60章 シークの憂鬱
エルフの部屋で考え事をしていると、いちいちフェンリルが俺の考えを当てる!
こいつ、絶対に心通魔法を使っているだろ?!
60章 シークの憂鬱
一応今まで気を使っていたのか、三人が出て行った途端、レイがお菓子に飛びついて食べ始めた。
「お上品なお菓子なんだから、お上品に食べろよ」
「うん」
とりあえずお上品に少しずつ食べている。
あっという間になくなるだろうが、食い散らかすよりいいだろう。
レイは置いておいて、静かになった部屋を見回してみた。
お城のお母様の部屋も品がよくて落ち着く部屋だったが、今まで見たどの部屋よりここは品がよく洗練されていて美しく、シンとした空気が心を落ち着かせる。
お母様の部屋の少し感じが似ている気がした。 落ち着くのはそのためか······
もう一部屋あるのでのぞいてみた。
寝室だ。
天蓋までついた白基調の広いベッドで、布団は羽でできているように柔らかくフカフカしている。
これは気持ちよく眠れそうだ。
おやつを時間をかけてゆっくりと(お上品に)食べているレイを横目に、再びキレイなソファーに腰かけた。
······そういえばライラさんはキレイな人だったな······
······時々見えたエルフの女の人達もキレイな人ばかりだった······
······フェンリル商団の使用人のように、また誰かが水を持ってきてくれたりして······
······その後は、お菓子のお代りを持ってきてくれて······
·····最後にまた夜伽に······ククク······エルフのお姉さんが相手なら······
「アニエッタに言いつけるぞ!」
「えっ?!」
俺はフェンリルの声に、飛び上がるように驚いて振り返る。
「な···な······何のことだよ!」
思いっきり動揺してしまった。
「エルフの女の事でも考えていたんだろう? お前の考えることなど心通魔法を使わなくてもお見通しなんだよ」
「そ···そんなことなど、か······考えていないぞ」
「クックックッ······そうか」
こいつは口だけでなくて目も塞がないとダメだな。 そうだ! 鼻先だけ出して顔を岩で固めてやろうか! ククククク。
「今、変な事を考えていなかったか?
我の目も岩で固めようとか考えていないよな」
フェンリルは顔だけ上げて俺を睨む。
うわぁ!! こいつ、何でわかるんだ?!
「お前の考えることなど心通魔法を使わなくてもお見通しだと言っただろう」
そ······そんな事があるわけないだろうと、ブツブツ言いながら、テラスの入り口辺りですでに丸くなっているフェンリルの横を通り抜けて外に出た。
ここは3階辺りになるのか? テラスに出て、腰ほどの高さのキレイな彫刻を施された白い柵にもたれて外の景色に見入った。
この場所からは太陽は見えないが、空は夕日に赤く染まり、湖の向こうの森の間に見えるエルフの建物の窓が赤い光を反射している。
······綺麗な所だ·········
レンドール国を思い出した。
自分の部屋のテラスから見下ろす夕日に赤く染まった美しい街並みが好きだった。
しかし今は美しいどころか、業火に焼けつくされて真っ赤に燃え盛る街並みに見えた。
今、あの国はどうなっているのだろうか······
みんなはどうしているのだろうか······俺を助けてくれたオシガンは、無事だろうか······
······先ほどの話しは物語を聞いているようだった······でもマシュー様は本当に戦ったんだよな······ハルディンさんも、ライラさんも······フェンリルも······
······俺にできるだろうか······
みんなを率いて······みんなを護って······
あの巨大な昆虫たちを倒して······ドゥーレクを倒して······
―― 俺は世界を救えるのだろうか ――
すると、俺のすぐ横で声がした。
「お前が一人で戦うのではないぞ」
「フェンリル!」
「お前の考えなど心通魔法を使わなくてもお見通しだと言っただろう」
「······」
いつの間にかレイも俺の横の柵の上に止まっていた。
「何のために沢山の仲間を集めたと思っているのだ?
お前とレイはブラックドラゴンと竜生神に集中していればいいんだ。 他の雑魚どもは我らが何とかする。
沢山の仲間はお前の後ろに隠れるために集まったのではない事は確かだ。
知っていると思うが、お前は一人じゃない」
俺はうなずくレイを見て、黒いダイヤモンド形のブレーズが額にあるフェンリルの顔をまじまじと見た。
「······フェンリル······お前、絶対に心通魔法を使っているだろう」
ニッコリと笑って、フェンリルの黒いダイヤモンド型の模様がある頭を優しくなでた。
いい仲間に巡り会えたね。
( ´∀` )b




