107章 ガドルの居場所
アニエッタが「おじい様をご存知ありませんか」と聞いてきた。
107章 ガドルの居場所
俺はレイに服と体をキレイにしてもらった。 白い魔法衣は気に入ったので、そのままにしてもらう。
グノームに振り返る。
「左手を無くしたときに頂いた宝珠も一緒になくしてしまいました。 申し訳ありませんでした」
俺が頭を下げると、やめて下さいとグノームは慌てる。
「少し時間がかかりますが、再び作ることができます。 その時にはまたお渡ししますのでぜひ受け取ってください」
逆に頭を下げられてしまった。
オベロンにもらった宝珠のペンダントは切れずについている。 あれだけの魔法攻撃に耐えるとは何か術でもかけられているのだろう。
さすがにSクラスの傭兵証はなくなっていた。 再発行をしてくれるだろうか?
大丈夫だよな。
ドゥーレクと黒龍も倒し、戦争も終わったことだし、オベロンの宝珠も返そうと思ったのだが「それは生涯お持ちください」と、こちらも断られた。
使う事があるとは思えないが、まぁいいか。
全てが終わったところで、アニエッタが「あのう······」と、遠慮がちにみんなに聞いてきた。
「おじいさまが見当たらないのですが、どなたかご存じありませんか?」
「本当だ! シークに気を取られて気付かなかった」
「そういえば、途中から見なくなったな」
「ガドル先生がいないのですか? 何かあったのでは?!」
俺も慌てた。
考えてみればガドル先生がここにいない事自体がすでにあり得ない。 常に率先して事にあたる人だった。 俺もアニエッタもここにいるのに······戦争も終わったのに······嫌な予感で体に冷たいものが走る。
フェンリルが沈んだ声で「我が知っている」と言う。
アニエッタは弾ける様にフェンリルの方を向いたが、フェンリルの顔を見て次の言葉を飲み込んだ。
フェンリルが俺とアニエッタに乗るように言ってきた。
アニエッタも真っ青な顔をして震えだした。 俺は黙ってアニエッタをフェンリルの背中に乗せる。
俺は嫌な予感がして、フェンリルに聞くことができない。 それはアニエッタも同じのようで、一言も話さずにただ前を睨みつけるように見つめていた。
◇◇◇◇
三連山の東側に行くと、グリフォンとハーピーの一団がいた。 ガドルの護衛の一団で、ディームが四角い岩の前で待っていた。
フェンリルを見て頭を下げ、四角い岩の後ろに下がって伏せ、他のグリフォンやハーピーたちも首を垂れて控えている。
フェンリルはその四角い岩を視線で指す。
俺とアニエッタはフェンリルの顔を見上げてから四角い岩の少し前に立ち止まった。
一緒についてきた他の者たちは少し後ろで一言も声を発することなく控えている。
すでに全員の心の中に予感があった。
四角い岩の上側がフッと消えると、中に穴が開いている。 震えるアニエッタを支えながらゆっくりと岩に近づいた。
俺が先に覗き込むと、血まみれで横たわるガドルがいた。
プラチナの美しい髪は、血と泥で固まり乱れ、白い服もビリビリに破けて、えぐれた傷跡が露わになり痛ましい。
『レイ』『うん』
一瞬でガドルの顔や服装がキレイになり、棺の中で眠っているように見える。
少しでもアニエッタのショックを和らげることが出来るだろうか······
恐る恐るアニエッタが棺を覗き込んだ。
周りが暗くて月明りだけなので、よく見えないが、あえて明かりを灯さないようにした。
アニエッタが「おじい様?······」と、ゆっくりと腕を伸ばして頬を触ると、ガドルはすでに冷たくなっている。
アニエッタは弾ける様に棺から離れた。
「おじい様!! あぁぁぁぁぁ!!」
そうして俺にしがみ付き、泣き崩れてしまった。
◇◇◇◇
ガドルの遺体が傷まないように、石の棺の中を凍らせてから蓋を閉じた。
するとレイが棺の周りに美しい彫刻を刻み、蓋には躍動感あふれるドラゴンが飛んでいる姿の彫刻が浮かび上がった。
姿なきルーアの代わりだ。
レイの思いやりに心が痛む。
全員で黙祷した。
ルーアがいない事が悲しみをより深く感じさせます。
。゜(゜´Д`゜)゜。