13章 黙秘魔法
黙秘魔法をかけられている事に気づいたソフィアは、傭兵組合の重鎮達に会わせた。
13章 黙秘魔法
ソフィアが戻ってきた。
「こちらに御越し下さい」
俺たちを別室に連れて行くようだ。
二階の一室のドアを開けると、中にいた一人の男性が立ち上がった。
その人は2メルクほどありそうな巨漢で、薄茶色の髪をしている。 体格がいいので小山のように大きく見える。 そして左目に眼帯をしているが、眼帯をはみ出して額から眉を分断し頬までの刀キズがあった。
後ろで「ひっ!」と、驚く声がする。
「俺の名は[ホグス・キングストン] 傭兵組合の責任者をしている」
マルケスは緊張気味に頬を紅潮させている。
「俺······わ······私はマルケス・ブランシェで、この方がシークさん。 こっちがフィン・グランデ。 あっちがスーガ・ディーワンでござりまする」
直立不動の態勢で説明するマルケスは、変な敬語になっていた。
「少し待ってくれるか? とりあえず、座ってくれ」
俺たちにソファーを勧めて、自分も座った。 三人掛けのソファーが小さく見える。
フィンとスーガはソファーの後ろに立った。 マルケスが俺の横に座り、小さな声でささやいてきた。
「ホグス・キングストン殿といえば、傭兵の神といわれ、俺が一番尊敬している御方だ」
『へぇ~~、強そうだしな』
しばらくするとノックがあり、老人が入って来た。
白髪で、白く長いヒゲの老人で、白い膝丈のフワッとした上着に、足首が締まった白いズボンをはいている、そしてその肩には白地に黄色と水色の縦縞のドラゴンがいた。
『わぁ! ドラゴンだ!』
キュイ!
「もう少しお待ちください」
そう言ってホグスの横に座ったが、その間も老人は俺とレイを興味深そうに見ている。
沈黙の中、しばらく待っていると、外でバタバタと走って来る音が聞こえたかと思ったら、バタン!! と、思いっきりドアが開いて、20歳くらいの綺麗でグラマラスな、真っ赤な髪の女性が飛び込んできた。
その女性の肩にもドラゴンが乗っている。 鮮やかな赤い体で鬣と尾先が緑色だ。
「ホグス!! 天龍だって?! あっ!······コホン」
急にしおらしくしても遅いかも······
しかし、その女性の服は露出が多く、大きな胸がはみ出しそうで目のやり場に困る。
「お待たせしてすまんのう。 わしの名は[ガドル・ミルゴア]、ドラゴンは[ルーア]と申します」
「私は[ザラ・レンキー] この子は[リーン] よろしくね」
「ホグスの紹介は終わりましたかな?」
「さっきすませた」
「そうですか······さて······天龍の話は置いておいて、先ずはあなた様の事からですな、シーク殿。 言葉を話せず、字も書けないという事ですが、読むことはできますかな?」
俺はうなずく。
「黙秘魔法に間違いなさそうですな」
グノームとオベロンもそう言っていた。 俺は盛大にうなずく。
「黙秘魔法はそれ相応の事情があってかけられるもの。 そうそう魔法を解く事にはいかんのじゃが······しかし、天龍の加護者様にかけるとすると悪意しかありえませんな。 どう思う?」
ガドルはホグスとザラに意見を聞く。
「本当にその天龍の加護者なら、そうだろう」
「はい。 私もそう思います」
二人はうなずき合う。
「黙秘魔法を解いてほしいとお思いですかな?」
ガドルは俺に聞いていた。
『もちろん!!』
また、盛大にうなずいた。
ガドルたちは顔を見合わせて、再びうなずきあう。
「わかりました。 解いてみましょう。 ただ、申し訳ありませんが、他の方たちは外でお待ち願えますでしょうか?」
マルケスたちは顔を見合わせ、少し残念そうに部屋を出て行った。
3人の足音が遠のいてから、ガドルはフェンリルの方を向いた。
「お久しぶりです、フェンリル殿」
『えっ?! 知りあい?』
「久しいな、ガドル、ルーア」
えっ?! 人と話せるのかよ!!
「ひさしぶりね! フェンちゃん」
ガドルの肩の上からルーアが嬉しそうに片羽を上げた。
『フェンちゃん?! ぷっ!』
「うるさい! あいつのあの呼び方をやめろと何度も言うのに!!」
『ククク、可愛くていいじゃないか』
フェンリルは俺をにらむ。
しかし、フェンリルと聞いて、横でザラとホグスが驚いている。
「フェンリル様ですって?! あの伝説の?!」
また伝説かよ·········
「そうじゃ。 タナーヴの森の主様じゃ」
ガドルはニッコリと笑った。 ザラとホグスは顔を見合わせる。
「さて、御本人を前にしてどうかと思いますが、フェンリル殿はこの御方の黙秘魔法を解くことをどう御思いですかな?」
フェンリルはチラリと俺を見る。
「まがりなりにも天龍の加護者だ。 人格は我が保証する」
『[まがりなりには]はよけいだけど······それって褒めてる?』
「うるさい!」
『遠慮するなよ。 褒めてるんだろ?』
「黙れ!」
「ほほう······仲がよろしそうでございますな」
「どこがだ!」
フェンリルはフン!とそっぽを向くが、尻尾は盛大に振られていた。
ガルドは少し笑いをこらえていたが、真顔に戻った。
「ただ、一つ問題がございます」
俺たちは次の言葉を待った。
「この魔法を解いた地点でこの魔法をかけた者に知れることになりますのじゃ。 おそらく居場所もじゃ。 この国にいることくらいはわかるじゃろう。
そうなればシーク殿に危険が及ぶ可能性がありますのじゃが」
『望むところです。 なぜこのような魔法をかけたのかがわかるでしょう』
「気にしないと言っている。 逆に、犯人がわかっていいだろう」
「承知しました。 ではシーク殿、お立ちくだされ」
立ち上がった俺の元にガドルはゆっくりと歩み寄る。
「失礼いたします」
そう言って俺の頭に片手を添えてから、目を閉じて呪文を唱え始めた。
ガドルの手のひらが温かくなってきた。
いや、熱くなってくる!
『熱い!!』
俺が逃げないようにもう一方の手で頭を押さえてきた。 ホグスが俺の元に来て動かないように俺の体を後ろから押さえる。
凄く熱い!! 全身が焼けるように熱い!!
ガドルは呪文を唱え続ける。 そして、カッと目を見開いた。
「解!!」
俺は全身の力が抜けて思わず膝をついた。 その時、フェンリルの肩にとまっていたレイがバタンと床に転げ落ちた。
「レイ!!」
あっ! 声が出た!!
「大丈夫か? レイ······」
「うん。 大丈夫」
······えっ?!······喋った?
「レイ! もう一度喋ってみろ!」
「大丈夫だよ。 マー」
「凄い! レイが喋った!! ママは嬉しいぞ!!」
「うん! 僕も嬉しい!!」
俺はレイをキュッと抱きしめた。
これぞ子供が初めて言葉を話した時の母親の気持ち?
「ガドルさん、ありがとうございました」
俺が深々と頭を下げたのを見て、ガドルも満足げだ。
「レイ殿も話せるようになりましたか。 よかったですな」
「そういえば、グノームが言っていたのですが、俺とレイの絆のオーラとか、レイが話せないのは俺が話せないせいだとか······どういうことかわかりますか?」
ガドルは少し驚いた風に俺を見つめてから、ソファーを指す。
「ふむ······まずはお座りくだされ」
全員ソファーに座り直し、レイは俺の膝の上に飛んできてチョコンと座った。
やっと話せるようになったシークは、ガドルから衝撃的な話を聞く事になる!
(@ ̄□ ̄@;)!!




