47章 シークの記憶 後編
コーマンの記憶で全て思い出したシーク。
牢を逃げ出した時の事を思い出していた。
47章 シークの記憶 後編
俺は、記憶掌握魔法を解くと同時に[呪文封じ魔法]と、[捕縛魔法]をコーマンにかけた。
「グッ!」
体を絞めつけられて呻き声が漏れる。
「シ···シークさん······何の冗談なのですか?」
コーマンの問いには答えず「この男です」と周りに向かって言うと、店の中にいた数人の男が立ち上がった。 彼らはガドルが差し向けた兵士たちだ。
その内の一人が聞く。 責任者だろう。
「シーク殿。 まちがいありませんか?」
「間違いありません。 レンドール国の宰相の回し者です」
コーマンは驚いて、首を振っている。
「シークさん! 俺は無実です! 何ぜそんな言い掛かりを!」
俺はコーマンの耳元でささやく。
「残念だったな。 ギリム」
コーマン······いや、ギリムは目をむき。押し黙った。
俺の捕縛魔法の上からロープで縛り、連れて行かれた。
それではと、出て行こうとする責任者を呼び止めた。
「捕縛魔法は解きます。 呪文封じ魔法はそのままなので、魔法を使う事は出来ないと思いますが、かなりの強者と思いますので、決して油断しないでください」
「承知しました」
丁寧に敬礼をしてからその兵士も出て行った。
「コーマンだったのか」
マルケスは苦虫をかみつぶしたような顔をしている。 フィンは不安そうな顔で出て行った兵士たちに連れて行かれたコーマンを目で追っている。
しかし事情が呑み込めないヨシュアたちが色々聞いてきた。
「なんだ? 何が起こったんだ?」
「コーマンが何だって?」
「逮捕されたのか? 奴は何をしたんだ?」
「また今度話すから、とりあえずガドル先生の所に行こう」
俺が何も説明せずに歩き出したので、マルケスとフィンも何も言わずについてきた。 それをヨシュアたちはあわてて追いかけてきた。
◇◇◇◇
俺は押し黙ったまま歩いた。
フェンリルが心配そうに見上げてくる。
フィンが「スーガを呼びに行ってくる」と、走ってった。
俺の様子がただ事ではないと思ったのか、マルケスが心配そうに聞いてきた。
「もしかしてコーマンの記憶の中に、何かとんでもい事でも見えたのか?」
俺はただ頷いた。
◇◇◇◇◇◇◇◇
俺は歩きながら自分の記憶をたどっていた。
ドゥーレクにお父様を殺されてから、地下牢に容れられた。
唯一の明かりであるランプの油はすぐに切れ、真っ暗な中にいるのは本当に恐怖だった。 気が狂ってしまうのではないかと思うほどだった。
自分がどこを向いているのかもわからず、何度も入り口のドアを探した。
独り言で気を紛らわすにも声が出ない。 歩き回ると壁にぶつかってしまう。
人を呼ぼうとドアを叩くが、当然誰も来ない。
シンとしていると、遠くで聞こえる他の囚人の呻き声や、たまには意味不明な叫び声が恐怖を掻き立てた。
こんな時でも眠くなる。 目を閉じているのか開けているのかもわからないが、とにかく横になって目を閉じる。
しかし、顔や体の上を何かが這い回る感覚で目が覚める。 虫だ。
無数の虫がこの牢には巣くっていて、何度も目が覚めた。
お母様が御病気で亡くなられ······違う······ドゥーレクに毒殺されて、失意の為に数日間、ほとんど食事を取っておらず、恐ろしくお腹が減っていて、喉もカラカラだった。
その時、わずかに明かりが漏れてきたので近付くと、扉の下の小さなドアからパンと水が差し入れられた。
あわてて取ろうとして、水をこぼしてしまった。 喉が渇いてたまらない。 仕方がないので、水をこぼした辺りの濡れている地面にパンを押し当てて吸い取って食べた。
惨めだった。 恐怖だった。 狂ってしまいそうだった。
どれくらいの間、そこにいたのだろう。
ほんの少しの間なのか、何日もそこにいたのか分からない。
何度か食事を運ばれてきたので、数日は経っていると思う。
明かりが漏れ、また食事かと思ったら、ドアの上の小さな窓から声が聞こえた。
「マージェイン様······オシガンでございます······そこにいらっしゃいますか?」
俺付きの執事のささやくような声だ。
『オシガンか?』
声は出せないが急いで明かりの元に駆け寄る。
「あぁ···よかった······生きておいででしたか」
ガチャガチャと鍵を開ける音がした後、ギギッと錆びた音がして扉が開き、ランプを持ったオシガンが立っていた。
「マージェイン様、急いでお逃げください。 こちらへ」
オシガンに手を引かれて地下牢の中を走る。
一度、階段を上ったが、また別の階段を降りていき、壁の前に着いた。
「少しお待ちください」
そう言って何かを探していたが、どこからか鎖を見つけ出して引っ張ると、隠し扉が現われた。
「とにかくお逃げください」
隠し扉の中に俺を押し込むと「お元気で」と言って、扉を閉めてしまった。
『ありがとう』
それだけ心の中で言うと俺は走り出した。
洞窟のようだ。 わずかに入り口の方から月明りが漏れている。 真っ暗な闇に慣れた俺にはそれで十分だった。
とにかく走った。
日が昇ると森の中の低木の中を進み、暗くなると、また走った。
しかし、なぜか胸が痛い。 どんどん苦しくなっていく。
大きな木のうろを見つけて、その中で少し休んだ。
その時、胸の辺りがわずかに光り出した。
『これは······もしかしてドラゴンが生まれるのか?』
胸から光がせり出して来た。俺はその光を抱きしめる。
『生まれておいで』
その光はドラゴンの形になった。 七色に光るレインボードラゴンだった。
『これがうわさに聞くレインボードラゴンか! 俺に元に生まれてきてくれてありがとう』
キュイ!
とても可愛いドラゴンだった。 だが、なぜ喋らないのだろう。 生まれたばかりだからかな?
しかし、今はゆっくりとしている暇はなかった。
『ついてきて』
キュイ!
途中でリンガの木を見つけた。
お腹が空いていたので、とにかく貪り食い、ドラゴンにもいくつかあげた。
『美味しいか? 可愛いな。 そうだ、 俺の名前はマー······!!』
その時、顔のすぐ横をヒュン! と、矢が飛んできた。
『追手だ!!』
俺はとにかく走った。
暗闇の中をとにかく走った。 出来るだけ藪の中を選んで走った。
すると、突然地面がなくなって、まずいと思った時には遅く、真っ逆さまに崖から落ちて行く。
『しまった!······もうだめか!』
落ちながらそう考えていると、ドラゴンが体の下に入り込み、俺の落下を止めようとしてくれていた。
『ごめん。 ありがとう』
俺とレインボードラゴンは地面に激突して意識を失った。
「マー」まで言った所で矢が射られて、名前の続きを言えなかったのですね。
( ´∀` )b




