14章 人竜族
言葉を取り戻した主人公は、ガドルから衝撃的な事を聞く!!
14章 人竜族
「先にお茶を入れますね」
ザラが部屋の隅に置いてあったポットに茶葉と水を入れた。 しかしポットから出てくるはずの水は湯気を出して熱くなっている。
炎の魔法でこんな事もできるのか。
ガドルは優雅に熱いお茶を一口飲む。
「シーク殿の本当のお名前はなんとおっしゃるのですかの?」
「あっ! 俺、記憶もないんです。 グノームが言うには、頭を打ったせいじゃないかと」
ガドルは少し首をかしげる。
「先ほどから出てくるグノームとは、もしかして地の精霊王グノーム様のことでございますか?」
「そうです。 ドワーフにお世話になったので。 あと、ゴブリンの所でオベロンにも会いました」
ガドルは目を見張る。
「さすがは天龍の加護者様でございますな。 妖精王のオベロン様とも顔見知りとは」
「いや······たまたま成り行きで······それより、先ほどの話ですが?」
「そうでしたな。 どこから話せばよいか······」
ガドルは少し思案する。
「記憶がないという事はご自分の出自もご存じないのですな? レイ殿との関係も?」
「はい。 崖の下の森の中で目が覚めて、その時レイが俺の下敷きになっていたのです。
ですから、たまたま俺がレイの上に落ちたのだとばかり······」
「ふむ······」
ガドルはまたお茶を一口飲む。
「実は、わしやザラとホグス、そしてシーク殿は、人間とは違うのじゃが、その事はお気づきですかな?」
「えっ?!!······俺······人間ではないのですか?」
な······なんだ? その衝撃的な話は!!
「我らは人竜族と申します」
「人竜族?」
「見た目は人間と変わりませんし、別に竜に変身するわけでもありません」
竜に変身するのかと思った······ちょっと安心。
「ただ、大きな違いというのが人竜族はドラゴンを生むのですじゃ」
「産む?! 男も子供を産むのですか?」
「子供というのは少し違いますな。 ドラゴンは子供とは違いますのじゃ。
女性は人間と同じように自分の子供も産みますが、男性も女性もまれに自分の分身であるドラゴンを生むのじゃ。
ドラゴンを生んだ者を人竜族の中では[竜生神]と呼ばれるのじゃ。
そして生まれたドラゴンは[魔力の覚醒と増幅]をしますのじゃ」
「覚醒と増幅······」
「それ以外にも、簡単な望みならかなえてくれなすぞ。 欲が絡んだ金や女などはダメじゃが、例えば汚れた体や洋服を綺麗にしてほしいとか、お腹がすいたので食べ物が欲しいとかなどですな」
「あっ! もしかしてあの時落ちてきたリンガもレイが出してくれたのか?」
「うん そうだよ」
「そうか! ありがとう」
フフフと、レイは照れ臭そうに笑った。
「そして多くのドラゴンはその力と同じ色をもっております。 わしのドラゴンは白、黄、水色なので、白魔法と雷と水。 ザラのドラゴンは赤と緑で炎と風。
そしてレインボードラゴンの竜生神であるシーク殿は、黒魔法以外のすべての魔法をドラゴンからもらい受けることができますのじゃ」
「わぁ! レイって凄いんだな」
「レイ殿が凄いのではありません。 レイ殿を生んだシーク殿が凄いのでございます」
「俺って凄いのか······だってよ。 聞いたか? フェンリル」
フェンリルは「そりゃ~~良かったな」と心なく言ってそっぽを向いた。
「シーク殿とレイ殿の関係はご理解いただけましたかの?」
「親子よりも絆は深そうですね」
「というより、一心同体ですのじゃ。 もしもドラゴンが死んでも魔力を失いはしませんが、限界が狭まりますのじゃ。
しかし、逆にわしらが死ねばドラゴンは死んでしまいますのじゃ。 それほど強い絆なのですじゃ。
特にシーク様とレイ殿の絆はとても深く、我々は近くにいるだけで加護の力を感じます。 あなた方の近くにいるだけで、魔力が増大しているのを感じますのじゃ」
「へぇ~~。 なんだか俺たちは加護の力がダダ漏れ状態みたいな感じ? これって人間にも影響あるのですか?」
「人間には何の影響もありません。 人竜族と妖精や霊獣だけじゃな」
へぇ~~~、そう聞くと、やっぱり人間より妖精とかに近い存在みたいだな。
「そういやさっき、まれに生むって言っていましたよね? 生まない人竜族はどうなるのですか? 魔法は使えないのですか?」
ガドルは一つ頷く。
「ふむ······もう一つ、人間と違うのが、人竜族は寿命が長く、200歳ほどまで生きますが、その中で進化をしますのじゃ」
話が飛んだぞ······しかし、進化って······200歳って······
俺、200歳まで生きるのか。
「人によって時期は様々ですが、1年ほどかけて進化し、容貌が変化しますのじゃ。 特に髪の色が自分の潜在的に持つ魔法の色のどれかに変わりますのじゃ。
わしは白く、ザラは赤く。 ホグスは茶色に。 そしてシーク殿は最高峰の色、ゴールドに変化しているのですじゃ」
ガドルは俺の髪に一瞬視線を向ける。
「ドラゴンを生んだ者はその時から魔法が覚醒するのじゃ。
しかし、生めなかった者でも進化を終えた後に魔法が覚醒する者もたまにおりますのじゃ。 ホグスのように。
じゃが、覚醒しない者がほとんどですな」
「ホグスさんはもしかして地の魔法を使えるのですか?」
「お察しの通りですな」
そうか! それで街中で派手な頭の人に挨拶されていたんだ。 あの人は人竜族だったんだな。
「そういえば、さっきの傭兵はドラゴンを連れている俺が魔法を使えることを知らなかったのですが、分かりやすそうなのにみんなは知らないのですか?」
ガドルは少し逡巡する。
「ふむ。 人竜族は人間に溶け込んでおります。 特に迫害されるわけでもありませんが、なんとなく皆が黙っておりますのじゃ。
近しい人は顔が変わったり髪の色が変わったりするので知っておりましょうが、元々の絶対数が少ないので知っている人は少ないのじゃ。
それに我らのようにドラゴンを生んだ竜生神は稀で、この街では我々だけしかおりませんのじゃ。 そのために一般には広まっておらんのだと思われますのじゃな。
それに、人間でも多少の魔法を使える者もおりますので、髪の色が違うから魔法が使えるというのも違いますのでな」
そうか······知り合いじゃなければ顔が変わっても気付かないよな······ん?
「えっ? ちょっと待って。 1年ほど? 進化はなんとなくわかりますが、俺、一瞬で変わりましたよ?」
ガドルたちも驚いていて、ザラは半分腰を浮かせてガドルに見入る。
「ガドル様 そんなことがあるのですか? 私は聞いたことがありませんよ?」
「俺は丸々1年かかったぞ」なんだかホグスは悔しそうだ。
「ふむ····」と、ガドルは思案している。
「どういう時に進化したのか覚えておいでですかな?」
やばい! やぶへび······この事にはあまり触れたくなかったのに······
「あのぉ······大猪の肉を食った時に······」
えっ?! と、ガドルは驚く。
「大猪とはもしかして······ヴァラーハ様の事でしょうか?······」
俺はためらいながら頷く。
「それは······何とも豪傑な······」
「大猪が襲ってきたから仕方なく······」
チラリとフェンリルを見るが、知らん顔をしている。
「ヴァラーハ様が霊獣という事はご存じでしたか?」
俺は小さくうなずいた。
「後で知った」
「肉を食べたと言われましたが、その残りの肉はどうされました?」
「ゴブリンたちが持って行きました」
その時、急にフェンリルが笑い出した。
「ハハハハハハ! ゴブリンが持ていったのか。 今頃オベロンが腰を抜かしているだろうな。 ハハハハハハ!」
「どういう事だ?」
それにはガドルが答えてくれた。
「ふむ······我らは霊獣の肉でも進化をいたしますのじゃ。 シーク様はそのために一瞬で進化なさったのでしょうな」
「という事は、ゴブリンも?」
「はい。 きっと今頃全員がホブゴブリンまたはゴブリンキングに進化していることでしょうな」
げっ!
「しかし、それなら安心じゃ。 最近の異変は、魔物が霊獣の肉を食べたせいかとも思ったのじゃがそうではありませんでしたの」
「異変と言えば、何か心当たりはあるか? ガドル」
フェンリルが起き上がり、急に真面目に話しだした。
「はい。 心当たりが一つ」
「なんだ?」
「最近、レンドール国王が崩御され、息子のマージェイン様が王位を継がれたのじゃが·········あくまでも噂じゃが、マージェイン様自身が王様を屠られたのではないかと······そしてそのマージェイン様の側には黒いドラゴンがいるという事ですじゃ」
「ほう······ブラックドラゴンか」
「その頃から異変が始まっております。 黒魔法の仕業とすれば納得いく所業でございますのじゃ」
······レンドール国王······マージェイン······ブラックドラゴン······
この言葉に何かが引っかかる。
······レンドール国······ブラックドラゴン······
その時、俺は急に頭痛に襲われ、頭を抱え込んだ。
「ううっ!!」
痛い! 頭が割れるように痛い!!
俺は頭を抱え込んだまま前に倒れ込む。
意識が遠のいていく時にフェンリルの声が聞こえた。
「おい!! シーク!! レイ!! どうした!!」
俺を心配して凄く焦ってくれているのだが、フェンリルが初めて俺の名前を呼んでくれた。
普通の人間と思っていたのに、違っていたたなんて!
(@ ̄□ ̄@;)!!




