34章 記憶掌握魔法
雷魔法で攻撃してきた場所に、スーガの気配があったとフェンリルが言う。
あり得ない!
34章 記憶掌握魔法
「なにがあったのじゃ?!」
帰ってくるなり抱きついてきたアニエッタにガドルは驚いて俺に問う。
「また攻撃されました」
「なんじゃと?!」
抱きつくアニエッタをさらに抱きしめながら、珍しく声を荒げた。
「今度は雷魔法でした。 フェンリルが気づいてくれたので結界が間に合ったのですが、そうでなければ危ない所でした。
アニエッタさんには怖い思いをさせてしまって申し訳ありません」
それを聞いて安心したのか、アニエッタの背中を優しく支えながらソファーに座った。
「それはお手柄でしたのう、フェンリル殿」
俺もソファーに座り、フェンリルは俺の横の床に座る。 レイとミンミはパタパタと飛んで、それぞれの竜生神の膝に乗った。
「すぐに殺気を追ったのだが、残念ながら分からなかった。 しかし、その後で知っている気配を見つけた」
フェンリルは厳しい顔を崩さない。 知ってる気配?
いやな予感がする。
ガドルは俺の顔を見た後でフェンリルの答えを待った。
しかしフェンリルは、なぜか少し逡巡してから、おもむろに答えたのだ。
「その気配とは······スーガだ」
「えっ?!」
俺は驚いて立ち上がる。 それで俺には先に話さなかったのか?
「そんなはずはない。 きっとたまたまそこにいただけだろう?」
「ふむ。 この街で雷魔法を持っているのはわしとシーク殿、それとスーガだけと把握しておるが、わしではないという事は彼が犯人なのか······」
「絶対に違います!」
俺はガドルの答えに被せるように否定する。
「ふむ······彼が犯人なのか······誰かに操られていたのか······それとも誰かが犯人に仕立てようとしたのか······偶然にしては出来すぎているのじゃ。 わしでなければスーガしか雷魔法を使える者はおらんからのう」
「もしくは、俺たちが知らない雷魔法の使い手がいるか」
なんとしてもスーガを疑いたくなかった。
「ふむ······可能性は否定できんの。 こちらで調べさせたところ、最近シークの事を聞きまわっている者がいるという。
おぬしは有名じゃから聞きまわっているくらいでは疑う根拠にはならなかったのじゃが、その中にフードを被った者がおって、フードの中に紫色の髪が確かに見えたという者がおってな」
「紫色?!」
俺はフェンリルと顔を見合わせた。
「なにか心当たりでもあるのかな?」
「はい。 最近知り合ったコーマンという男で、その男も紫色の髪をしています。 先生、紫色の属性は何になるのですか?」
ガドルは座り直し、すでに冷めているお茶を一口すする。
「ふむ。 我ら人竜族のこの髪は染めることができんのじゃが、唯一[ウェーグ草]という花から作った染料でのみ紫色に染めることができるのじゃ」
「何のために染めるのですか? 赤や緑も紫とそう変わらないと思うのですが」
「ふむ。 たまにどうしても赤い髪が嫌だと言って染めたいと言い出す者もおるにはおるのじゃが、どちらかと言えば自分の属性を隠すために染めることがあるようじゃ」
「では、コーマンは雷魔法を持っているかもしれないのですね」
「じゃからと言ってコーマンが犯人という事にも、スーガが犯人でないという事にもならんがのう······とにかく調べを続けてもらうしかないのう······シーク殿は注意を怠らないようにしておくことじゃ」
「······はい」
ガドルに支えられて自分の部屋に入ってくアニエッタを見送ってから自分の部屋に戻った。
◇◇◇◇◇◇◇◇
俺はドカッとソファーに座り込み、背もたれにもたれかかる。
「今日はフェンリルのおかげで助かった。 ありがとう」
早々とクッションで丸まっているフェンリルは尻尾を2回振って、俺の礼に応えた。
「風探索魔法は凄いな。 俺も習得しておいた方がよさそうだ。 レイ、頼む」
「うん······できたよ」
「ありがとう。 それにしてもスーガが犯人とは考えられないが·········」
何かはっきりさせる方法はないかと考えていたが、もしかしてと思ってガバッと起き上がる。
「レイ、何か心を読む魔法とか、記憶を読む魔法とかないか?」
「う~~~ん。 記憶掌握魔法ならできるよ」
「どうやって魔法をかけるんだ?」
「相手に触るだけでその人の記憶を視ることができるんだ」
「おぉ!! それを頼む」
「うん······できたよ」
「ありがとう。 レイで試してもいいか?」
「うん」
『記憶掌握魔法』レイに触ってみる。
―― ゴブリンの村で美味しそうな御馳走を食べている
―― 場面が変わった。
―― ドワーフの住処で美味しそうな御馳走を食べている
―― 場面が変わった。
―― フェンリル商団で美味しそうな御馳走を食べている
―― 場面が変わった。
―― ミンミと楽しそうに飛び回っていた ―――
「······お前、食べているところしか視えなかったぞ」
「へへへ」
恥ずかしそうに頭を掻いている。 でも、それが可愛い。
「今、どれくらいの間レイを触っていた?」
「タッチしただけだよ」
「えっ? けっこう長い間見ていた気がしたけど······」
「多分、視たいだけ視ていられるけど、時間はかからないよ」
「わぁ、便利だな」
『後で少しだけフェンリルを視てみよう』
心の中でほくそ笑むと、フェンリルが顔を上げた。
「俺を視ようとするなよ!」
「えっ!!」
考えていることを指摘され、俺は飛び上がって驚いた。 なんでバレたんだ?
『聞こえることを忘れるな』
フェンリルが心の中で話してきた。
しまった······そうだった。
◇◇◇◇
翌朝、食堂でガドルに記憶掌握魔法の事を話した。
「それも良いな。 いつまでも疑う訳にもいかんでのう······しかし、ゆめゆめ······」
「はい! 決して!」
アニエッタの記憶は絶対に視ないと、自分でも決めていた。
朝食後、部屋でガドルと待っていると、スーガが来た。
ガドルとうなずき合う。
「スーガ、ちょっとこっちに来てくれ」
『記憶掌握魔法』と、唱えてスーガの腕をつかんだ。
―― 「ただいま戻りました」
20歳くらいの5人の美しい男女がいる家に入っていった。 男性と女性一人ずつが黄色い髪色で、もう一人の男性は緑色、もう一人の女性は赤い髪色をしていて、最後の一人の女性は黒髪で、目がクリっとしていて、美人とは言えないが可愛らしい。
「あっ!! スーガさん!」
入ってくるスーガを見て、黒髪の女性が顔を赤らめる。(彼女が婚約者?)
「どうしたんだ?」
黄色の髪の男性が聞いた。
「どうやら進化が始まったようなので帰ってきました。 お父さんとお母さんも元気でした?」
「もちろんよ」
赤い髪の母親がスーガを抱きしめる。(黄色の髪の男性と赤い髪の女性が両親のようだ)
「私も抱きしめておくれ」
黄色い髪の女性が両手を広げて近づいてきて、スーガを抱きしめた。
「おばあさんもいつまでも若々しいですね」
「まだ80歳だからね。 でもおじいさんは150歳を超えてしまったから、そろそろ老化が始まってしまうかもしれないね」
―― 場面が変わった。
―― スーガは胸を押さえて苦しそうだ。
「ううっ······」
そのうち胸の辺りが光り出した。
ゆっくりと20メクほどの丸い光が胸からせり出してきて、スーガの前で漂っていた。
そっと手を伸ばしてその光を抱き寄せた。
「大丈夫、出ておいで」
優しく囁くと、フワッと光り、丸い光だったものが、黄色地に鬣と翼が緑色のドラゴンになった。
「生まれてくれてありがとう」
スーガはそのドラゴンを優しく抱きしめた。
―― 場面が変わった。
―― フードを被って歩くスーガの前から男の子が走ってきた。
「お兄ちゃんの名前はスーガ?」
「そうだけど、なにか?」
「えっと~~~、シークっていう人が昼過ぎの鐘が鳴る時に、郊外の西側にある大きなカシギの木の所にきてほしいって。 伝えたからね! じゃあね!」(伝言をしたのは俺じゃない!)
そう言って走っていってしまった。
「カシギの木がある所? なんだろう?」
昼過ぎの鐘が鳴った。
「シークは隣町に行ってるはずなのに、なぜこんなところで待つんだろう? って言うか、どうやって言伝をしたんだ?」
「なにかおかしくない?」
聞こえてきたのはスーガのドラゴン、キリルの声だ。 姿は消している。
その時、街の方から一人の男が走ってきた。
「スーガさんですよね。 ガルント商団のカミルさんが至急来てほしいと言っていますよ。 言伝しましたからね」
それだけ言うと、、急いで戻って行った。
「変な日だなぁ······どうしよう」
「シークとは明日会えるでしょう? 仕事の話かもしれないから、カミルさんの所に急いだ方がいいんじゃない?」
「······そうだな······戻るか」
その時、ズドドーーン!! と、雷が落ちて、スーガは一瞬身をかがめる。
「わぁ! びっくりした! 落ちた場所は近いぞ。 でも雷が鳴るような雲はないのに······」
空を見上げていたスーガは、すぐに街の方に走り出した ―――
スーガじゃなかった!
スーガじゃなくて、良かったですね!
疑ってゴメン( >Д<;)




