55章 レイの魔法
ケガをしているトロールを集めて回復していくが、俺一人ではなかなか進まない。
55章 レイの魔法
俺たちが住処の真ん中にある大広場······かなりの広大な広場だが、俺たちがそこに降り立つと、ドスン!ドスン! と数人のトロールが走って来た。
そのまま突進されるのではないかと少し構えたが、俺たちの前でズドドン! と、地響きを立ててひれ伏し、ブワッと凄い砂埃が巻き上がる。
ひと際大きなトロールが少しくぐもった低い声を上げた。
「天龍様、加護者様······いや、レイ様、シーク様! 誠にありがとうございました!」
伏せた状態から俺の目線の高さに顔だけを上げたトロールは、血と涙と鼻水でグチャグチャになっていた。
トロールたちは、みんな体中が傷だらけでボロボロだ。 ずっと戦い続けていたのか?
「我ら妖精族のトロールは······」
『えっ?! トロールって、妖精なの?!』
「このところ、よく分からない邪気にあてられて気が荒くなる者もおりましたが、そう気にすることもないと思っていました。 しかしここ20日ほどで急激に邪気が酷くなり、凶暴性を抑える事ができずに、とうとうお互いを攻撃し始めてしまいました。
皆さんに来ていただけなければトロールは全滅していた事でしょう」
こう話している間にも、俺たちの周りにトロールたちが集まってきて、地響きと共にひれ伏していく。
「本当にありがとうございました。 そのうえ我らの住処に加護までいただけるとは、この一命を賭しても貴方様に使える所存でございます!」
周りのトロールたちも顔をグチャグチャにして泣いている。 体を震わして嗚咽している者や、隣の者と抱き合って泣いている者までいた。
よっぽど仲間同士の殺し合いが嫌だったのだろう。 心優しい種族というのが伝わってくる。
しかし今はそれどころではない。 大ケガをしている者が多い。 一刻も早く回復をしないと手遅れになってしまう。
「とにかく先に、ケガの酷い人から回復をしたいとおもうのですが······」
みんなも結構ケガが酷い。 しかしここにいる者はまだ動けないほどではない。
先ほど空から見た時には、すでに命を落としている者もいるかもしれないが、動けないほどの、かなりの重傷者も多かったように見えた。
「手分けしてケガの酷い者をこの場所に運びましょう」
俺たちは風探索魔法でケガをしたトロールを探すとともに、俺はケガが酷いものを優先的に重力操作魔法で二人ずつ飛んで連れてきた。
まだまだいる。 なにせ数十キメルク先にもいるのだ。
「レイに回復魔法ができれば回復を任せて、その間に俺が連れてくるのになぁ」
何気なくつぶやくと「出来るよ」という答えが返ってきた。
「えっ? レイは回復魔法が出来るのか?」
「うん」
し···知らなかった!! レイに魔法が使えるなんて!!
とにかく、今はゆっくり話をしている暇はない。
「レイ、彼は息も絶え絶えで、急がないと死んでしまう。 彼とその横の奴を頼めるか?」
「いいよ」
「いい子だ。 手が空いたら他の者も回復を頼む」
「わかった!」
回復をレイに任せて、俺は次のケガ人の元に急いだ。
俺は二人のトロールを抱えて飛んで広場に戻ったとき、思わずトロールを落としそうになった。
「レイ!! 何を······しているんだ?!」
「えっ?!·····」
怒られたと思ったレイは、驚いて少し泣きそうになっている。
「えっとぉ······ 一人ずつじゃないとだめだった? 誰を先にしていいか分からなかったからまとめて回復しちゃったんだけど······」
レイはケガ人を大きな結界で囲んで、十数人の巨大なトロールをまとめて回復魔法で治していたのだ。
軽傷の者はもちろん、先ほど死にかけていた者も、ほとんど治っていた。
「············」
開いた口が塞がらない。
「ごめんね······一人ずつするから······」
いやいや!! こんな回復方法もあったんだ。 ビックリするやら嬉しいやら。
「違う、違う! レイ! 凄いぞ! よくやった!! マーは嬉しいぞ!!」
俺が抱きしめると、レイは恥ずかしそうにしながらとても嬉しそうだった。
「じゃあ、彼らも頼んだぞ」
「うん!!」
俺たちは何度も往復してケガ人を集め、日が暮れた頃には全員が完全回復した。
もちろん既に死んでしまっていた者もいたが、元々体力に自信がある者たちなので、犠牲者は3人だけで済んだのは不幸中の幸いだっといえる。
結局、長い者で20日間、ずっと戦い続けていたそうだ。
◇◇◇◇
再びトロールたちはひれ伏した。 夜でよく見えないが2百人以上はいそうだ。
「本当にありがとうございました。 なにもありませんが、今夜はここにお泊り下さい。
あぁ、紹介が遅れました。 私はトロールキングのズギゴズです。 私達にできることがありましたら何でもお申し付けください」
そういえば、住処を加護したが、ここから離れてしまっても黒魔法の影響がないのかふと疑問に思ったので、フェンリルに聞いてみた。
『我には住処はないが、住処がある者はその場所と強い絆で結ばれているから遠く離れていても大丈夫だ。
住処が壊れてなくなってしまうか、お前達が死んでしまうか、あとは、なにかの理由で群れから離れてしまった時には加護もなくなるようだがな』
『それなら戦いに参戦してもらっても大丈夫なんだな』
『今までさんざん色んな者を仲間にしておいて、今更か?』
『今まではオベロンやグノームやセリアさんがいるから大丈夫と思っていたんだ』
『彼らがいなくても住処に加護を与えていれば問題ないさ』
よかった。 これだけの戦力が仲間になってもらえればとても心強い。
ズギゴズに一歩近づき、他の者にも聞こえるように音波拡声魔法を使った。
「みなさんが感じた邪気は黒魔法の影響なのですが、レンドール国の宰相がブラックドラゴンの竜生神なのです。 この邪悪な気配の正体は彼らの仕業であるという事が判明しています。
我々は世界を破滅に導こうとしている彼らと戦おうと準備を進めています。 みなさんのような強力な援軍が来てくれればこれほど心強い事はないと思っています。 我らと共に戦ってくれませんか?」
ズギゴズは顔を輝かし、周りのトロールたちも顔を見合わせて嬉しそうに頷き合っている。
「もちろんです! ぜひとも我々も戦わせてください!!」
トロールたちは一斉に頭を地面に擦りつけた。
早ければ半年後には戦いが始まることを告げた。
半年後にはドワーフの山脈で待っていると約束してくれた。
ドラゴンは魔法が使えるんだ!
( ゜ε゜;)
参考 1キメルク = 1km




