32章 コーマン
突然現れたコーマン。 やけに俺に親しく話しかけてくる。
32章 コーマン
数日後、アニエッタも一緒に白馬亭で夕食をとっていると、フードを被った一人の男が近寄ってきた。
「こんばんは。 シークさんですよね。 お会いしたかったです!」
20歳前後の男で、切れ長の目で唇も薄くて、顔全体が線でできているような男だ。 フードマントの中は、ごく普通の町人の服装をしているが、剣を携帯しているのが見えた。
「何か用か?」
マルケスが剣に手をかけて聞いた。 珍しくフェンリルまでが警戒しているように見える。
「やめて下さいよ。 怖いな······僕はこういうものです」
そう言って脱いだフードの中から出てきたのはキレイな紫色の髪だった。
その男は俺の耳の側で、僕も人竜族なんですよとささやき、ここに座ってもいいですか? と、返事も聞かずに俺の隣に座ってきた。
「御噂は兼ねがね聞いていたのですが、やっと会えてうれしいですよシークさん。 僕の名前はコーマン。 よろしく頼みます」
「キレイな髪の色ですね」
始めて見る美しい髪色をしていた。
「まあまあまあ······」
コーマンはあまりそれには触れてもらいたくないらしく、フードを被り直したが、紫色って何の属性なんだろう?
「それより御綺麗な方ですね。 シークさんの彼女ですか?」
コーマンはフードの中から俺の向かう側にいるアニエッタの顔を覗き込んだ。
「バ···バカ! そんなんじゃないよ」
俺はあわてて否定する。
今はまだ·········
アニエッタも横で赤くなっていて、まんざら嫌そうでもなかった。
「そうなんですか? お二人の雰囲気からしててっきり······」
コーマンは俺とアニエッタを交互に見ながらニタニタ笑っている。
いやいや、そんなあからさまに······
「アニエッタさんも人竜族なのですね? 綺麗な髪だなぁ······もしかして白魔法ですか?」
「そうです。 今は傭兵組合の訓練の時に回復役を頼まれています」
コーマンは大げさに驚いて見せた。
「へぇ~~! この国の傭兵組合では訓練をするのですか。 それも回復が必要なほど厳しい訓練をするのですか!
厳つい男たちの回復をするのは大変でしょう。 絡まれたり迫られたりしないんですか?」
アニエッタはフフフと笑う。
「みなさん良い方ばかりで大変なことなど一つもありませんのよ」
「わぁ、俺も回復されたい」
「フフフフ」
俺も·········
「ところで、レインボードラゴンが一緒にいるって聞いたのですが、いないのですか?」
コーマンは俺の周りを見回した。
「いますよ。 姿を消していますけど」
「へぇ~~」
コーマンは店の中を見回してみるが、当然姿を消しているので彼には見えない。
「狼もいるのですね。 使役獣ですか?」
フェンリルの顔を覗き込む。
「キレイな狼ですね」
「あっ! 俺以外には懐かないので、手を出さないで下さいね」
「へ~~、狼とレインボードラゴンですか。 いいなぁ~~」
再び例を探そうと店内を探しまわるが、どうやら諦めたようで、話を変えてきた。
「ところでここの傭兵組合って資格を取れば誰でも訓練をしてくれるのですよね」
「そういう事になっています」
「僕もここで傭兵証を取ろうかな······腕には少し自信があるんで、Cクラスくらいには受かると思うんですよね」
いいなぁ~~と、マルケスたちを見回した。
「一度、組合の受付で詳しいことを聞くといいですよ」
「本当ですか? ありがとうございます! そうしてみます」
なんだか無邪気に喜んでいる。 笑うと一段と目が細くなり可愛くなる。
しかしさすがに人竜族。 目が細いといっても、色気があってとてもキレイな顔をしている。
「それはそうと、僕みたいに竜生神に······あっ!」
コーマンは口を押えた。 そして小声で俺に聞いてきた。
「この人たちに竜生神の事を話しても大丈夫でした?」
「彼らは知っているので大丈夫ですよ」
けっこう気を使ってくれていることが嬉しかった。
「あぁ······よかった。 で、僕みたいに竜生神になれなかった者も魔法が使えるようになるのでしょうか? あっ······僕、進化したばかりで何も知らないんです」
「僕も進化してから半年も経っていないので、あまりよく知らないのですが、訓練すれば魔法が使えるようになるそうですよ」
「まだ、半年ですか······僕と同じくらいですね」
コーマンはニッコリと笑うい、人懐っこい顔を向けてきた。
「シークさんはどんな魔法が使えるのですか?」
なんだかキラキラした目で聞いてくる。 魔法に憧れているのだろう。
「まぁ、色々です。 あっ、そろそろ帰ります。 アニエッタさんを送らないといけないので」
夜の鐘が鳴ったのだ。
「そうですか······」
コーマンはとても残念そうに肩を落とす。
「いつも晩飯はここで取っているので、また会えますよ」
コーマンはパッと顔が明るくなった。
「じゃぁ、明日も来ますので、相手してくださいね。 皆さんもよろしく!」
マルケスたちに片手を上げて挨拶をしてからアニエッタにニッコリと笑う。
「彼氏さんとばかり話をしてしまってすみませんでした」
頭を掻きながらアニエッタに首をひょいと下げる。
「まぁ! 彼氏さんだなんて」
アニエッタはまた頬を赤らめた。
「じゃぁ、また」
俺たちは立ち上がり、別のテーブルに座っていたヨシュアたちに「お先に帰ります」と言って、店を出た。
『なんだか分からんが気に喰わん奴だった』
『お前は誰でも気に喰わないだろ』
フェンリルにそう答えたが、マルケスもなんだかいけ好かない奴だなと言い、スーガとフィンもうなずいている。
そうなのか?
「なんだか一生懸命で、可愛らしい人だと思いましたわ」
「だよな」
俺とアニエッタは意見が一致し、二人で顔を見合わせてニッコリと笑った。
『付き合っているのかとか彼氏とか言われて、喜んでいるだけじゃないのか?』
フェンリルがフフンと半笑いで言う、
『決してそんな事ない!!』 多分······
◇◇◇◇
それから毎日のようにコーマンが白馬亭に来るようになった。
しかし、傭兵組合の試験の話をすると、いつもはぐらかして一向に試験を受けようとはしないので、最近はその話をしなくなった。
◇◇◇◇
そんなある日、例のごとく白馬亭で晩御飯を食べていた。
「そうだわ! シークさん。 明日、おじいさまのお使いで隣町まで行くのですけど、よろしければ一緒に行っていただけません?」
アニエッタが可愛らしく上目遣いで俺に聞いていた。 明日は訓練も休みだし、断る理由もない。
「もちろんいいですよ」
「よかったわ! お願いしますね」
「デートですか?」
またコーマンが茶化す。
「いやだわ! おじいさまのお使いだと言いましたでしょ」
アニエッタは顔を赤らめた。
コーマンは俺とアニエッタを冷やかすのが日課にでもなっているようだ。
「どちらまで行かれるのですか?」
「エコールの街までです」
「じゃぁ、朝から行かないと日が暮れるまでに帰ってこれませんね」
「馬で行くので、そんなにかからないと思いますわ」
「いいなぁ~~~、デートか」
いやだわと、アニエッタはまた顔を赤らめる。 しかし俺も悪い気はしなかった。
イラストのサイズが、大きいですね。
どうしてこんなに大きくなったのでしょう?
(|| ゜Д゜)
読みにくかったら、すみませんm(_ _)m




