーレクは若いと言っていた。 若いので理想が前面に出てしまう。 しかし、少し軌道修正をしてやるだけで素晴らしい案に仕上げてくると言っていたんだ」
ドゥーレクは少しの間、目を見開いて俺の顔を見ていたが、突然ハハハハハ!と笑いだした。
「今となってはそんな事はどうでもいいのですよ、マージェイン様。 すでに国王は死んでいるのですから。
私の偉大さに今更気づいても、もうこの世にいないのですから。
それよりマージェイン様、私と一緒に来ませんか?
頭の悪い人間どもと、無駄な抵抗をしてくる妖精たちがいるこの世界を全て破壊して、新たな世界を作るのです。
一つの街が崩れていく様はなかなか見ものですよ。 貴方がいればあんな虫共の力を借りなくても簡単に破壊できるというもの。 いかがです?」
「本気で言っているのか? 世界を破壊するなど俺が望むと思っているのか! あんなに思慮深かったドゥーレクは何処に行ったのだ!!」
ドゥーレクは俯いていた。 フードで隠れて顔が見えないが、もしかして悔やんでいるのかと思った。
しかしそれはすぐに間違いだと分かった。 クックックッと笑い声が聞こえてきたのだ。
「クックックッ。 天龍の竜生神とは相容れない事は承知しておりました。 それは仕方がない事。 それより······」
鋼装甲姿の巨大なフェンリルに目を移した。
「フェンリル···殿。 なかなか見事ですね。 霊獣なのに魔法も使えると言い伝えにありますが、本当のようですね」
ドゥーレクはフェンリルを上から下まで嘗め回すように見てから、高い位置にある目を見つめ「私の元に来なさい」と、フェンリルに向かって命令した。
「······」フェンリルはじっとドゥーレクを見つめている。
「もしかして心を操る魔法か何かをフェンリルに掛けたのか?!! フェンリル!! しっかりしろ!!」
魔法の解除方法が分からない! 俺は焦った。
フェンリルが直ぐに自分の方に来ないのでドゥーレクは少しイラついている。
「なにをしているのですか? 早くこちらに来なさい」
「フェンリル!! そいつの言う事に耳を貸すな!!」
俺は下から見上げるが、下から見るとフェンリルの視線がどこを向いているのかもわからない。
その時、憮然としたフェンリルの声が上から聞こえた。
「なぜお前ごときが我に命令する」
マズい! ドゥーレクに心を操られたのか?!
フェンリルは数歩前に出て来た。
ドゥーレクの元に行ってしまうのかと思ったら、俺の横で立ち止まる。
「こいつはなぜ我に偉そうに命令するのだ? シーク」
「「へ?」」
俺とドゥーレクは、フェンリルの言葉に戸惑い、同時に声を出した。。
ドゥーレクの興味はフェンリルに?!
(|| ゜Д゜)




