53章 ゴブリン村再び
ゴブリン村を訪れた。 全員が進化したんだった! これは凄い!
53章 ゴブリン村再び
その日に一泊して翌日の夕方にゴブリン村に着いた。
エルフはさらに東に住んでいるので、とりあえずゴブリン村にお世話になろうと降り立ったのだ。
しかし、前回来た時と何か雰囲気が違う。
「そうだ! 進化しているんだった。 えっと······」
家も一回り大きく土壁できちんと囲われた建物になっていて、みんなの服装も人間の同じような服装を着ている。 それと驚くことに家畜がきちんと柵に囲われていて、村の道端には落とし物がない事だ。
みんなが駆け寄って来た。 小ぶりで貧弱だったゴブリンはみんな俺より体が大きなホブゴブリンになっていた。
巨大なホブゴブリンに囲まれると圧倒される。
「天龍様! 加護者様! フェンリル様! お越しいただきありがとうございます」
口々に話さずに代表者が話していて、みんながきちんと整列までしている。
話してきたのはホブゴブリンだから、元はゴブリンだったのだよな。 以前は訛りが強くて何を言っているのかが分からなかったのだが、今はちゃんと喋っているよ。
ちょっと驚きを隠しきれなかった。
「今夜はお泊になっていかれますか?」
「お願いできますか?」
「もちろんでございます。 少しお待ちください」
数人がどこかに走っていく。 夕食の準備か?
そして、ホブゴブリンの後ろから、少し顔色の悪いスラリとした男性が走ってきた。
ギブブ、じゃなくてゴブブだ。 ギブブによく似ていて、直ぐに分かった。
「ゴブブさん!」
走って来るなり俺の前に膝をつく。 回りに集まってきている者たちも、ゴブブにならって膝をついた。
「シーク様、レイ様、フェンリル様、おかげさまで進化をする事が出来ました。 ありがとうございました」
ワザとじゃないけどそれはそれで良かった。
広場の方に向かう道すがらゴブブが話してくれた。
俺にもらった霊獣の肉をみんなでわけて全員が進化をする事が出来た事。
オベロンの指示でエルフに教えてもらって家を作ったり、家畜の世話の仕方を教えてもらったり、エルフが手分けして服を作ってくれたりもしたそうだ。
そしていつの日にか俺の役に立つために、これもエルフが交代で武術訓練までしていたそうだ。
お役に立つ日が早々に来て本当に嬉しいと、一同が思っているだろうとのこと。
「オベロン様からシーク様のお声が戻ったとお聞きしたときは、みんなで抱き合って喜んでものです」
「そこまで気にかけてもらえるとは、俺も嬉しいです」
ゴブブは顔色の悪い頬を染めて、とんでもございませんんと恐縮していた。
広場に着いた。
前と同じ場所に座ったのだが、以前より整地されていて、俺たちが座るための毛皮の敷物に、食べ物を乗せる器も用意されていた。
前は地べたに座り、大きな葉っぱが器代わりだったのに、少しの間に大きく様変わりしたものだ。
みんなが忙しなく宴会の準備をしている中を、悠然と歩いてくる者がいる。
オベロンだ。
相かわらず仕立てのよさそうな黒っぽい服にマントを羽織っていて、美しいプラチナブロンドの髪を優雅に揺らしながら近づいて来た。
「シーク様、レイ様、フェンリル様。 お越しいただき感謝いたします」
って、昨日会ったばかりだけどね。
俺の隣にもう一枚置いてある毛皮の敷物はオベロンのための物だったんだ。
オベロンは重さを感じない軽やかさで敷物に胡坐をかく。
「ゴブリンたちの変貌ぶりに驚きました」
「フフフ。 そうでございましょう。 後ほどほんの一部ではございますがゴーレム部隊もお見せいたします。 お楽しみを」
やけに得意げだ。
オベロンは少し緊張気味に俺の顔をのぞき込む
「ところで······ハーピーとグリフォン住処には行かれましたか?」
「はい、昨夜のうちに」
「で······ドワーフの所には?」
「今回は山を飛んで越えましたので、そのままこちらに向かいました」
オベロンは安心した様子でホホホホ! と笑う。
ドワーフの村に行かなかった事を喜んでいるよ。
もしかしてまた、グノームと張り合っていたのか? あちらに行かずにこちらだけに来たと······ちょっと溜め息······
「いやいや、お急ぎですから仕方のない事ですね。 まあ、ホブゴブリン村ではごゆっくりなさって行ってください。 進化した姿をとくとご覧に容れます。
しかし、エルフの街はこんなものではありませんぞ。 エルフの美しさもさることながら、エルフの街は聞きしに勝る美しさですので、楽しみになさっていてください。 ホホホホ!」
初めてここで会ったときはサッサといなくなったのに、よく喋る事······
しかし、進化したホブゴブリンの踊りは見事だった。
女型は薄くてきらびやかな衣装に身を包み、美しくしなやかに舞い、男型は一糸乱れず剣舞を舞う。
ゴブリンの時には考えられなかった光景だ。
オベロンが美しい舞を見ながら自慢げに言う。
「進化をしてから、いつの日にかシーク様にお見せすべく特訓をいたしました。
どうです! 見事でしょう! ホホホホ!」
いやいや、そんな所に力を入れなくても······武術訓練をしようヨ
「しかし、見せ場はこれからですよ」
宴もたけなわ。 ホブゴブリンの踊りが終わり、ゴブリンキングが会場に現れた。
広い広場の最奥に6人のゴブリンキングが立つ。
そして一人のホブゴブリンが、司会者のように俺の近くに立った。
「シーク様、レイ様、エンリル様! ここにおりますゴブリンキングは皆さまのおかげで進化を果たすことが出来ました。 その成果をご覧に入れましょ!!」
すると、ドラムロールが響き渡る。
そんな演出まで······
ゴブリンキングたちが手を高々と挙げたかと思ったら、彼らの前に3メルク級の6頭のゴーレムが現われた。 一瞬剣に手をかけて腰を浮かせてしまった。
ゴーレム部隊がいると言っていた事を忘れていた。
一瞬慌ててしまったことを誤魔化すように大袈裟に驚いて見せた。
「わぉ! ゴーレムじゃないか!! 凄い!」
「まだまだでごさいます!」司会者はニンマリと笑う。
6頭のゴーレムの隙間をすり抜けて、4人のゴブリンキングが前に立つ。
再びドラムロールが鳴り響き、4人のゴブリンキングが高々と手をあげると、今度は4メルク級のゴーレムが4頭現れた。
「すごい! 一回り大きなゴーレムだ!」
俺は興奮気味だ!
しかし、まだ終りではなかった。 今度は3人のゴブリンキング、その先頭にいるのはゴブブだ。
ドラムロールが鳴り終わり、現れたのは、なんと5メルク級を超える大型ゴーレムだった。
「俺は凄い! これは頼もしい! 進化するとこんな事も出来るのですね」
「全てはシーク様たちの陰でございます」
ゴブブが誇らしげに頭を下げた。
「我らは多いものでは1人3体ずつのゴーレムを作ることが可能でございます。 必ずやお役に立ってお見せいたすます」
再びゴブリンキングたちは頭を下げたのだった。
ゴーレム部隊も心強い仲間ですね!
( ´∀` )b




