37章 マルケス
フェンリル商団で泊まることになり、豪華な露天風呂に三人で入った。
37章 マルケス
という事で、俺たちはフェンリル商団に来た。
「お待ちしておりました」
ナックルが迎えてくれた。
マルケスとフィンは、ここに泊まるのは初めてで、団長室しか入ったことがないという事。 奥の方の居住スペースももちろん初めてだ。
今回も俺だけ前に泊まった広い部屋にと勧められたが、断固固辞してマルケスたちと同じ部屋に泊まりたいとお願いした。 すると、かなり広い4人部屋に通された。
「わぁ~~~ お前、こんな凄い部屋を断って寄宿舎に来たのか?······もったいない」
「この壺なんて、きっと物凄く高いぞ」
二人ともキョロキョロしている。
寝室は2人部屋が2つなので、片方の部屋を2人で使ってもらい、俺とレイとフェンリルで一部屋を使う。
「部屋も凄いが風呂はもっと凄いぞ。 それだけが心残りだったんだ」
「楽しみだな」
「おう!」
そこに使用人のハンスが来た。 前にも世話をしてくれた人だ。
メイドたちじゃなくて、少しホッとした。
「昼食がまだとお聞きしましたので御用意いたしました。 こちらへどうぞ」
前にも通された豪奢な食堂には、豪華な食事が並び、もちろんフェンリル団長がすでに待っていた。
なんだか一段とデップリした頬をプルンプルンさせながら笑っている。
「ようこそおいで下さいました。 どうぞお座りください」
俺たちが席に着くなり、レイは豪華な食事にかぶりついていた。
「話はお聞きしております。 スーガ殿の事を知っているのは私とナックルだけでございます」
なんだかもの凄く得意げだ。 秘密を共有できるのが嬉しいのか?
マルケスとフィンが豪華な食事を見て「すげ~~! すげ~~!」と言っているのを聞いて、更に得意そうにしていた。
「スーガには申し訳ないな」
「本当に。 すまん! スーガ!」
二人は天に向かって両手を合わせてから食べ始めた。
フェンリル団長は、今回はなぜかあまり喋らない。 というより、マルケスとフィンは食べるのに夢中で団長の話を全く聞いていないし、俺も夢中で食べるふりをしたので諦めたみたいだ。
しかし、フェンリル団長の顔を盗み見すると、俺たちの食べっぷりに満足している様子なので······まあいいか。
デザートまでたっぷりと食べてマルケスとフィン(とレイ)は満足した様子だ。
「フェンリル団長、ごちそうさまでした」
「「ごちそうさまでした」」
「ご満足いただけた御様子で、良かったです」
「この後、前に入らせてもらったお風呂に今回も入らせてもらってもいいですか?」
俺が言うと、フェンリル団長は少し驚いた風だったが、ニッコリと笑った。
「お風呂を気に入っていただけたとは光栄です。 ぜひお入りください」
という事で、ハンスに案内してもらう。
例のごとく、二人は感嘆の嵐だ。
「すっげぇ~~~~ 露天風呂じゃねえか!!」
「ドラゴンの口からお湯が出てるぞ!」
「あっちは女風呂か?」
「残念。 誰もいないようだな」
感想は俺と同じか······
3人でお湯につかる。 例のごとくレイは泳ぎ回り、フェンリルは隅で寝転がっていた。
しかしフィンもだが、マルケスは本当にいい体をしている。
「前に修羅場を潜り抜けてきたって言ってたよな。 若い頃から傭兵だったのか?」
マルケスは自分の腕を水から出して、力こぶを作ってみせる。
まあな······と言いながらタオルを畳んで頭に置いた。
「俺の家は小さな商店で貧乏だった。 そんな家が嫌で、大人になったら傭兵になって稼いでやるとずっと思っていた。 家の手伝いをしながら体を鍛えて剣の練習をしたものだ」
マルケスは自嘲するようにフッと笑う。
「15になったらすぐに傭兵組合に行ったが、もちろんEクラスにさえ受からなかったよ。 誰かに教えてもらおうとも金のない俺には誰も教えてなんてくれねえ。
そこで強そうなおっさん見つけて、ただでいいから護衛に行く時に連れて行ってくれと頼み込んだんだ。 オルガというおっさんだった。
不愛想だが気づくとよく面倒を見てくれていた」
思い出すように少し遠い目をする。
「世の中に出ると、俺がどれだけ無能か思い知ったよ。 でも、夢中で戦った。 殴られても斬られても立ち向かっていった。 そしてやっとEクラスに合格したときには、オルガのおっさんも凄く喜んでくれたものだ。
それからも仕事の時はオルガのおっさんがいつも俺も連れて行ってくれて、そのうちCクラスにまでなれたんだ。
その時俺は16歳になっていた」
チョロチョロとドラゴンの口から流れ出るお湯の音だけが響き渡る。
「俺は浮かれていた。 Cクラスになって、凄く強くなった気になっていた。
ある時、オルガのおっさんも一緒に商隊の護衛をしている時に、30人程の盗賊に襲われたんだ。 こちらは6人だけだった。 俺も数ヶ所に傷を負ったものの負ける気がしなかった。
······その慢心が油断を生んだんだろうな······
俺が後ろから来た敵に襲われたのを、オルガのおっさんが俺をかばって斬られたんだ。
何とか盗賊は退けたが、その傷が元でオルガのおっさんは命を落とした······俺が使っている大剣はオルガのおっさんが使っていたものだ」
俺とフィンは言葉を発することなく黙って聞いていた。 いつの間にかレイも俺の横で大人しく聞き入っている。
「そんな時に会ったのがスーガだ。
奴も16歳になったばかりで、ヒョロッとしてやけにすました野郎だったが、なんだか放っておけなかった。
スーガはすぐにCクラスまで合格して俺と共に色んなところに行ったものだ。
危険と言われる仕事を率先して取ったんだ。
スーガも早く強くなりたかったのだと。 で、そろってBクラスに受かって今に至る······だな」
「「ほぉ~~~っ」」
フィンと俺は息を吐いた。
「あの大剣にはそんないわくがあったのか」
「オルガさんは残念だったな」
マルケスはニッコリと笑う。
「今の俺があるのはオルガのおっさんのおかげだと思っている。 もっとも、体中傷だらけだったんだが、お前やアニエッタさんに回復してもらった時に古傷も消えてしまったがな」
しばらくの沈黙があった。
「ところでフィンはなぜニバール国に来たんだ? レンドール国は生まれ故郷だろう?」
マルケスはフィンを見ずにタオルで顔を拭きながら聞いてきた。
「俺にはマルケスのようなドラマはないぞ。
猟師だった両親が早くに死んで、孤児院で育ったんだ。 しかし物心ついた頃からおやじに教えてもらったおかげで子供の時から弓には馴染みがあったんだ。
ただ、生きていくには猟師よりも傭兵の方が性に合っていると思っただけだな。
レンドール国では子供頃にけっこう悪さをしたんで、俺を知る人がいない国に来たかっただけだ。
俺にとってはどこの国でも構わなかったからな。
でもこの国にきて正解だった。 お前たちに会えたからな」
フィンは俺とマルケスの肩をトンと叩く。
マルケスは「そ···そうか······」と言いながら少し赤くなっていた。
「なんだよマルケス、照れているのか? 俺にはそんな趣味はないぞ」
「ばっ! バカ野郎! 風呂が熱いだけだ! そろそろ上がろうか······暑い暑い······」
そう言いながらマルケスはサッサと上がっていった。
俺たちも笑いながら、それに続いて露天風呂を後にした。
マルケスの大剣にはそんないわくがあったのですね( ´∀` )b




