21章 傭兵証
傭兵組合に行くと、みんなが待っていた。
21章 傭兵証
翌朝、目が覚めると窓から差し込む柔らかい朝の陽ざしが部屋を照らしていて、気持ちよく目覚めることができた。
俺はベッドの中で大きく伸びをした。 すると、横で寝ていたレイも、上向きのまま翼と手足を伸ばして伸びをする。
「おはよう」
「マー、おはよう!」
フェンリルはまだクッションの上で気持ちよさそうに丸まっていた。
「フェンリル、おはよう!」
声をかけたが、フェンリルはパタンと一度尻尾を振っただけで、目を開けようともしない。。
準備してくれていたラフな服装から、いつもの魔法衣に着替えた。
「レイ、服をキレイにしてくれる? ついでに俺も」
「わかった!」
俺の周りが一瞬、柔らかい光に包まれたと思ったら、薄汚れていた服がキレイになり、ボサボサだった俺の髪がスッキリと整い、顔もサッパリした。
「わぁ! これは便利だな。 レイ、毎朝頼むぞ」
「任せて!」
そこへノックがあり、ハンスが入って来た。
「おはようございます。 朝食でございますが、レイ様とフェンリル様のお食事は何を差し上げればよろしいでしょうか?」
「レイは俺と同じ物を。 フェンリル何か食べるか? 肉でも用意してもらおうか?」
一応聞いてみたが、チラリとこちらを見ただけでまた寝てしまった。
「いらないみたいです」
「さようでございますか。 承知しました。 後ほどご案内に参ります」
そう言って出て行った。
「フェンリルは本当に食べなくていいのか?」
もう一度聞いてみた。
「お前らのダダ漏れの加護で腹いっぱいだ」
「へぇ~~、そんなものなのか」
俺たちの加護にはそんな力もあったとは知らなかった。 レイは加護している方だからお腹が空いているのか?
「そういえば、フェンリルって風呂にも入らないのにキレイだし匂わないな」
「あたりまえだ。 その辺の獣と一緒にするな。 我は霊獣だぞ」
はいはい、主様でしたね。
庭に出ると優しい風が頬をなでる。
「今日から寄宿舎だ。 そうだ! ガドルさんに魔法を教えてもらえないか聞いてみよう」
「魔法! 魔法! レイも勉強!」
「そうだな。 一緒に勉強しような」
レイの頭を優しくなでる。
本当に可愛い奴。
再びノックがあり、ハンスが入って来た。
「お食事の準備が整いました。 ご案内いたします」
寝ていたフェンリルも起きてきて、一緒にハンスについていく。
案内された部屋にはフェンリル団長がすでに座っていた。
これまた豪奢な部屋だ。 趣味が悪いという程ではないが、キレイな絵画に彫刻に、きらびやかな食器が飾られたガラス張りの棚が幾つも並べられている。
そして大きなシャンデリアが天井から2つも吊り下げられていた。
俺たちを見てフェンリル団長が立ち上がる。
「おはようございます。 おかけください」
10人は座れそうな大きなテーブルの端、フェンリル団長が座る向かい側の席を指す。
そこには朝食とは思えないほどの豪華な食事が並べられていた。
さっそくレイは食事にありつく。
「やはり傭兵組合の寄宿舎に入られるのですか?」
フェンリル団長はチラチラとフェンリルを見ながら、とても残念そうに聞いてきた。 本当は引き止めたくて仕方がない様子だ。
「よくしていただいたのにすみません」
「仕方がありませんな。 歓迎いたしますので、またいつでも遊びに来てください」
「ありがとうございます。 護衛が必要な時はいつでもお申し付けください」
「これは嬉しいお言葉、ありがとうございます」
そうそうと、太短い指を立てて話しを続ける。
「昨日、国からのお達しで、東のレンドール国方面の道が通行止めになりました。
あれだけの魔物が出るのでは仕方がない事ですが、レンドール国はとても豊かな国で、とてもよい商売相手だったので、残念で仕方がありません。
まあ、北側の街や国にも沢山の商売相手がおりますから心配はありませんがな。 ガハハハハ」
フェンリル団長は食べ物を口から飛ばしながら豪快に笑った。
席が離れていてよかった。
朝食後、フェンリル商団を惜しまれながら後にした。 3人のメイドたちも俺にお別れを言いたそうだったが、フェンリルが牙を見せるので、近付けなかったようだ。
傭兵組合に顔を出すと、みんながざわつく。
マルケスたちとヨシュアたちがすでに待っていた。
「きたきた」
「よお! シーク」
6人が集まってきた。
「どうしたのですか?」
「Sクラスの傭兵証を見に来た」
そんなものをわざわざ?
マルケスは胸元に下げている頑丈そうなチェーンのペンダントを出して見せる。 それが傭兵証らしい。
3メクほどの楕円形のペンダントトップで、シルバーの台に青色で[B]と大きく浮彫されていて、その下には印が彫られている。 [ニバール]と読めるので、発行国だろう。
ヨシュアが出したのにはオレンジ色で[C]とある。 どちらも裏にはフルネームが刻まれていた
「今まで[A]ランクのは見た事があるが、[S]ランクのなんて拝むことができないからな」
ちなみに[A]ランクは赤い字で彫られていて、[D]ランクが緑色、[E]ランクは色無しだそうだ。
「傭兵証は俺たちの誇りだからな。 これで仕事を受けることも、給金を受け取ることもできる。 実力で勝ち取った大事な物だ」
「へぇ~~そんなものなんですか。 楽しみですね」
受付に行くと、ソフィアのほうから挨拶をしてくれた。
「シーク様、お待ちしておりました。 こちらへどうぞ」
また別室に案内してくれるようだ。
7人でゾロゾロ行こうとしたら「もうしわけありません。 他の方たちはお待ちください」と、マルケスたちは止められた。
「さすがに特別だな。 俺たちの時は普通にここで渡されたのに」
ヨシュアが残念そうにつぶやいた。
6人を残して、俺たちは昨日の部屋に通された。
中ではホグスが待っていた。 俺を見て片手を上げて挨拶をしてソファーを勧める。
テーブルの上には小さな黒い箱が置かれていた。
今回はソフィアも一緒に入って来た。
俺が座るとホグスは座り直す。
「では、傭兵証を渡す。 しかしわざわざここに来てもらったのには理由がある。 Aランク以上の傭兵証にはちょっとした仕掛けがあって、その事は他の者にはだまっていてほしいのだ」
ホグスはソフィアに目配せをする。
ソフィアは黒い箱を開けた。 中には黒い台座に金色で[S]と書かれた傭兵証があった。
裏も見せてくれた。 裏も黒で、シルバーの文字で俺の名前と[レインボードラゴン・レイ][シルバーウルフ・フェンリル]と、小さな文字で書かれている。
そしてソフィアが傭兵証に向かって手をかざすと、俺の顔が立体的に浮かび上がってきた。
「わぁ! 俺の顔だ」
「Aクラス以上になると、報酬も給金も格段に上がる。 これを偽造して仕事に就くバカがたまにいるんだ。
それを防ぐためにこうして魔法をかけて本人以外がこれを使ったり、偽造したりすることができないようにしてある。
お前もこれを人に貸したりするなよ」
「へぇ~~そんな魔法もあるのですね」
魔法にも色々なものがあるのだと感心一頻りだ。
「この事は伏せておくように」
「わかりました」
「とにかく、おめでとう」
ホグス直々に、俺の首に傭兵証をかけてくれた。
俺は思った以上の高揚感を感じながらそれをみつめた。
「レイ、見てみろ。 お前の名前が書かれているぞ」
「僕の名前! 僕の名前!」
訳も分からず嬉しそうだ。
相かわらずフェンリルは興味なさそうなので、相手をしない事にした。
「では、俺はこれで失礼する。 後はソフィアに聞いてくれ」
そういってホグスは部屋を出て行った。
3cmほどの小さな傭兵証に、あんなに沢山の文字が書ける?
まぁ、いいか。(^_^;)




