4章 大猪
ゴブリン村に招かれた俺たちは凄い人に会わされた。
そして、ゴブリン村を後にした俺たちに襲いかかる巨大な影!!
4章 大猪
という事で、俺たちはゴブリン村で世話になる。
ここの食事は思ったより悪くない。
沢山の木の実や香草で焼いた肉。 何で作ったのかパンみたいな物と、酒まである。 少し飲んでみたが、ちょっと酸味があるがフルーティーでなかなか美味しい。
ホブブが色々説明してくれた。
鹿肉、牛肉、猪肉それぞれにはこんな香草がいいとか、こんな焼き方をすると美味しいとか、パンみたいなのは[パラン]と言い、[ココト]という草を種ごとすり潰して牛のミルクと捏ねて鍋に貼り付けて焼くらしい。
酒は[テュンダ]という木の実を口の中で咀嚼したのを吐き出してから濾して発酵させるとか······
······俺は未成年っぽいので、お酒は遠慮する事にした。
ゴブリンたちは陽気だ。 言葉は訛りがきつくて分かりにくいが、よく喋り笑い踊る。 みんなが代わるがわる俺の元にきて、なにやら御礼のようなものを述べていく。 なんだか分からないが、喜んでくれているからこちらも嬉しい。
こんなものを見てしまったら、次からゴブリンに森で襲われても殺せなくなってしまうじゃないか。
夜も更けて宴が終わり、一軒の家に案内された。
他に比べると少し大きくて立派(?)な家だ。 ほかと同じく木を葉っぱで囲んでいるだけだが、入り口には布が垂らされていて、中の床にも布が敷いてある。 他の家は入り口は開いたままだし、床は土が丸出しだったように見えた。
もしかして、俺のために急遽準備をしてくれたのかもしれない。
寝床も枯草の上に布をかけてあるだけだが、寝心地は悪くない。 横になると、レイが懐に潜り込んできた。
確かに寝心地は悪くはない。 たまに鼻につくウシやヤギの落とし物の香りさえ我慢すればだが。
◇◇◇◇◇◇◇◇
翌朝、出発する時、どうやら全員が見送りに来てくれたようで、凄い数だ。
これだけのゴブリンとホブゴブリンに囲まれると、なかなか壮観だ。
子供や年寄りのゴブリンに、雄と牝····いや、男性と女性も見分けられる。 魔物というより、ちょっと原始的な人間って感じ?
そして、みんながみんながとても嬉しそうだ。 お礼を言いに来るものや、拝んでいる者までいる。
なにがそんなに嬉しいのかは分からないけど、そう見える。
20人(数え方が[頭]から[人]になってしまっている)ほどのゴブリンが一緒に行くという。 どうやら狩りに出るのでついでに途中まで案内してくれるらしい。
代表でゴブブが挨拶に来た。
「ありがとうございました。 いつでもまたおこしください」
丁寧に頭を下げる。 もう、ただの魔物とは思えなくなっていた。
やっぱり、なにが「ありがとう」なのかは分からないけど······
村人たちに別れを告げて出発した。
小さなゴブリンたちが俺の前と後ろを、大きめの裸足の足でペタペタと歩く。 先頭のゴブリンは一生懸命草や蔓を払って道を作ってくれる。
小さな自分たちなら簡単にすり抜けられそうなのに、やはり俺たちのためにしてくれているのだ。
なかなか可愛い。 一晩一緒にいただけで愛着がわいた。
俺って博愛主義者かも。
来た道を戻り、崖が見えてきたので、ゴブリンたちと別れた。 ゴブリンたちは何度も振り返りながら遠ざかっていった。
『また二人になったな。 まぁ、急ぐ旅でもないから、ゆっくりいこうな』
キュイ
トボトボと歩いていると、遠くの方でドドドドドッ!!と地鳴りのような凄い音がしてきた。
『な···なんだ?!!』
音がする方を見ると、木々をなぎ倒しながら何かがこちらに向かってくる。
『おいおい! なんかまずいぞ!』
それから逃げるように動物たちが俺の横を駆け抜けていく。 その中にゴブリンたちもいた。 後ろを指差し、何かを叫びながら通り過ぎる。
『えっ?』
来た!!
巨大な大猪だ! それも肩までの高さが3メモク以上はある。
真っ黒な小山のような体に、長い牙が2本ずつ口元から伸びている。 背中の毛が針山のように逆立っているため、より大きく見える。そして毛は硬いのだろう、周りの木の枝をバキバキ折りながら葉をまき散らしてこちらに向かってきている。
『ウソだろ?!!』
すでに俺も駆け出していたが、もう目の前まで来ていて、どうやら大猪は俺にロックオンしている。
『なんで俺ぇ?!!』
レイは飛んでついてきていて心配ないが、俺は木の間を縫うように走る。
猪とは普通、小回りが苦手だから引き離せるかと思ったが、何のことはない。 邪魔な木はバキバキと倒しながら真っ直ぐに俺に向かって迫ってくる。
『ヤバいぞ!! あんなの剣で倒せないし、炎じゃこの辺りの森が燃えてしまう!! 木を倒しながら真っ直ぐに走るって反則じゃないかよ!! ど···とうしよう?! あれが木じゃなくて岩なら良かったのにぃ!!』
その時、ズドドォォン!! と凄い音がした。
走りながら後ろを見ると、大きな岩がそそり立っていて、それにぶつかって大猪が倒れていた。
『え?······岩?』
しかし、考えるより早く倒れた大猪に向かい、飛び乗って止めを刺す。
ブギィィィィ!!!
耳をつんざくような大きな雄叫びを上げて、バタバタと足を痙攣させていたが、そのうち大猪は動かなくなった。
『ふぅ~~』
俺は大猪の上で座り込んだ。
『あんな所に岩なんか無かったよな······もしかしてあれも俺の力?······んな訳ないか』
キュイ、キュイ!
レイは嬉しそうにうなずいている。
『えっ? 本当に俺の力か?』
キュイ
俺が試しに『岩』と唱えると、ズズッ!と大きな岩が地面からせり出してきた
『わおっ! 俺って凄い?······もしかして······』
試しにせり出した大きな岩に向かって『砂』と唱えると、ザザッ! と崩れ落ちて砂の山になった。 今度は『石』と唱えてみると、手の上に拳大の石が現われる。
『俺······すげぇ······』
その時、逃げて散っていたゴブリンたちが恐る恐る集まってきた。
こいつら俺にこの化け物を押し付けやがってと少し思ったが、おかげで新たな魔法を使えることが分かったから、許してやる事にした。
俺って心が広い。
ゴブリンたちは大喜びして大猪の周りで踊りだす。
何人かが村の方に走っていき、すぐに沢山のゴブリンとホブゴブリンを連れて戻ってきて、もう凄い騒ぎになった。
しかし、誰も大猪に触ろうとしない。 不思議に思っていたらホブブが俺の前に来た。
「このモリノヌシをたおしてくれたのはカゴシャサマとききましたがほんとうでしょうか?」
こいつは森の主だったのか······殺してマズかったのかな?
そう思いながらうなずいた。
「ありがとうございます!」
ホブブと共に、他の者までがひれ伏した。
倒してよかったんだと、少しホッとする。
「われわれにもめぐみをわけていただけますか?」
そのつもりでこれだけ集めてきたんじゃないのかよと思ったが、ちょっと尊大に頷いて見せた。
「ありがとうございます! おゆるしをいただいた!」
ホブブがゴブリンたちにそう言うと、盛大に解体ショーが始まった。
沢山のゴブリンがアリのように大猪に群がる。 皮を剥ぎ、肉をそぎ落とし、内臓をカゴやナベに入れて次々と運び出していく。
あっという間に骨だけになっていった。 いや、骨も半分以上なくなっている。
そして皮や内臓はもちろん、牙や蹄までもがキレイになくなっている。 さすがだ。 大切な天の恵みを余すところなくここまで利用するのかと感心した。
ホブブが草で編んだカゴに入った肉を俺の所に持ってきた。 俺の分け前というのだろう。
ありがたく頂戴する。
何度も何度も礼を言いながら帰っていくゴブリンたちを見送った。
ゴブリンって妖精だったのですね(;゜0゜)