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44章 シークの成長

オーガのラズクがぬかるんだ道に車両がはまった荷車を持ち上げて、拍手が起こった。


 44章 シークの成長




「お······おい···その狼は何だ?」


 マルケスが俺の耳元でささやく。

 スーガ、フィンとナックルも寝ずに俺たちを待っていた。


()()()のオーガだ」

「えっ?! オーガって狼なのか?」

「ハハハ、違う。 動物に変身できるそうだ」

「へぇ~~~」


 じっと見ると怒られそうで、マルケスは俺の肩越しに盗み見している。



「どうだった?」


 聞いてきたのはスーガだ。 他のみんなも心配そうに俺の返事を待つ。


「大丈夫だ。 オーガは呼べばいつでも来てくれる事になった」

「そうなのか? それは凄いな」




 グレンとの話をかいつまんで話すと、色々なヶ所で驚きの声が上がった。


「ハイオーガなんているのか」

「心強いな。 本当にハービーにグリフォンと、ドライアドまで加勢してもらえるのか?」

「ガドル先生に早く知らせないと」


 ナックルは次元が違いすぎて目を丸くしているばかりだった。



 ◇◇◇◇



 翌日、空は晴れているが、連日の雨で道がぬかるんでいる場所が多く、思ったように進めなかった。

 この辺は特に粘土質の土で、牛が泥に足と取られ、荷車の車輪が泥にはまる。


 とうとう荷車の車輪が泥にはまり動かなくなった。


 俺が重力操作魔法で助けようと思って馬を降りようとしたのだが「俺が···」といって、先にラズクがオーガの姿に戻った。


「わぁ! オーガだ!」

「で······デカい!」


 みんなに話してはいたものの、始めて見るオーガの姿に腰が引けている。 

 2メルク半の巨漢で、長身の俺でもラズクの肩の高さに届かない。



 せっかくだから、ラズクにやってもらおう。



 荷物が満載の荷車はかなりの重さで、少なくとも6~7人で持ち上げなければ無理だ。

 しかしその荷車の下にラズクが手を入れてムン! と力を入れるとゆっくりと持ち上がり、ぬかるんでいない場所まで移動させてからゆっくり下した。


 パチパチパチ!! 拍手が起こり、ラズクは照れ臭そうにしている。 力がありそうだとは思っていたが、想像以上のようだ。



 これで人間に受け入れられたな。



 それからは、周りの人達が気軽に話しかけるようになった。

 オーガの姿の時はもちろんだが、狼の姿のラズクにも気軽に話しかけ、ラズクも楽し気に話を返すので、いつの間にか人気者になっていった。




 どこかの狼と違って·······



『聞こえてるぞ』




  ◇◇◇◇◇◇◇◇




 アンドゥイ国を出て6日目の昼過ぎの鐘が鳴るころにフェンリル商団に到着した。 



 この国に入る前にスーガは離れていった。 しばらくの間、郊外の知り合いの家にいるそうだ。

 コーマンの件が片付いたら迎えに行くことになっている。



 俺はマルケス、フィンと共に、すぐに傭兵組合の闘技場に向かう。

 今は訓練をしている頃なので、ガドルはそこにいるはずだからだ。



 闘技場の裏手の訓練場にガドルがいた。



 久しぶりにアニエッタの顔も見れた······やっぱり可愛い······と、それは置いておいて······



 腕を組んで練習している傭兵達に視線を送っていたガドルは、俺たちに気付いて手をあげる。


「やっと戻られましたか。 随分と遅くなったのですな。 心配致しておりました」


 そう言ってから横にいる黒い狼に視線を落とす。


「この狼は?」

「その事でお話があります。 できればSクラスのみなさんも一緒に」

「ん? ホグスたちもですかな? 承知しました」


 近くにいたAクラスの傭兵にホグスたちを呼んでくるように指示してから、傭兵組合の一室に入った。





 ホグス、ザラ、アージェス、ギブブが揃ったところで口を開いた。


「先ずは紹介します。 オーガのラズクさんです」


 ラズクはオーガの姿になった。 みんな一様に驚く。 ホグスより頭一つ高い。


 急に部屋が狭くなった。 それを察したのかラズクは再び狼の姿に戻った。



 俺はオーガの里に行くまでの経緯を簡単に説明した。


「ほぉ、そんなことが」

「そこでハイオーガのグレンさんに会いました。 どうもそこでまたオーガの里に加護を与えたようで感謝され、いつでも来てくれると約束を取り付けることができました。 またハービーやグリフォンとドライアドの協力も取り付けてくれるとのことです。 そのうち俺も挨拶に行こうかと思っています」


 ガドルたちは顔を見合わせて驚いている。


「それとこれを······」


 アンドゥイ国王からの書簡を渡した。

 ガドルが目を通す。


「ここにはブラックドラゴンとその竜生神と戦うために西側の小国に協力を申し入れてくるとありますのぉ。 もう一つ······全面的にシーク殿の指示に従うとあるのじゃが······」


 ガドルは少し心配そうに俺を見る。 ガドルが考えている事は大体察しが付くが、俺は構わずに続けた。


「はい。 これでゴブリン、ドワーフ、オーガの協力と、近隣諸国の協力を取り付けることができました。 そこで一度、この国の国王様にお目通りを願いたいのですが」



 ガドルは驚いた。 この旅で何があったのか······シークが大きく成長したことを。

 とても頼もしく、そして天龍の竜生神としてこの世界を救わなければいけないという自覚ができた事を。



 ガドルは目を閉じた。




―― あぁ、これで世界は救われる。 この若者なら必ずやり遂げてくれる ――




 そしてゆっくりと目を開けた。


「すでに国王様には話を通しております。 いつでもお会いになることができます」

「わかりました。 では明日にでもよろしくお願いします」

「承知致しました」 



「ラズクさん。 グレンさんは明日までに来れそうですか」


 じっと俺たちの話しを聞いていた黒い狼に視線を移す。


「大丈夫だと言っています」

「では、お待ちしていますとお伝えください」



御意(ぎょい)






ガドルはシークの成長に感嘆する。

ーー この国は救われる ーー

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