18章 合格祝い
喜んでくれる人全員で白馬亭に行った。
次々に御祝いを言いに来てくれる。
18章 合格祝い
表に出ると、凄い人だかりで、また歓声が沸き起こった。
真っ先にマルケスたちが駆け寄ってきた。
「シーク! すごかったぞ!」
マルケスは抱きついてきた。 少し涙声になっている。
「おめでとう!」と、スーガは俺の肩をポンポンと叩く。
「あんな魔法の力技があるんだな」
フィンが大げさに手を広げて見せた。
力技? そうなの?
知らない人まで口々に祝福してくれる。 その中の一人がつぶやいた。
「しかし、狼が炎を噴くなんて事あるのか?」
ギクッ!
「使役獣に炎を噴かせる魔法があるんだよ」
誰かが、したり顔で答えた。
あっ! その手があったか。
「そ······そう、 あれは高度な魔法なんだ」
········という事にしておこう。
「この狼! かっこよかったぞ! ゴーレムに体当たりして吹き飛ばしたところなんか、鳥肌が立った!」
その人がフェンリルの頭をなでようとした。
「あっ!」と、慌てて止めようとしたが、遅かった。
「いってぇ~~~っ!」
またフェンリルが手を噛んだ。
「すみません!! こいつは俺にしか懐かないから、触らない方がいいですよ」
『誰が懐いているだと?!』
『仕方がないだろ! 噛むなよ!』
『チェッ!』
「そりゃそうだ! お前バカだな! 使役獣が誰にでも懐く訳ないだろ!」
先に噛まれたヨシュアが偉そうに諭す。
お前が言うなよ!
「さあさあ!」マルケスがパンパンと手を叩く。
「今日は俺のおごりだ!! 白馬亭に行くぞ!!」
「「「おぉ~~~っ!!」」」
◇◇◇◇◇◇◇◇
白馬亭は人で溢れかえった。 100人近くいる。 こんなに沢山の人がいて、マルケスの懐事情が心配だ。
酒を片手にマルケスが立ち上がり、一緒に俺も立たせた。
「うおっほん!! みんな!!」
白馬亭の中が、一瞬静まり返る。
「我らがシークのSクラス合格を祝して、乾杯!!」
「「「かんぱ~~~い!!」」」
なんで知らない人が、そんなに祝福してくれるのかは分からないが、とても嬉しい。
乾杯の後、次々にお祝いを言いに人が押し掛ける。
しかし、何とも可笑しいのが、いつの間にか俺とマブダチになっているらしいヨシュアと、その仲間の[アラム]と[モス]が行列整理をしてくれている。
アラムはヤセ型の少し猫背で、モスはポッチャリしていて団ごっぱなだ。
店の中のテーブルの間に長い行列ができた。
「ちゃんと並べよ!!」
「シークさんは逃げないからあわてるな!!」
「フェンリルさんには触るなよ!! そこっ! 気を付けろ! フェンリルさんの尻尾を踏むなよ」
張り切りようが可笑しい。
「おめでとうございます。 私はキング商会のワイスと申します。よろしくお願いいたします」
「やぁ~~凄かったですね。 俺はCクラスのメッツです。 今度御一緒したいですね」
等々·······みんな自己紹介していく。
その中に水色の髪と赤の髪の人竜族の2人の男性がいた。
水色の髪の男性が先に俺の手を取った。
「おめでとうございます。 俺たちはシャンリー通りで鍛冶屋をしております兄の[アクト・スタンリー]と、これは弟の[ザクト・スタンリー]でございます。 シーク様、これからのご活躍を期待しております」
ザクトも俺の手を取り、とても嬉しそうだ。
さすがに兄弟そろって綺麗な顔をしている。
彼らを覚えておこう。
次に並んでいたのは綺麗なお姉さんだ。 胸の谷間が見える、ちょっとエロい服装をしていた。
「シークさん。 おめでとう。 私はホーイー酒場で働いてんだけど、今度来ておくれよ。 安くするよ」
俺の手を握って自分の胸に押し付ける。
わぉ! お姉さん! こんな公衆の面前で、そんな気持ちのいいことを·······
おっさんや傭兵達の挨拶にはちょっとうんざりだが、時々紛れている女性たちの祝福は何度でも歓迎だ。
けっこう可愛い女性もいた。
みんな一様に顔を赤らめ、握手をするとその手を抱きしめてキャーキャー言ってくれるのは悪くない。
次々にお祝いに来てくれる人たちが一段落して、俺はやっと椅子に腰かけることができた。 しかし、みんながお祝いというより自分の売り込みに来ているように感じたのは俺だけ?
マルケスに聞いてみた。
「それはだな、Sクラスの傭兵はどの国でもほんの数人しかいねえ。 そしてその御方たちはたいてい国に仕えていたり、傭兵でも幹部クラスだったりして雲の上の存在だ。
だがお前は違う。
Sクラスといえば報酬は半端ないが、確実に護ってもらえるんだ。
それとお前はもう有名人だ。 特にその容貌と狼とドラゴンを連れているのだから、明日になれば知らない者はいないだろう。
そういう人とお知り合いになれば何かといいことがあるという訳だ」
「へぇ~~」
「なんだか他人事のような反応だな」
「実感わかないし」
「ハハハハハハ! シークらしいな。 飲もう!!」
さっきの女性たちの反応からして、綺麗なお姉さんたちに囲まれるのを少し期待していたのだが·····誰も来ない。
挨拶が終わったからもういいのか? いや、そうは思えない。 あちらこちらの女性と目が合うし、その度に嬉しそうにして顔を赤らめている。
遠慮せずに来てくれていいんだよ。
その時、先ほど挨拶に来たちょっと可愛いと思っていた女性が近付いてきた。
よっしゃー! やっと来たぞ!
しかし、少し手前で立ち止まり、視線を下に向けた後、残念そうに戻って行く。
なんで?
下を見ると、フェンリルが牙をむいて威嚇していた。
『フェンリル! お前が女の人を追い返していたのか?!』
『当たり前だ! あんな臭い生き物が近くにいたら鼻が曲がるぞ。 1キメルク(=1㎞)先でも臭いで分かるわ!』
何てこと······ふぅ~~·······
仕方がないので女性に囲まれてウハウハするのは諦めて、食って飲んだ。
周りの人たちも「一杯どうぞ」と注ぎに来る。 だからしこたま飲んだ。 しかし、いくら飲んでも酔わない。
俺って下戸?
レイは相変わらず、ずっと食っている。
どこにそんなに入るんだよ!
しかし、なんだか様子がおかしい。 レイの足元がおぼつかない。
『レイ? 大丈夫か?』
『らいろうるらろ』
こいつ、酔っぱらっている。 目が半開きになり、フラフラしている。
『酒を飲んだのか?』
『ろんれらいろ』
そんな訳ないだろう? どう見ても酔っぱらっているのに。
『お前が飲みすぎるからだ』
フェンリルが心の中で言ってきた。
『俺が? どういう事?』
『お前、そんな事も知らないのか?』
なんだか分からいけど、知らねーよ!
『レイはお前の中に入る毒素を吸収して分解するんだ。 お前が飲みすぎるから分解が追い付かなくなったんだろう』
『毒素?!』
『今はアルコールの事だな。 どんな毒でも分解することができるはずだ』
『えぇ~~~っ!! 先に教えてくれよ!』
『当然、加護者なら知っていることだろう』
『だから、記憶がないんだよ!!』
俺はレイをそっと抱き上げた。
『レイ、ごめん』
『ぼうられら』
レイは俺の腕の中で、ぐったりとして、眠ってしまった。
おっと、酔いつぶれてしまった。 俺のせいでこんな事になってしまって、レイを放っておけない。
盛り上がっているマルケスの袖とツンツンと引っ張る。
「マルケスさん、レイが酔っぱらってしまったので、先に帰ります」
「主役のお前が帰るのか?」
マルケスは俺が大事そうに抱えるレイに目線を落とした。
「······仕方がないな。 明日は傭兵証を取りに行くんだろう?」
「はい。寄宿舎にも明日から入れるそうです」
「わかった。 後の事は俺たちに任せろ」
「すみません」
俺たちはこっそりと白馬亭を出た。
もう夜も更けたというのに、街中ではやはり俺たちは注目の的だ。
嫌ではないが、あまり嬉しくもなかった。
レイはシークの代わりに酔っ払ってしまいましたね。
と言うことは、シークは一生涯酔うことができないの?
(゜_゜;)
人竜族のスタンリー兄弟の髪の色を水色と緑から、水色と赤色に変更しました。




