3章 ゴブリン
再び現れたゴブリンは、様子がおかしい。
ついてくるように言われてゴブリン村に行く。
3章 ゴブリン
しばらく歩くと、森の中からガサガサと音がする。 剣に手をかけて出てくるのを待った。
またゴブリンだ。 10頭ほどいる。
『さっきの報復じゃないだろうな』
しかし、今度は俺を見ると驚いた様子ですぐに逃げていった。 ゴブリンといえ、殺すのは忍びない。 逃げてくれるならその方が助かる。
『ここはゴブリンの森なのか。 ということは俺が侵入者ってわけだ。 しかし、奴らには申し訳ないが、こちらも生きるためだ。 襲ってくれば倒すしかないのだが、今回は逃げてくれて助かった』
クゥ~
肩に乗っているレイが俺の顔を見る。
『俺って優しい?』
キュイ
『そうだろう、そうだろう。 じゃあ、行こうか』
安心して歩いていたら、すぐにまたゴブリンが現われた。 しかもでかい奴がいる。
お······俺よりでかい?!
ホブゴブリンか?
剣に手をかけて構える。 しかし、今度は少し様子が違った。 襲ってくる様子は無い。
するとゴブリンたちが一斉に俺の前でひれ伏した、
『えっ?······なに?』
ホブゴブリンが顔を上げた。 ゴブリンたちと同じく緑の肌の色で、耳や鼻が尖っている。 ただ違うのがゴブリンは禿げ頭だが、この個体には長い髪があり、後ろでまとめていた。
そして、背が高くガッチリした体格で、精悍な顔つきをしていて少し知性を感じさせる。
「われらのむらにきてください」
言葉をしゃべった?! レイと顔を見合わす。
『まさか······罠とかじゃないよな』
キュ~
しかし、害意は感じられないし、ホブゴブリンの懇願するような表情は嘘に見えない。
『大丈夫だよな。 なにかを企んでいるようには見えないし』
キュイ
レイも少し不安そうだ。
しかし、他のゴブリンたちも、懇願するような目付きで見上げてくる。 仕方がないので、とりあえずついていくことにした。
ホブゴブリンを先頭に、獣道をゴブリンたちに囲まれて歩く。 先頭のホブゴブリンが俺のために周りの草木や上から垂れる蔦などを剣で切りながら、道を作ってくれるので歩きやすい。
その間もゴブリンたちは俺たちをチラチラと見上げている。 人間やドラゴンが珍しいのだろう。
しばらく歩くと開けた場所にあるゴブリン村が見えてきた。
思ったより大きな村だ。 数百頭のゴブリンと、数十頭のホブゴブリンがいる。
ただ家といっても木と葉っぱで囲んだだけの質素な造りで、村の中をニワトリや、ウシやヤギが放されている。 気をつけて歩かないと家畜の落とし物を踏んでしまいそうになるのだ。
しかし、動物を飼っているなんて思ったより人間っぽい事に驚いた。
村に着くと、一緒に来たゴブリンたちは散っていき、ホブゴブリンが「こちらです」と、案内してくれる。
村の中を歩いている間も、沢山のゴブリンたちが集まってきて、俺たちが見世物になってしまっているのが、なんか様子がおかしい。
珍しいものを見るというより、なぜかとても喜んでいるように見える。
まあ、ゴブリンの表情は分かりにくいから、気のせいかもしれないが······
ホブゴブリンの後をついていくのだが、そのまま村を通りぬけて山に入っていった。
村に来てくれと言ったくせに、村に招かれたわけではないのか?
少し登ったところに洞窟が口を開けていて、その中に連れて行かれた。
洞窟の中は明るい。
岩の隙間から炎が出ている。 少し油の匂いがするので、岩の間に油を注いで火をつけているようだ。 やはりそれなりの文明があるようだ。 ゴブリンとは、ただの魔物だと思っていたのだが、見方が変わった。
そして洞窟の最奥の広くなっている場所に着いた。
その広くなっ場所の真ん中に、魔法陣のような物が描かれている
『何か魔物でも呼び出して、俺たちを餌にするつもりじゃないだろうな?』
クゥ~~
レイもまた不安そうにしている。
ホブゴブリンが魔法陣の前にひざまずいた。
「おつれしました」
『やっぱり何か大物が出てくるんだ』
俺は腰の剣に手をかけて身構える。
すると魔法陣が光り出し、真ん中に白い物がぼんやりと見えてきたかと思うと、人の形を成してきて、背が高くスラリとした紳士のような人物になった。
とても綺麗な顔立ちをしている。 黒っぽい仕立てのよさそうな服にマントを羽織っていて、輝くようなプラチナブロンドの髪で耳が尖っている。
エルフ?!
その男は優雅に俺の前まで歩いてきてから、片膝をついた。
「てんりゅう様、お逢いできるのを心待ちにしておりました」
『てんりゅうってなに? ······天の龍って事? てことは俺の事じゃないよな?』
顔を上げた男は俺ではなく、やはりレイを見ている。
『レイ? 知り合い?』
クウ~ウ
レイは首を振る。
『お前が天龍?』
キュウ~
レイは首を傾げる。
『天龍って聞いたことないぞ······って、記憶がないから仕方がないか······』
「我ら妖精の守護者である天龍様と加護者様」
『保護者じゃなくて加護者?』
「よくお越しくださいました。 私はエルフの[妖精王オベロン]でございます」
よ······妖精王だって?!! って、妖精王がここにいるという事は、もしかしたらゴブリンも妖精?
何だか訳が分からない。
オベロンはどうやら俺の次の言葉を待っている様子だ。 だから身振り手振りで言葉が話せない事を伝えた。
分かってもらえたようで、一つうなずくと立ちあがり、俺の前に来た。
「失礼いたします」
そう言うと俺の頭に手を当てて何か思案している様子だ。
「なにかの魔法がかけられておいでです。 私にはこの魔法を解くことはできません。 申し訳ありません」
ま ほ う ぅ~~~~??!!
どういう事だ? 俺は誰かに喋る事ができないような魔法をかけられたというのか?
もしかして記憶も?
それを伝えようとしたが、分かってもらえなかった。
聞きたいことは山ほどあるが、喋れないから聞けない。
くっそ~~~っ!! 誰だよ! 俺に魔法をかけた奴は!!
「ゴブリン村で申し訳ありませんが、よろしければ今日はお泊り下さい。 それと、これを」
オベロンは手を前に差し出した。 手の上がフワッと光るとそこにペンダントが現われた。
先に小さな水晶のような珠がついているが、角度を変えると七色に光って見える綺麗な珠だ。 受け取って首にかけると一瞬輝いて元に戻った。
『な···なんだ?······光ったぞ』
「私に御用の時は、この珠を握って[オベロン召喚]と唱えて下さい。 今の輝きはその珠が加護者様を認識した証です。 貴方様の呼びかけ以外は反応いたしませんのでご安心を。
御用がおありの時にはいつでも参上いたします。 それでは失礼いたします」
後ろに控えていたホブゴブリンに視線を送ってから魔法陣の真ん中に戻っていき、現れて時と同じようにサッサと消えていった。
丁寧な割には愛想がないな。
「わたしのなまえは[ホブブ]といいます。 よろしくおねがいします。 こちらにどうぞ」
ホブゴブリンのホブブについていった。
俺はふと気づく。
『!! まてまて! オベロン召喚と唱えろったって、俺、声出ないし!!』
はぁ~~っと溜息がでた。
まぁいいか。 そうそう妖精の王様を呼び出すようなことにはならないだろうし、お守りと思っていればいいか······
ゴブリンは、案外人間と変わらない生活をしているのですね(;゜0゜)