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19章 三人のメイド 前半

今夜はフェンリル商団の客間に泊まる。

シークの世話係という男性以外に三人のメイドが·······

 19章 三人のメイド 前半


 

 フェンリル商団に帰るといまだに明かりを煌々(こうこう)と焚いて仕事をしている。

 俺たちをみつけて使用人たちが「お帰りなさい」と挨拶をしてくれた。


「ただいま」


 俺の声を聞いて、みんなが驚く。


「シークさん! 声が出るようになったのですか?!」

「そういう事になりました」


「よかったですね!!」

「お声も素敵ですわ」

「本当に良かったです!」


 みんなが自分の事のように喜んでくれる。



 なんだかとても嬉しかった。



「フェンリル団長は?」


 顔見知りの使用人を見つけて聞いた。


「執務室においでです。 こちらへ」


 そう言って、わざわざ案内してくれた。


 ノックをしてドアを開けると、フェンリル団長がちょうどお菓子を口に運んでいる所だった。 口を大きく開けてお菓子を口に放り込みながら俺を見て立ち上がる。


「モグモグ、こ······これはひーふほの(シーク殿)おはえりはさいはせ(おかえりなさいませ)。 モグモグ」


 お菓子を口に頬張ったままだ。


「ただいま戻りました」


 ぶぅぅ~~~っ!!



 口の中の物を噴き出した。



 汚いな!



「シーク殿!! 声が!!」

「出るようになりました」


「いや~! それは良かったですな! ではお名前もうかがえますな」

「それが······実は俺、記憶がないので、このままシークを名乗らせてもらいたいのですが」


 フェンリル団長は大げさにおどろく。


「なっ! なんと! 記憶がないのですか。 それは難儀な事で······いやぁ~~、名前をそのまま使っていただけるとは何とも光栄の至りです!」


「報酬もいただきました。 ありがとうございます」

「いやいや! あれでも少ないと思っていたのですよ、 フォッフォッフォッ!」


 大きなお腹をさすりながら、反り返って笑う。


「あのう、今日、傭兵試験に受かったので明日から寄宿舎に移りたいと思います」

「なんと! わざわざ傭兵試験を受けずとも、我が商団にいて下されば、傭兵以上の報酬をお渡ししましたのに。 今の部屋もそのまま使っていただこうと思っておりましたですが······そう言わずにこの商団にいていただけませんか?」


「いや、そういうわけには······」


 ここもいいが、記憶がないので、色んなところに行って色んな人に会って、見分を広げたい。 ここにいると、なんだか閉じ込められるような気分になる。


 もっと自由に生きたいのだ。


「ここにいれば何不自由なく暮らせますし、取引で他国に行くのも半年に1回ですし、それ以外は自由にしていただいて結構ですから、どうか」


 フェンリル団長は粘る。


「しかし、それは······」

「そ······そうですか······しかたがありませんね」



 突然、折れた。



 どうしたのかと横を見ると、フェンリルが牙をむいている。


『よくやった』

『お前のためにやったんじゃないわ。 このおっさんが気に喰わないだけだ』


 という事で、ここを出ることを承認してもらえた。 フェンリル団長はとても残念そうだ。


「依頼してもらえれば、護衛は優先してしますので、その時はよろしくお願いします」

「そうですな。 こちらこそよろしくお願いします」


 そう言って自分の机に戻って行くフェンリル団長の背中が寂しそうだった。





 部屋に戻ると、直径2メルクほどのバカでかい丸いクッションと、50ルクほどの丸いクッションが置いてあった。


「フェンリル様とレイ様用のベッドでございます」


 部屋の入り口にいた30代くらいの執事が教えてくれた。


 彼の名はハンスという。

 俺たちの世話を仰せつかったと言う。


 しかし、レイたちのベッドまで用意してもらって、今日だけなのが申し訳ない。


 フェンリルはさっそくクッションに丸くなる。


『これはいい』


 この部屋には似つかわしくないモスグリーンの落ち着いた色のフカフカのクッションだった。



 フェンリルが落ち着いたのを見てハンスは満足そうだ。


 

「こちらへ来ていただけますか」


 ハンスがクローゼットの前まで連れてきて開けると、何着かの服が吊ってある。


「ご自由にお着替えください。 こちらで勝手に選ばせていただきました。 よろしければ今御召しの洋服を洗濯致しますが」


 そういえばけっこう汚れている。 しかし、俺には()()()がある。 明日にでもレイに綺麗にしてもらおう。


 ハンスには自分でするからいいとお断りした。




 その時、ドアの外で「キャーキャーガヤガヤ」声が近付いてくる。 そして静かになったと思ったらノックがあった。 


 ハンスが開けると、3人のメイドが入って来た。3人とも、顔が真っ赤だ。


「シーク様。 お風呂に準備ができておりますので、ご案内いたします」



 お風呂? 記憶をなくしてから初めて入る。 楽しみだ!



 レイを用意してくれたクッションにそっと寝かせ、フェンリルに後を頼んでメイドたちについて行く。



 しかし、どうして3人? まあいいか。



 長い渡り廊下の先に、小さな部屋がある。 脱衣所だそうだ。

 中に入り服を脱ごうと思ったが、メイドたちが出て行かずにジッと見ている。


「あのぉ······脱ぎたいんですけど······」

「はい。 お気になさらず」



 いやいや、()()()()()()だろう。



「外に出てもらえますか?」


 3人は顔を見合わせ、誰かがチッ! と言うのが聞こえた。



 えっ?!



「失礼します」と、やっと出て行ってくれたので、服を脱いで奥の風呂場のドアを開けた。



「わぁ! 露天風呂だ! レイを連れてきたら喜ぶだろうな」


 周りを石で囲んだ泳げそうなほど広い風呂だ。 途中を柵で仕切ってある。 



 あちら側はもしかしたら女風呂? 



 しかし誰も入ってはいなさそうだ······残念。


 ザブン! と湯船につかる。 程よく熱くてとても気持ちいい。


 風呂の縁にはドラゴンの像があり、その口からお湯が流れこむ。 風情がある造りだ。 とても落ち着いた雰囲気で、部屋と違ってセンスがいい。



 一度上がって石鹸で体を洗った。 今まで川で洗っていただけなので、しみついた汚れがキレイに流されていく。


 その時、風呂場のドアが開く音がした。 誰かが入って来たのかと見ると、メイドたちだ。


「わぁ!!」


 あわてて湯船に飛び込む。


「な······何か?」

「お背中をお流ししようと思いまして」



 そんなもん、いらねーよ!! のぞきに来るなよ!!



 と思ったが、大人の対応を取る。


「大丈夫ですので、外に出てくれますか?」


 また、チッ! と聞こえた。 なんだこいつら!!


「そうですか?······では失礼します」


 そう言いながら、名残惜しそうに出て行った。



 油断も隙もあった物じゃない。 でも、もう大丈夫だよな。






メイドたちは、なかなか強者のようだ!

(゜_゜;)

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