12章 傭兵組合
新しい話が始まります。
これからこの国で生きていくには、仕事がいる。
迷わず傭兵組合に顔を出す。
12章 傭兵組合
フェンリル商団は、かなり大きな商団だ。
端が見えないほど広い敷地内に従業員や護衛たちの大きな寄宿舎がある。
中でもフェンリル団長の自宅は城かと思うほど広大で、それ以外にもいくつもの倉庫がずらりと並んでいた。
俺は寄宿舎ではなく、戸建ての広い客間に通された。
二間続きの豪奢な部屋で、奥の部屋は、部屋自体がベッドかと思うほど大きなベッドがある。
そしてこの部屋専用の広い庭まであった。
「御用の時は、このベルを鳴らしてくださいませ」
案内してくれた執事が指さす先の入り口の横に、ハンドベルが置いてあった。
「それとこれは旦那様からです。 護衛の報酬だそうです」
小さな布袋を渡すと、失礼しますと出て行った。
『報酬?』
中をのぞくと金が入ていた。
『わお! 10万ルク(1ルク=1円)あるぞ!』
よく考えると、お金を1ルクも持っていなかったことに気がついた。
ソファーでゆったりとくつろぐ。
『···············』
しかし、今まで野宿だった俺には、この広い豪奢な部屋は落ち着かない。
『············街に行こう!』
久しぶりの人間の街だ。 見るものすべてが珍しい。 フェンリルも渋々ついてきた割には楽しんでいるようだ。
屋台で肉の串焼きを2本買って1本をレイにあげた。
『うまいな!』
キュウ!
しかし、なぜか人の視線を集めている気がする。
まあ、レインボードラゴンとデカい狼を連れているから仕方がないが、それにしても女性たちが俺の顔を見ては赤くなっている気がする。
女性4人が立ち話をしていて俺に気付いてヒソヒソ話をしていたので、ニコッと笑って見せると「「「キャ~~~!」」」と叫んで顔を赤くしていた。
もしかしてみんなが見ているのは俺?
俺ってカッコいい?······ウフ!
それと、緑色の髪の人が、不思議な事に俺に丁寧に頭を下げる。
派手な頭同士って事なのか?
その時、後ろから肩を叩かれた。
「よお!」
マルケス、フィン、スーガの3人だ。
「ちょうどいい、今から飯に行くんだが一緒にどうだ?」
マルケスたちに連れられて[白馬亭]という店に入った。 かなり広い店で60~70人は入れそうだ。
白馬亭というだけあって、あちらこちらに馬の置物やタペストリーや絵画があり、店の真ん中に等身大の真っ白い馬の彫刻がデンと飾ってある。
この店はマルケスたちの行きつけらしい。 朝と昼はお食事処だが、夜には酒場になるという。
ドラゴンや狼が入れるのか心配したが、案外あっさりと入れてくれた。
フェンリルは興味なさそうに足元に寝ている。 逆にレイは興味津々でまわりのテーブルに乗っている食べ物を見て、ヨダレをながしている。
趣味でヨダレまで流すなよ。
彼らのお任せで出てきた食事は、懐かしい味がしてとても美味しい。 レイはお代りまでねだる。
だから、趣味でそんなに食うなよ!
色々話しをした。
マルケスとスーガは以前からの知り合いで、マルケスは昔から両親とこの街に住んでいるという事だ。
フィンとは今回の仕事で初めて一緒になったそうだが、3人だけ生き残ったという事もあって、意気投合して仲よくなったそうだ。 フィンはレンドール国の生まれだそうだが、今はこちらに拠点を置いていて、スーガと共に傭兵の寄宿舎に住んでいるという。
「そういえば、シークはこの街に何か目的があって来たのか?」
俺は首を振る。
「仕事のあては? このままフェンリル商団の専属の護衛になるのか?」
また首を振る。
「傭兵登録をしないか?」
傭兵登録? 俺は首を傾げる。
「登録すれば、仕事を紹介してくれるし、傭兵用の寄宿舎もある。 紹介された仕事でもらった報酬の3割を取られるが、その代わりにそんなに多くはないが仕事がなくても毎月給金が支給されるんだ。
シークならAランク以上だろうから、給金もそれなりに貰えると思うぞ」
護衛の仕事なら話せなくてもできるし、何よりレイとフェンリルと一緒にできる。 腕(魔法)には自信があるし、俺にピッタリな仕事だ。
ちなみに彼らは3人ともBランクだそうだ。 Eランクまであるので、彼らもまあまあの腕という事だ。
俺は大きくうなずいた。
「そうか! じゃぁ、さっそく傭兵組合に登録に行こうぜ」
傭兵組合の建物は思った以上に大きい。 敷地もどこまであるんだと思うほど広い。
受付のある建物の入り口のドア開けると広いロビーになっていて、テーブルやイスが置いてあり、そこには40~50人の厳つい男達がいた。 いや、厳つい女性もチラホラいる。
俺たちが入ると、そこにいる者たちが一斉にこちらを見る。 あちらこちらでヒソヒソ話が始まった。
「こいつらは仕事をさがしに来ているんだ。 気が荒い奴らもいるから気をつけろよ」
フィンが説明してくれた。
マルケスは気にせず、正面にあるカウンターに真っ直ぐ進む。
カウンターにいる水色の髪の綺麗なお姉さんが、俺を見て顔を赤らめる。 名札には[ソフィア]と書いてあった。
「傭兵登録をしたいのだが」
「マルケスさん、こんにちは。 登録はこちらの方ですか?」
少し上目づかいで俺とレイを見比べる。
「そうだ。 腕は確かだ」
周りのヒソヒソ話がガヤガヤになった。
「あの面で傭兵になるのか?!」
「ドラゴンを連れているぞ」
「あのデカい狼はなんだ?」
ソフィアが申込用紙を出す。
「こちらに記入をおねがいします」
俺はペンを持ち、書き込もうとしたが書けない。
『どういうことだ? 字は読めるのに書けないぞ?』
何度も試すが、どうしても書けない。
そういえば、黙秘の術は話す事も筆談する事もできないとグノームが言っていた······どうしよう······
「どうした? 言葉を話せなくなった時に文字まで忘れたのか?」
マルケスは冗談で言ったのだが、俺はその言葉にうなずく。
マルケスたちはもちろん、ソフィアも驚いていた。
「話す事ができないのですか?······それに文字もかけない?······レインボードラゴン······」
ソフィアは一人呟いていたが、俺に向かって聞いてきた。
「あのぉ~~、話せないのですか?」
俺はうなずく。
「字も書けないのですか?」
字まで書けないと傭兵になれないのかと思いながら、しかたなくうなずく。
「······しばらくここで御待ちください」
そう言って奥に入っていった。
4人でボ~っと待っていると、後ろから3人の男達が近づいて来た。 先頭の男はいかにも傭兵っぽい感じでガッチリしていてアゴにヒゲを生やしている。
「よぉ、マルケス。 そのお嬢ちゃんが傭兵になるって?」
「そうだが?······」
「傭兵試験を俺がしてやる」
「ヨシュア、やめとけ。 後悔するぞ」
「俺はCランクだぞ。そう簡単に負ける訳ないだろ」
Cランクというのもそれなりに強いのだろう。 しかし、戦うのも面倒だ。
ヨシュアが剣に手をかけようとした時『岩』と手首から上を固めてやった。
「わっ!」岩の重さで腕が下に落ちる
「な···なんだ?」
「だからやめとけって言っただろ? こいつは魔法が使える」
「そんなの反則だろう? どうにかしてくれよ」
俺は岩を消した。
ヨシュアは腕をこすりながら、さっきとは一転、ヘラヘラしながら俺の前に来た。
「魔法が使えるとは知らなかったよ、悪かったな。 それにしてもカッコいい狼だな。 お前のペットか?」
ヨシュアがフェンリルの頭をなでようと手を伸ばす。
あっ! と思った時には遅かった。 フェンリルがヨシュアの手を噛んだ。
「いって~~~っ!!」
俺はフェンリルの頭をゴツンと殴った。
『いってぇなぁ!!』
『人の手を噛むなよ!!』
『だってあいつが······』
『風で口輪をしてほしいか?!』
『チェッ!』
フェルリンは拗ねてそっぽを向いた。
本当に困った狼だ。 これからも人間とうまくやっていってもらいたいのに······
俺は何度も頭を下げる。
「いや、俺も悪かったよ」
そう言いながらヨシュアたちは元いた場所に戻って行った。
受付のお姉さんは、どこに行ったのか?
傭兵試験は受けることが出来るのか?
( ゜ε゜;)




