5章 進化
ゴブリンたちと別れ、再び二人旅になった。
俺は新たに覚えた魔法の練習をしながら進んだ。
お腹が空いたので大猪の肉をいただくと······
5章 進化
『さぁ! 行くか!』
キュイ!
ボチボチと崖に向かって歩きだした。
緩やかな風が時折草木をそよがせ、チラチラ太陽の光が顔をくすぐる。
大きな木がまばらになり膝丈の下草の中をゆっくりと歩いた。
『ちょっと練習をしてみるか』
俺は魔法で岩を出してみる。
大きい岩や小さい岩。 平べったい岩や細長い岩。 思い通りの形にできる。
何とも面白い!!
大きい岩を出した後、邪魔かなと思って砂に変えたが······そうだ!
『消えろ』
すると跡形もなく消えた。
『わお! ちゃんと消えるんだ。 じゃあもしかして···』
自分が出した岩ではなく、その辺に転がっていた石を手のひらに乗せ『消えろ』と唱えると、それも消えた!
『レイ! 俺って凄いな!』
キュイ!
レイも嬉しそうだ。
それからも岩を出したり、炎を出したりして遊びながら歩いたが、ちょっと炎を大きくしすぎて、木に燃え移ってしまった!
『あわわ! どうしよう! 燃えてるし!』
俺は慌てた。 このままでは燃え広がってしまう!
『水! 水!』
そんなものあるはずない······と思ったら、俺の手から水が噴き出す。
『えぇぇぇぇ~~~っ?!』
おっと! 驚いている暇はない。
とにかく水を火にかけると、ジュジュジュ!と煙を出しながら消えていった。
『俺って何者?』
もう一度魔法で水を出してみた。
『少しの水』
手のひらから湧き出るように水が出てくる。 飲んでみると普通に美味しい水だ。
『たくさんの水』
先ほどのように水が噴き出す。 炎の時のように、各指先からも水がチョロチョロだったり、勢いよく噴き出したりもする
『これで水には困らないな······いや待て···今まで水に困ったことがないぞ······もしかして湧き水も俺が出していたとか······』
試しに『湧き水』と唱えてみると、すぐ先の草の間から水が湧いてきた。
『俺が?』
キュイ!
『レイは俺が魔法を使えることを知っていたのか?』
キュイ!
『火、水、土ときたら······もしかしたら風も使えたりする』
キュイ!!
『本当かよ! じゃあ···風』
すると、ビュッ!っと手から風が吹きだす。
『すげえっ!! 今度は···竜巻!』
手のひらから風が吹きはじめ、まわりの草や葉を巻き上げて渦巻き始めた。
その時、レイが竜巻にさらわれ、風の渦の中で回りだす。
ギュゥゥゥゥ~~~ッ!!
『わぁっ! レイ!!』
あわてて手を閉じ、落ちてくるレイを受け止めた。
『ごめん!! 大丈夫か?』
しかしレイは目を回しながらも笑っている。
『もしかして···面白かった?』
キュイ!!
なんてやつ。
もう一度! と、俺の前で回ってみせるが、さっきは心臓が止まりそうだった。
『もうダメ!』
嫌がるレイを懐に押し込んで、今度は『小さい竜巻』と唱えた。
1メモクほどの小さい竜巻が現われ、それを足元に落とす。 そしてその中にそっと入ってみた。
ほんの少し体が浮いたかと思ったが、バランスを崩してコケそうになったので慌てて手を閉じる。
何をしているのかって?
風の力で飛べないかと思って······
『思った通り、ちょっとだけだけど浮いたぞ! きっと練習すればレイと一緒に空を飛べるようになる。 いい考えだろ?』
キュイ!!
また練習する事が増えた。
グ~~キュルキュル 腹の虫が鳴った。
『先に、飯にしよう!』
大猪の肉がある。 ホブゴブリンに教えてもらった美味しい猪の焼き方······
[オオボ]という葉で包んで土に埋め、その上で火を焚き、蒸し焼きにするといいのだそうだ。
肉を二つに切って、それぞれを途中で摘んでおいたオオボの葉で巻いて焼いた。
焼けるまで時間がかかるがその分楽しみが膨らむ。
『焼けたぞ。 アチチ!』
少し焦げたオオボの葉開くと、美味しそうな香りが鼻をくすぐる
一つを開いてレイにあげて、もう一つにかぶりついた。
『うまい!!』
柔らかくジューシーで香ばしく、臭みもなくて何ともうまい。 そのうえ、なぜか力がみなぎり、魔力さえ上がったように感じる。 猪の肉ってこんなに美味かったのか。
レイも夢中で食べていた。
『ふぅ~~~っ、美味かったぁ』
一息ついて、指から出した水を飲んでいると、レイが俺を見てなぜか驚いている。
『どうかしたのか?』
キュウクゥ! キュウクゥ!!
俺を指差し、跳び跳ねている。
『?······』
どうしたのかと首を傾げた時に目にかかる髪の色に驚いた。 今までは確かに黒かったはずが明るい色に見えた。
あわてて剣を抜いて刀身を鏡代わりに覗き込む。
ごく普通のどこにでもいそうな顔だったはずが、そこに映る俺の顔は、鮮やかな金色の髪に、なにげにいろんな色にも見えるグレーの瞳の見目麗しい美男子になっている。
面影はあるが、肌の色まで白っぽくなっていた。 16~17歳位に見えていた俺の顔はもう少し大人っぽく、20歳位には見える。
『な···なんだこれは?!!····えっ?』
思わず立ち上がった俺の服が縮んでいる···いや、目線の高さが今までとはちがう。俺の身長までもが伸びていた。
『何がおこったんだ?······進化でもしたのか?』
再び刀身に映る顔をまじまじと見る。 美しい顔だ······
『うっ!!』
その時、激しい頭痛に襲われた。
『ううっ!!』
その場にうずくまる。 俺によく似た美しい顔が頭をよぎる。 その顔は苦痛に歪んでいた。
『···だれ?······』
俺とよく似ているが、俺ではない。 髪の色は美しいプラチナでもう少し男っぽい顔だし、服装も高価そうな立派なものに見えた。
『今の人は誰だったんだろう?』
しかし、痛みが引いた俺は、考えるのをやめた。 心配そうに顔を覗き込むレイの顔が目の前にあったからだ。
『ごめん。心配した?』
キュウ···
『もう大丈夫だから。 まあ、顔が変わっても、困ることもないし·····あっ!···街に行ってこの顔を知らないか聞こうと思っていたのに·····まあいいか』
いいんだ
『そういえばレイ?···なんだかデカくなってないか?』
さっきまで30メク(1メク=1㎝)ほどだったはずが、60メク以上はありそうだ。
『俺と一緒に成長した?』
キュイ!
『ハハハハハハ! きっとあの美味しい肉のおかげだな』
肉を食っただけで成長するのはおかしいと思ったが、深く考えない事にした。
実は、大猪は霊獣だったため、食べることで加護を受けて進化したのだが、当時の俺はそんな事を知る由もなかった。
今、魔法の練習している。
炎カッター、水カッター、岩カッター、そして風カッター。
それぞれの魔法を薄く三日月型に作り、投げて対象を斬る!!
高い所に生っている果物なんかは、それで取れるようになった。 そして、今まで弓矢がなかったので捕れなかった鳥や獣も色々な魔法を使って手に入るようになった。
一番使い勝手がいいのが風カッターだ。 炎カッターは獣を斬ったときに血が出ないので便利だが、気をつけないと周りの木などに燃え移ってしまう。
岩カッターは、途中で木などにあたると欠けてしまうのか微妙に精度が落ちる。 今は欠けないように岩をもっと固くする練習中だ。 水カッターもいいが、濡れるのがちょっと嫌なので、やっぱり風カッターだな!
そして、それぞれの魔法の剣!
今までは、サイズは変えることができたが、形を思うように作るのは難しかったのだが、俺の進化(?)後から、簡単に作ることができるようになった。
炎の剣なんて、凄くカッコいい!! 形も長さも炎の強まで変えられる最強の剣だ!
そうやって遊びながら···いや···練習しながらやっと崖の端に到着した。
高い所に登ってみたが·····結局、街も道も見当たらず、緑の絨毯が広がるばかりだった。
『レイ、どうしようか·····』
見渡す限り森と山だ。 遠くの方に山脈が見える。 かなり高そうな山だ。
『あの山脈の向こうに何かあるかもしれないから、行ってみようか』
キュイ
行く当てもない。
急ぐこともない。
生活には困らない。
話し相手(?)もいる。
何も問題はなかった。
とりあえず、遠くに見える山に向かう事にした。
とても美しい男性に生まれ変わったのですね!
嬉しい!!( 〃▽〃)