36章 スーガ逮捕
白馬亭に兵士が入ってきて、スーガを逮捕して連れていった!
36章 スーガ逮捕
部屋でゆっくりしている時に、ノックがあった。
「こんな時間に誰だろう?」
ドアを開けると、Sクラスの寄宿舎の使用人だった。
「先ほどフェンリル商団の方がいらして、護衛の依頼をしたいのでできれば今から来てほしいとの事です」
「フェンリル商団ですか? わかりました」
暗い夜道の中をフェンリル商団に行くと、沢山の従業員が待っていてくれた。 幾つも見覚えのある顔があって、その中には例の3人のメイドの顔もあった。
「「シーク様! こんばんは!!」」
「相変わらずフェンリルさんは凛々しいですね!」
「レイちゃん! 可愛い!」
「シーク様、たまには顔を出してくださいよ」
そういえば、あれ以来フェンリル商団に顔を出していない。
「すみません。 みなさん、お元気でしたか?」
みんなが嬉しそうに頭を下げてくれる。
団長の部屋に行くと、相変わらず目の前にはお菓子が山積みになっていて、横にはくそ真面目そうな細面の男性が立っていた。
「お久しぶりです」
「シーク様、よくいらしてくださいました。 明後日からアンドゥイ国に行く商隊の護衛をお願いしたいのですが、大丈夫でしょうか?」
「もちろん大丈夫ですが、俺1人でですか?」
そこにマルケス、スーガ、フィンが入って来た。
「よお!」
「シークも一緒なら安心だな」
「よろしく」
彼らも一緒のようだ。
4人が揃ってフェンリル団長は満足げにうなずく。
「今回の行商に私は行けませんが代わりに番頭の[ナックル]がお供します。 アンドゥイ国は近いですから、往復10日くらいの日程になります。 よろしくお願いいたします」
俺たちは頭を下げた。
クソ真面目そうな男性が一緒に行くのか。 俺は始めて見る顔だが、マルケスたちは顔見知りの様だった。
簡単に打ち合わせをしてから、夜食を一緒にと言うのを固辞してフェンリル商団を後にした。
道すがら、スーガに小声で聞いた。
「スーガ、マルケスとフィンにあの話はしたのか?」
「うん。 ガドル先生がマルケスとフィンには話しておくようにと言われたからな。 申し訳ないが、ヨシュアたちにはもうしばらく黙っておいた方がいいだろう」
俺はクスッと笑ってしまった。
「おれもそう思う。 ヨシュアたちはポーカーフェイスができそうにないし」
「お前、笑っている場合じゃないだろう。 2回も殺されそうになったのに」
マルケスは心配そうに俺の胸を叩く。
しかし、フィンはともかく、マルケスにもポーカーフェイスは無理そうに思えるけど、大丈夫かなぁ······
「今日、ずっとフェンリルに探してもらっていたが、コーマンはこの街にいなさそうだし、今は大丈夫だろう」
「お前、けっこう能天気な所があるんだな」
マルケスはあきれ顔だ。
「ハハハハ それは俺も思っていた」
そういえば、目覚めた時に自分で自分が能天気だと思った事を思い出した。
「自分で言うなよ」と、フィンに突っ込まれた。
「もう油断はしないだろうし、シークとフェンリルの事だから心配いらないだろう」
スーガが当然の事のように言う。
なぜスーガはそんなに自信満々で言えるのだろう? 今までの2回の襲撃も、運がよかっただけなのに。
実はみんなが思っている以上に自分では警戒しているつもりだ。
能天気なのは間違っていないと思うが、みんなに心配させたくない。
そんな俺をフェンリルは見上げる。
しかし······と、マルケスがしたり顔で俺を横目で見る。
「俺は初めから怪しい奴だと思っていたんだ」
「まだ犯人と決まったわけではないからな」
「攻撃した日から姿を消したんだ。 犯人としか思えないだろう」
「そりゃそうだ」
フィンが合いの手を入れるが、心配そうな表情に変わった。
「なぁ······また姿を現すかな」
「わざわざスーガを犯人に仕立てたんだ。 自分は疑われていないと思っているだろうな」
「しばらく俺は姿を消した方がよくないか? じゃないとコーマンは出てこないような気がする」
そう言うスーガの意見にみんなは賛同する。
「今日はもう遅いから、明日の朝、俺からガドル先生に相談しておくな」
◇◇◇◇◇◇◇◇
翌朝、俺が一番に食堂に入った。
しばらくすると、レイが入り口の方に飛んでいった。
「来たな」
ドアが開き、ミンミが飛んできて、すぐ後ろからアニエッタが入って来た。
俺はアニエッタに手をあげて挨拶をする。
うん! 朝から可愛い!
「シークさん、おはよう」
「もう大丈夫?」
昨日、アニエッタは訓練中も少し調子が悪そうだったと聞く。
「ええ。 もう平気」
にこやかな表情で優雅に俺の隣に座る。
レイとミンミは、今までは元気に飛び回っていたのに、あの襲撃事件からは大人しくフェンリルの背中の上に二人で止まるようになった。
なぜわざわざフェンリルの背中?
すぐにガドルが入って来た。
「おはようございます」
「フフフ、フェンちゃんが二人のクッションになっているのね」
ガドルのドラゴン、ルーアが楽しそうに言う。
フェンリルはフン! と、鼻を鳴らしただけで、嫌がるそぶりはない。 なぜかフェンリルはレイに甘い。
俺にも優しくしてくれよ。
っと、それはいいから、俺はスーガの提案と、明日からアンドゥイ国に行く事を話した。
「ふむ。 コーマンという男はこちらで調べた限り見つからんかった。 最近この国に来たのなら、それなりの痕跡があるはずなのじゃがそれもない。
家も宿もわからん。 紫の髪色なら誰かが見ているはずなのじゃが、白馬亭で見たこと以外はなにも分からんのじゃ」
少し、言葉を切って思案してからフェンリルを見た。
「気配は見つからんのか?」
「我の探索魔法が届く範囲にはいない」
実は俺も結構探したが、見つからなかった。
「ふむ。 そうか······成り行きを見守るために身を隠しているか、それとも諦めて逃げたか。 もしくは、2度の失敗を親玉に報告にでも行ったか······
いずれにしてもスーガの疑いが完全に晴れた事は知られていまい······それなら······スーガに捕まってもらおうかのう」
「捕まるって! スーガが捕まるのですか? どういうことですか?」
「フォフォフォ。 本当に捕まえる訳じゃないわ。 捕まったという事にしてアンドゥイ国に行っていればいいのじゃ。 スーガが捕まったと聞けば、奴はのこのこ現れるじゃろう」
「わかりました。 しかし、本当に現れますでしょうか?」
「現れなければそれでよいじゃろう」
◇◇◇◇
その日の昼食を取ろうといつものメンバーで白馬亭に入ろうとした時に、後ろから数人の兵士が来て、スーガを取り囲んだ。
「スーガ・ディーワンだな。 大人しくついてきてもらおう」
そう言ってスーガの腕をつかんだ。
「待てよ!」割り込んだのはもちろんマルケスだ「なぜ連行するんだ! スーガが何をしたというんだ!!」
フィンやヨシュアたちも、今にも殴り掛からんばかりの勢いだ。
「それは、調べればわかることだ」
そう言ってスーガを連れて行ことする兵士の腕をマルケスが掴み、その腕を俺が掴んだ。
「誤解なのは分かっているのだから、心配ないだろう。 後でガドル先生に相談しよう」
「グッ!······まぁ、今、盾突いても解決にはならんからな。 分かった」
マルケスはスーガの前に立つ。
「なにも心配するな。 俺たちが必ず出してやるからな」
「大丈夫さ。 心配ない······ありがとう」
兵士たちはスーガを連れて行った。 それを見送るマルケスは泣きそうになっている
俺は心が痛んだ。
「先生の所に行こう」
もちろんそう言ったのは俺だ。
「ゾロゾロ大勢で行っても迷惑だから、マルケスとフィンと俺で行く。 ヨシュアたちは心配しないで待っていてくれ」
どうしても一緒に行くというヨシュアたちを残して、俺たちはガドルの家を訪問した。
◇◇◇◇
マルケスはドカッとソファーの背もたれに倒れ込んだ。
「俺たちにも内緒にするって、どうなんだよ······もう少しで兵士を斬ってしまう所だったぞ」
「悪い、悪い。 マルケスには芝居は出来ないだろうから、真実味を出すために黙っていたんだ」
「正解だな」と、フィン。
ガドルから、スーガは形だけ捕まった事にするという話を聞いて、マルケスとフィンは肩の力をやっと抜く事ができた。
「で? この後はどうするんです?」
「スーガは捕まっているという事にして、こっそりとこの国を抜け出させて、途中でフェンリル商団と合流することになっておる。 帰りもしばらくはスーガには近くの知り合いの家に隠れていてもらうつもりじゃ。 コーマンがいつ来るか分からんからの」
「わかりました。 ヨシュアたちには上手く言っておきます」
「いや、わしの方から言っておこう。 おぬしたちは今日の訓練は休むのじゃろう?
夜も彼らには会わんほうがよいと思って、今日はフェンリル商団に泊まってもらうように手筈を整えておるので、この後すぐに行くように。
あぁ···忘れるところじゃった」
そう言って棚から封筒を出した。
「シーク殿、この手紙をアンドゥイ国の傭兵組合長アッシュ・セルカーン殿に渡してほしいのじゃ。
これは必ずシーク殿が直接アッシュ殿に手渡すように。 必ずじゃぞ」
俺は手紙を受け取った。
「わかりました。 必ず直接渡します」
コーマンは本当に犯人なのでしょうか?
( ゜ε゜;)




