26章 夢? 記憶?
夢の中で俺は恐ろしい目にあう!
これはただの夢? それとも、俺が忘れている記憶?
26章 夢? 記憶?
「いやぁ~~! Sクラスの凄さったらないな!」
「おう! アージェス先生はこれっぽっちも本当の力を出していなかったぞ」
「もう少しやれると思ったのに、まるで敵わなかった」
3人は身振り手振りで盛大に盛り上がっている。 あれだけコテンパンにされたのに、全く凝りているようすはない。
そこはさすがだな。
『そういえばフェンリルはどうだったんだ? 何か教えてもらったのか?』
彼らが話している間に、こっそりフェンリルに聞いみた。
フェンリルが素直にザラ先生に従うとは思えなかったが、俺は自分の事で精一杯で、フェンリルがどうしていたかなど、気にかける余裕はなかった。
しかし、予想に反してフェンリルは饒舌に話し始めた。
『いやぁ、ザラは凄いな。 炎の色々な使い方も教えてもらったぞ。 それとお前が時々練習している風に乗って飛ぶってやつも教えてもらったんだ。 まだ出来ないけど、明日にはマスターしてやる!』
こんなに興奮して楽しそうなフェンリルを始めて見る。
でもそこは素直に教えてもらったんだ······
俺にはいつも反抗的なのに、ザラ先生には素直なのが少し悔しいが···嬉しかった。
『わぁ! 俺にも教えてくれよ。 なかなかうまく風に乗れないんだ。 コツがあるんだろ?』
『フフン······そのうちな』
鼻を鳴らして得意げに話すが、嫌じゃない。 壁が一つ取り払われたような気がして嬉しかった。
「さあ! また白馬亭に行くか!」
マルケスたちは満足したのか、サッサと競技場を後にする。
そんな彼らの後ろを歩きながら、ふと疑問に思った。
『そういえば、ルーアとリーンを連れてなかったな。 お留守番か?』
ガドルとザラのドラゴンだ。 しかし、レイに聞くと、何を言ってるの? 的な顔で見られた。
『ずっといたよ』
『えっ? どこに?』
『加護者の肩に乗ってたよ』
『そんなバカな! なにもいなかったぞ』
『こうやって・・・・・』
レイの姿が薄く透けて見えた。
『透けてる?!』
『他の人には見えてないけど、マーにだけは少し見えるの』
そう言ってから、元に戻った。
へぇ~~、ドラゴンは姿を消す事もできるんだ!! 知らなかった!
「シーク! 早く来いよ! おいてくぞ!」
「はい!」
マルケスに呼ばれ、彼らの元まで走っていった。
◇◇◇◇◇◇◇◇
「さっさと歩け!」
俺はマスクを付けた男に腕をつかまれて、地下へと連れて行かれる。
ここは地下牢がある場所だ。 最奥にある分厚いドアの牢が、錆び付いた音を立てて開かれた。
暗くてじめじめしているその牢には、もちろん窓などなく、小さなランプが1つあるだけだった。
そしてその分厚いドアには小さなのぞき窓があり、外から蓋をすることができる。
それ以外には、ドアの横の下の方に食事を差し入れる小さな扉が付いているだけだった。
マスクの男に腕をつかまれたまま牢の中に連れ込まれた。
俺の後ろから、フードを被った男がついてきている。 その男は俺の前で立ち止まり、ニタニタ笑っている。
「なぜあんなことをした!! 初めから仕組んだことだったのか!!」
男はフードの中からフフフと、笑い声を漏らす。
「初めからというのは、いつからの事でしょうね? 今はそんな事よりご自分の心配をなさった方が良いと思いますが?」
「私をどうするつもりだ!」
「先ほどもお願いしたように、ただ私のいう事を聞いてくれればいいのですよ」
「そんなことができる訳ないだろう!!」
「そういわれると思いましたよ。 仕方がありませんね」
腕をつかんでいたマスクの男が俺を羽交い絞めして、身動きができなくなる。
フード男は黙ってゆっくりと俺に近づき、羽交い絞めにされている俺の額に手を置いた。
「なにをする!!」
しかしそれには答えず、何か呪文を唱えだした。
額から何かが刺さるように痛みがあり、徐々に痛みは全身に広がっていった。
「わっ~~っ!! やめろぉ!! やめ······」
それ以上、声が出なかった。 いや、出せなくなっていた。
そして全身の痛みのために膝から崩れ落ちた。
「いらないことを喋られても面倒なので、黙っていてもらう事にしました。
しばらくはここでよく考えて下さい。
今後、どうすればいいか。 この中でゆっくりと過ごしている内に考えが変わるかもしれませんからね、クックックッ。 脱がせろ」
俺がまだ痛みで身動きできないうちに、無理やり服を脱がされ、そのまま男達は笑いながら部屋から出て行き、ドアをバタンと閉め、ガチャガチャと鍵をかけた。
「あぁ、その姿では風邪をひいてしまいますので、洋服をご用意いたしました」
食事を入れる小さな窓から、服が押し込まれる。 薄汚れたブルーのシャツとベージュのパンツだった。
「時々お目にかかりにまいりますので、気が変わったときには、首を縦に振ってくださいね。フフフ···ハハハハハ!!」
高笑いする声が次第に遠のいていった。
「はっ!!」
俺は目を覚まして、上半身を起こした。
全身べっとりと汗で濡れていて、心臓がバクバクと高鳴っている。
「なんだ?·····今の夢は······俺の記憶?」
レイは俺の横で寝ている。 俺の感情が伝わったのか、少し寝苦しそうに見える。
ベッドの横に置いてある水差しから直接水をがぶ飲みする。
「俺に黙秘魔法をかけたのはあいつなのか?······俺に何をさせようとしていたのだろう······俺に喋られては困る事とは何なのだろう······しかし、それ以前にこれはただの夢なのか? それとも記憶なのか?······」
「どうしたの? 大丈夫?」
レイが起きた。
「何でもない、少し悪い夢を見ただけだ。 もう大丈夫だからお前はもう少し寝ていろ」
「·····うん······」
心配そうにしながらも、レイは目を閉じた。
「ふぅ~~~っ」
俺も大きく息を吐いてから汗を拭いて、布団にもぐり込み直した。
◇◇◇◇◇◇◇◇
翌朝の朝食後、部屋で待っていたら、ノックがあった。
ガドルかと思ってドアを開けると、そこに立っていたのはスーガだった。
「スーガさん。 どうしたのですか?」
部屋に招き入れる。
ソファーに座ってからもスーガは逡巡していたが、思い切って切り出した。
「今からガドル先生の授業を受けるんだろ? 俺も一緒に受けることはできないだろうか?」
「かまわないと思いますが、先生に聞いてみないと······」
そんな事か。 しかし自分で勝手には決められない。
しかしスーガはその答えを聞くというより、俺に何か言いたそうに見つめてくる。
「シーク·········敬語はやめてもらえないか?」
「えっ? でも······」
「俺、まだ18歳だし。 シークも同じくらいだろ?」
「えぇ~~~っ!! まだ18歳?!」
スーガは落ち着いているから20代半ばくらいと思っていた。
「そ···そうなんで···そうなのか······じゃあマルケスさんは?」
「彼は23歳で、フィンは知らないから聞くな」
「マルケスさんもまだ23歳だったんだ」
「俺とマルケスは結構修羅場を潜り抜けてきたからか、いつも歳食っているように見られるんだ。
傭兵としては若く見られるよりいいから、特に年齢は言わないし、たまにサバ読む事もあるけどな」
「へぇ~~······苦労してきたんだな」
「まあな」
スーガは少し照れ臭そうに答えた。
そこにノックがあった。 今度こそガドルが入って来た。
ガドルはじっと見定めるようにスーガを見つめる。
「おや?······どうしたのじゃ?」
「先生! 俺も一緒に授業を受けさせてください!」
スーガは90度に頭を下げた。
分かってでもいたかのように、フォフォフォと、笑う。
「それはいい心がけじゃ。 もちろん構わんぞ」
そう言って長いヒゲをなでながら俺とスーガの横をすり抜けて、部屋の中に入って行った。
「ありがとうございます!」
スーガは俺と顔を見合わせ、お互いに微笑みあった。
「まぁ、掛けなされ。 わしの部屋ではないがの」
ガドルはゆったりとソファーに座った。
この夢は、現実になるのか?!




