43章 グレン
オーガの里に行くと、巨大なオーガがいた。
ハイオーガのグレンと名乗る。
43章 グレン
フェンリルを先頭に走り出す。
案内を請わず、サッサと走って行くフェンリルに聞いた。
「先頭を走って、どこに行けばいいのかわかっているのか?」
「我を誰だと思っている」
「いやいや、ここは何とかの森じゃないだろ?」
「タナーヴの森だ!! いい加減覚えろ!」
「だからそこじゃないだろ?」
「だから我を誰だと思っている」
「タナーヴの森の主?」
「我は、フェンリル様だ!! ガハハハハハ!」
「············笑い方が下品だぞ」
3連の真ん中にある山の麓に向かう。 近づくと、思った以上にデカい山だ。 木々が鬱蒼と茂り、下草も多いので、狼の姿のオーガたちは下草の中を走り、見え隠れしている。
しばらく走ると突然開けた場所に出た。 真ん中の山の麓で、山肌に沿って高くなっているオーガの里だ。 いや、街といった方がいい。
建物は石造りでしっかりと作られ、道には平らな石が埋め込まれて整備されている。 家畜は囲いの中で飼われており、落とし物の匂いもしない。
さびれた人間の村よりよっぽど立派に見える。
そして里の中央には一段と大きな建物があった。
人間界の教会のようなかなり大きな建物だ。
先の尖った屋根が真ん中に伸びていて、装飾までしてあり、入り口の前には10段ほどの階段まで造られてあった。
その階段の前でフェンリルが止まる。
オーガの姿に戻ったラズクが先に入っていくので、ついていくと、中から強大な気配を感じた。
ドアを開けるとそこには5メルク以上ありそうな巨大なオーガが、巨大な石造りの椅子に座っていた。
かなり広い部屋で天井も高く、装飾品や水差しやコップまでもデカくて自分が小人になったような感覚に陥る。
そのオーガは頭に5本に角が生えていて、長い牙は口から上に向かって突き出している。 他のオーガと同じように腰に毛皮を巻いているが、その上からマントを羽織っていた。
『·····なんだ、あのバカでかさは』
『ハイオーガのグレンだ』
······ハイオーガなんているんだ······
「これは、フェンリルではないか。 久しいのう」
地鳴りのような低い声だ。
「グレン、息災にしていたか」
「もちろんだ······ん?···その人間はフェンリルの知り合いか?」
俺の視線を落とす。 見られただけで凄い威圧感だ。
ラズクが一歩前に出る。
「グレン様、 我々は危ない所をフェンリル様と加護者様に助けていただきました」
そう言われてグレンは俺の肩に止まるレイに気がつき、ガバッと立ち上がった。
立ち上がると本当にデカい。 俺はグレンの腰の高さほどもなく、高いと思った天井はグレンの頭の高さギリギリだった。
何をするのかと思ったら、ズズン! と床を震わせてひれ伏し、角を地面にこすりつける。
「私はオーガを統べておりますハイオーガのグレン。 仲間を助けていただきありがとうございます! そのうえオーガの里に加護までいただき、ありがとうございます。 オーガは受けた恩は必ずお返しします」
『えっ! オーガって妖精?······な訳ないよな』
『魔物だ』フェンリルが当然というように答える。
『魔物にも加護を与えることができるのか?』
『多分、加護の垂れ流しで、里単位で与えたのだろう』
『たれ······酷いなぁ』
「最近は随分ましにはなってきたものの、邪悪な気が我らを惑わせ、初めの頃はオーガ同士の喧嘩や殺し合いが絶えなかったのです。 そこでドライアドに浄化をしてもらい、なんとか収まったのですが···これで安心です」
ドライアドともお友達なんだ。 しかしいつまでもひれ伏していられても······
「とにかく座ってください」
グレンはお許しありがとうございますと、デカい椅子に腰かけた。
椅子に座ったグレンを見上げてフェンリルが話し出す。
「邪悪な気といえば······ブラックドラゴンが生まれたのに気付いたか?」
「やはりそうか······もしやと思ってはいたのだが······これはまずいな······」
グレンは腕組みをして唸る。
「どうやらレンドール国にいるようなのだが、我らは戦いに向けて動き出すつもりだ。 その時には協力をしてもらいたい」
「もちろんだ。 人間だけの問題ではない。 200年前のようにな。 しかし今回は勝てるかどうか······」
「えっ?! 200年前? 200年前の大戦に二人は参戦していたのか?」
黙って聞いていた俺は、驚いて声を上げた。
「知らなかったのか? ガドルも一緒に戦った」
相変わらずフェンリルが当たり前だろ的に答える。
「先生も······」
そうか。 寿命が200歳ならありうることだ。 なぜ気がつかなかったのだろう。
アンドゥイ国の王様が言っていた。 精霊と妖精と、そして一部の魔物も一緒に戦ったと。
少しずつ俺の中で現実味を帯びてきた。 同じ戦いをこの二人は経験してきたのだ
激しい戦いを。
そしてこの戦いの中心に俺がいる。
―― 俺がみんなを率いてブラックドラゴンとその竜生神を倒さないといけないんだ ――
俺の中で何かが変化していくのを感じた。
俺はグレンを正視した。
「俺はこの戦いに負けるつもりはありません。 必要な時には呼びますので、必ず来てください。 それと、ドライアド以外にも、ハービーやグリフォンとも交流があると聞きました。 彼らとも連絡を取っておいてください。 そのうち俺の方から訪ねてみたいと思います」
グレンは当然のように俺の対して片膝をついた。
「承知いたしました。 連絡要員としてラズクを連れて行ってください。 ラズクは離れていても私と意思の疎通ができます。 呼ばれればすぐに参上いたします」
◇◇◇◇
外に出ると日は沈み、真っ暗になっていた。 下弦の細い月で辺りはかなり暗いが、フェンリル達には何の問題もない。
ラズクが狼に変身して待っている。 フェンリルよりは一回り小さく、黒っぽい狼だ。
オーガに別れを告げ、俺たちは商隊に戻った。
シークの心が動き始めた。
(;゜0゜)




