11章 フェンリル商団
人が巨大蜘蛛に襲われている!!
11章 フェンリル商団
歩きながら二人のドワーフに名前を聞いてみた。
前を歩くケガをした方が[ゴゴト]で、後ろを歩くのがが[マララ]と言い、なんと! 夫婦だそうだ。
やっぱり性別はわからん。 しかしよく見ると、太っているだけかと思ったら、マララには胸の膨らみがある。
女性なんだからヒゲはやめようよ。
途中まではきちんと整備され、幾つもの道に分かれていたのだが、突き当りの大きなドアを抜けた先からは、木の枠で補強されただけの暗くじめじめした一本道になった。 明かりもないので、松明で足元を照らす。
しかし、どの道もドワーフが歩くには広い道だ。 高さは3メルクほどあり、道幅は3メルク半ほどある。 なぜこんなに広いのか聞いてみるとゴゴトが教えてくれた。
「できあがったしなものをはこぶためだす。 ニンゲンと、とりひきをしてやすので、このみちをとおって、にぐるまでニバールこくにいくのでやす。 ほかにもいきさきによって、こんなみちが、いくつもあるのでやす」
この道の先にはニバールという国があるのか。 楽しみだ。
けっこう遠い。 山を縦断するのだから仕方がないが、ただ暗いだけの道を歩くのは何も変化がなく退屈だ。
途中の広くなったところでゴゴトたちが用意してくれた昼食を食べて、再び歩きだした。
やっと突き当りの扉が見えてきた。
重そうな扉を二人のドワーフがゆっくりと押し開けると、隙間から明るい日差しが差し込み、長い間暗い場所にいた俺は、思わず目を手で覆う。
手を放して前を見ると、美しい花が咲き誇る草原が広がっていた。
マララが前に出てきた。
「いまがいちばん、きれいなときだすな。 きれいでやす!」
綺麗な花に反応するところは、やはり女性だなと思った。
「あそこにやまがみえるだすか?」
ゴゴトが指差す遥か先には三角が三つ重なったような山が見える。
「あのやまにむかっていけば、ニンゲンがつくったみちにでるでやす」
この場所からもわずかに輪達の後があるが、消えかかっている。 山という目印はありがたい。
『ありがとうございました』
俺は頭を下げた。
「やめてくだせい。 おれいをいうのはわしらのほうだす。 きをつけていってきてくだせい」
いつまでも手を振る二人に別れを告げ、俺たちは歩き出した。
しばらく歩いた時に、ふと気がついた。
グノームがあの時言っていた事。 レイが俺のせいで喋れないとか、俺とレイの絆ってどういうことなのかを聞くのをすっかり忘れた。
フェンリルに聞いたが「知らん」で済まされた。
だよね·········
ドワーフの山の西側は、例の未知の現象の影響が少ないようだ。 おとなしい獣が襲ってくるという事はない。 ただし、デカイ昆虫や魔物はあいかわらずいて、時折襲ってくる。 しかし格段に回数が少なくなった。
まあ、俺の敵ではないけどね。
◇◇◇◇◇◇◇◇
広い道に出た。
『やっと人の近くに来たって感じだな』
「そうだ、先に言っておく。 我は人間とは話さない······じゃなくて、話せないからそのつもりでいろ。 それと本来の大きな姿は人間に見られたくないことも覚えておけよ」
『えぇ~~~っ!! 人と話せないのか? 通訳してもらおうと思っていたのに!』
「そう言うと思った。 話せないからな!」
『チェッ!』
その時、フェンリルの耳がピクンと動いた。
ギュイ! ギュイ!
レイも警戒の声を出す。
『どうした?!』
「遠くで人間の叫び声が聞こえる!」
キュイ!!
『どっちだ?!』
「後ろだ!」
『フェンリル!』
「おう!」
大きな姿に転身したフェンリルに飛び乗り声がした方に急ぐ。
見えた! 木の上に巨大蜘蛛がいて、人に糸を吐きまくっている。
フェンリルの大きな姿が見られないように、俺は少し手前で飛び降りて走りながら風カッターで巨大蜘蛛の口から伸びている糸を斬る。
俺に気付いた巨大蜘蛛がこちらに向かってきた。 再び風カッターで足を8本切り落としてそのまま頭も切り落とした。
足も胴体も頭も、地面に落ちてからも暫くバタバタと暴れていたが、そのうちおとなしくなった。
急いでグルグル巻きになっている人たちの蜘蛛の糸を、注意しながら剣で切っていく。
5人と馬1頭が蜘蛛の糸に巻かれていた。
逃げていた人達もゾロゾロと戻ってきて、蜘蛛の糸で巻かれた人たちと馬を協力して助け出す。
巻かれていた5人のうちの3人は護衛のようだ。 みんな生きたままで糸に巻かれていたようで、特にケガもなく糸から助け出したらピンピンしていてよかった。
しかし、50人近くいる大きな商団をたった3人でこの化け物が多くいる森を抜けてきたのか?
「助かった、すまなかったな。 俺はマルケス。 護衛隊責任者だ」
体格がよく、太い眉毛で、意志が強そうだが好感の持てる顔をしていて、身の丈ほどの大剣を持っている。
「「ありがとうございました」」
フィンと名乗る護衛は小柄だがなかなか引き締まった体をしている。 そしてなんだか愛嬌のある顔をしていて、弓を抱えていた。
もう一人はスーガ。 なかなか優しそうな色男で体格的に俺に似ている。 後で聞いた話では、マルケスより腕が立つそうだ。
「それで······」
マルケスは俺の肩にとまるレイと、いつの間にか俺の横に来ていたフェンリルを見て戸惑っている。
「お前の連れか?」
俺はうなずく。
「お前の名は?」
俺は例のごとく、身振り手振りで話せないことを伝えた。
その時、恰幅のいい鼻ヒゲを生やした身なりのいい男が近づいて来た。
「この度はお助け頂きありがとうございました。 私はこのフェンリル商団の主のフェンリルでございます」
俺は思わずブッ!と吹き出した。 フェンリルは仏頂面をしている。
「なにか可笑しいことがありましたか?」
そう言いながら視線はレイにくぎ付けだ。
俺は太ったフェンリル団長と狼のフェンリルを交互に指差した。
「もしかして、その狼の名もフェンリルというのか?」
よく分かったものだ。 マルケスが察してくれたので、俺はうなずく。
「そうだ団長。 こいつ言葉が喋れないらしいんです」
「命にの恩人に[こいつ]はないでしょう?」
マルケスはすんませんと、頭を掻いた。
「話せないとは、気の毒に······そうそう、私の名は伝説の偉大な霊獣フェンリル様から名前を頂きました。 その狼もそうでしょ?」
『伝説の偉大な霊獣様だそうだ』
フェンリルはフフン! と、少し得意顔になっている。
「それにしても、名前が無いのは不便ですね······呼び名を付けさせていただいてもよろしいですか?」
俺はうなずく。
そういえば今まで俺には名前がなかった。
レイは話せないし、フェンリルは[おい]とか[お前]としか言わないし、あとは[加護者様]だから、特に不便を感じなかった。
「そうですね······[シーク]はどうですか? シーク殿······なかなかいい響きではありませんか?」
キュイ!
レイが気に入ったようだ。 俺は何でもいいのでとりあえずうなずいた。
「フォッフォッフォッ! 決まりですな。 ところで、その肩にとまっているドラゴンはシーク殿のものですか?」
もの扱いは気に入らなかったが、とりあえずうなずく。
「譲っていただくことはだきませんか?」
言っている意味がよく分からずに首を傾げた。
「金貨500枚でいかがですか?」
こいつレイを金で買おうというのか?!!
俺は思いっきり首を振る。
「では1000枚で!」
なんだこのおっさん! いくら金を積まれても売るわけないだろ!!
俺とレイは同時に腕をクロスして[ダメ!]と表現する。
「思い切って2000枚!!」
今度はフェンリルが一歩前に出てガルル! と、牙をむいた。
フェンリルよくやった!!
フェンリル団長は怯えて一歩下がった。
「も······申し訳ございませんでした」
やっとあきらめたようだ。
フェンリル団長はコホンと咳払いをした。
「シーク殿はこの後どちらに行かれるのですか?」
俺は進行方向を指差す。
「ニバール国にいかれるのでございますか? それならこのまま我が商団と一緒に行きましょう! もし当てがないのでございましたら、我が商団で面倒を見させていただきます。 いかがですか?」
もちろん俺には行く当てなどないし、面倒を見てもらえるのはありがたいので、快く受ける事にした。
「ありがとうございます!! 実のところ、レンドール国を出る時に護衛を20人雇ったのですが、ここまでにほとんど遣られてしまって困っておったのです。 シーク殿のように強い御方が一緒にいて下さるなら安心です」
そっちが本音だろうが、全然気にしない。 むしろ望むところだ。
馬を1頭あてがわれた。 俺は馬の扱いも慣れているようだ。 問題なく乗りこなせる。
途中、巨大アリが2匹で襲って来たが、俺が難なく倒し、ニバール国に入った。
やっと人間に会いました。
これから人間の街で暮らしていきます。
( =^ω^)
地図は、急いで娘に描いてもらったので、ちょっとビミョーですが、位置関係がわかれば····(;^_^A
赤の×印は、シークが目覚めた場所です。
×印の横にある水色が川で、先は湖になってます( ゜ε゜;)




