38章 アンドゥイ国
アンドゥイ国に向かった。
虫の化け物は出なかったが、2日目からの長雨には閉口した。
38章 アンドゥイ国
風呂から戻ると部屋には飲み物とお菓子や果物と、着替えの服が置いてあった。
「おっ! これは俺たちのために用意してくれてるのか? 凄いな」
「なんだよ! 至れり尽くせりじゃないか」
二人はさっそく置いてあったラフな服装に着替え、お菓子をつまんでくつろいでいる。
もちろんレイも一緒に。
すぐにハンスが入って来た。
「よろしければお召し物をお洗濯致しますがいかがなさいますか? 明日の朝までには乾くと思います」
マルケスとフィンは遠慮なく今脱ぎ散らかした服を渡した。
「シークはいいのか?」
着替えようとしない俺を見て不審そうに聞く。
「俺は大丈夫、後で着替えるよ」
さすがに寝るときには楽そうな服の方がいいが、洗濯の必要がないので今着替えることもないだろう。
俺たち3人はソファーに座ってくつろぐ。
「なんだか優雅だなぁ······」
「そうだな。 こんな暮らしがしてみたいなぁ」
「スーガはどうしているんだろう······」
俺が呟くと、フィンが面白そうに答えた。
「今頃牢の中だったりして」
「そんな訳ないだろう。 ちゃんと扱ってもらっているさ。 俺たちほどじゃないだろうけどな」
マルケスはハハハと笑った。
「そいうえば、牢屋ってどんなところなんだろう」
「俺、入ったことあるぜ」
フィンがマルケスに、なにげに自慢げに答える。
レンドール国で悪さをしていたと言っていたから捕まったことがあるのだろう。 マルケスがどんな所なんだと、興味深げに身を乗り出す。
「暗くてじめじめしていて、臭いんだ。 それも凄く。
小さな格子が入った窓が一つだけだから空気は淀んでいるし、風呂も入れてもらえないし、便器代わりに小さなバケツがあるだけなんだぜ。 二度と入りたくないね」
俺は前に夢で見た牢を思い出した。
あそこには窓さえなかった。
ついていた明かりもすぐになくなり、指先も見えない真っ暗な芭蕉だった。
一人であんな所に長くいると、気が変になってしまうような場所だった。
◇◇◇◇◇◇◇◇
翌朝、アンドゥイ国に向けて出発する時間になった。
牛車が12台で、人間が40人の大所帯だ。
先頭にマルケスとナックル。 真ん中あたりに俺とフェンリル。 最後尾にフィン。
スーガと合流するとフィンとスーガ2人で最後尾を護る手はずになっている。
まだ暗いうちに動き出した。 俺たちは馬に乗っているが使用人たちは牛車と一緒に歩いていく。
最近はあの巨大生物の姿はめっきり減ったという。 俺の出番はないかもしれない。
出発した日の夕方、スーガがひょっこりと現れた。
「スーガ! 大丈夫だったか? 酷い目にあわなかったか?」
「マルケス、本当に捕まったわけじゃないんだから酷い目に合う訳ないだろ」
「そりゃそうだ」
フィンが合の手を入れ、みんなで笑い合った。
スーガが合流した事をナックルにも報告して再び歩き出した。
◇◇◇◇
片道4日の旅。 特に襲ってくる魔物もおらず、快適な旅······と言いたかったが、 2日目からの雨には閉口した。
久しぶりにこんな土砂降りの長雨に遭遇した
道はぬかるみ、牛の足や荷車の車輪がはまり、普段チョロチョロと流れている程度の小川が濁流となり氾濫寸前で、注意しないと牛車がずり落ちそうになる。 俺たちも馬から降りて牛車を押すのを手伝った。
夜の野営の時もテントの中にまで水が入ってきてゆっくりと眠れず、みんな疲労困憊の様子だ。
そんなこんなで片道4日の予定だったが、6日もかかってしまった。
6日目の夕方、アンドゥイ国に到着したときには、みんなは疲れ果て、倒れる者までいたほどだ。
いつもなら1日で荷の積み下ろしを終え、翌日には戻るのだが、今回はみんなの疲労の回復のため、3日間の休みを置いて出発することになった。 その頃には雨も止んでいるだろう。
◇◇◇◇
「いやぁ~~、酷い雨だったな」
俺たちは晩飯を食べに酒場の中に落ち着き、マルケスが開口一番参った参ったと言う。
スーガは相変わらずフードを被っているが、俺も周りに騒がれるのが嫌なので、レイに頼んで今の服にフードを付けてもらった。
なんとも便利なレイの能力だこと。
もちろんレイとキリルは姿を消している。
「傭兵組合には明日行くのか?」
フィンが聞いてきた。
「明日で大丈夫だろう。 俺はこの国は始めてなのだが、傭兵組合の場所は知っているか?」
「もちろんだ。 任せておけ」
マルケスが胸を叩く。
「ところで、手紙にはなんて書いているんだ?」
「見てないから知らないよ」
「手紙? 何のことだ?」
スーガはえっ! という顔で俺を見る。
出発直前でガドルに渡されたから、当然スーガは知らない。
「あぁ、ガドル先生からアンドゥイ国の傭兵組合長のアッシュさんに手紙を渡すように頼まれたんだ」
「へぇ~そうなんだ。 そういえばアッシュさんも竜生神なのは知っていたか?」
「えっ? そうなのか?」
「おう。 彼は火と地と水だったっけな。 ドラゴンは見た事ないが······」
「そうなのか、 楽しみだな」
「そういやぁ、この国には他に竜生神はいないのか?」
「俺はこの国の竜生神の事は、彼以外俺は知らないな」
マルケスとスーガも知らないと言う。
それでも俺は、新たな竜生神に会えると聞いて期待が膨らんだ。
その時料理が運ばれてきた。
「食べていい?」
もちろんそう言ってきたのはレイだ。
姿を消しているくせに飯は食うのか?
みんなもその声を聞いて笑っている。
「周りに分からないように食えよ」
「わかった! いただきま~~す」
テーブルに置いたままの食事が少しずつ減っていく。 これなら良く見ないと分からない。
本当に困った天龍だ。
しかし、みんな他国に来たことと、しばらく仕事がないという解放感からか、よく飲んだ。
フィンは酒に弱いので普段はあまり飲まないが、今日は例外のようだ。 マルケスは真っ赤な顔をしているが酔ってもあまり変わらない。
スーガも珍しく酔っている。 赤い顔をして少し目がいきかけていた。
そういえば、と、フェンリルの方に顔を向ける。
『なぁフェンリル。 俺の毒素······アルコールをレイが分解してくれたって言ってたよな。 それにしてはスーガは結構酔っているんだが?』
フェンリルはバカにしたような目で俺を見た。
『知らないのか? 加護者の毒素を代わりに分解するなんて馬鹿げた能力は天龍だけだ』
『だから、しらね~よ!!』
フェンリルは面白そうにクックックッと笑っている。
『あっ! お前、もしかして、今までも俺の記憶がないのを分かっていて、わざと言っていたのか?!!』
『クックックッ、今頃分かったのか。 クックックッ』
俺は何も言わずにフェンリルの頭をゴンッ!と殴った。
『いってーなぁ!』
『人の事をバカにするからだ』
『バカにされないようにサッサと記憶を取り戻すんだな。 クックックッ』
フェンリルはやけに楽しそうに笑った。
やっとアンドゥイ国に到着した。
明日は傭兵組合長のアッシュに会う。
ガドルからの手紙とは?




