10章 ミスリル
グノームに朝食に呼ばれて行くと、色々な贈り物を貰う。
10章 ミスリル
翌朝、グノームから朝食を一緒にと誘われたので部屋を訪ねた。
グノームの部屋には二人のドワーフが待っていて、俺たちを見るなりひれ伏した。
「きのうはほんとうに、ありがとうごぜいやした。 どうしてももういちどおれいをいいたくて、おじゃましやした」
昨日、ゴーレムから助けた二人のようだ。 一人は腕に包帯をしている。 みんなよく似ていてわからない。
『俺が出した回復水で腕を治すように言ってくれよ』
「チッ! 我はお前専属の通訳かよ!······こいつの回復水で腕を治せってよ」
文句を言いながらもちゃんと訳してくれた。
「ありがとうごぜいやす。 使わせていただきやす」
そう言って、二人は嬉しそうに出て行った。
『あの回復水の魔力がいつまで続くかはわからないが、遠慮なく使ってくれるように言ってくれ』
「こいつがあの回復水を好きなように使えってよ」
「ありがとうございます。 ドワーフの宝となるでしょう」
グノームは深く頭を下げた。
「さあ、こちらへ······」
奥の部屋には、朝食とは思えないほど豪勢な食事が並んでいた。
もちろんレイと共に遠慮なくいただく。
「これからどうなさるのですか?」
グノームは少しためらいがちに聞いてきた。
「こいつは人間の街に行きたいのだと」
「そうですか······やはり、行かれるのですか······」
厳ついグノームが涙を浮かべて残念がっている。 俺にはその趣味はないが、なんだか可愛い。
「しかたがありませんね······」
グノームはふう~とため息をつく。
「ここ最近、魔物たちの力が急激に大きくなり、昆虫や魔物が巨大化して攻撃的になってきています。 気をつけて行ってらして下さい。 この山を抜けた先に人間の大きな街がございます」
「そういえば、襲ってきたゴーレムは5メルク以上あったぞ。 それにヴァラーハもそうだが、何もしないドワーフに襲い掛かるような凶暴な奴ではないはずだ」
フェンリルはグノームに意見を求めたが、それを聞いて質問したのは俺だ。
『本来ゴーレムはもっと小さいのか?』
「普通、大きくても3メルクほどしかない」
『フェンリルも?』
「我は元々あの大きさだ!」
俺とフェンリルの会話を聞いて、グノームはフフフと笑った。
「フェンリル様にはこの未知の現象の影響が及んでおられません。 きっと天龍様と加護者様の絆のオーラに守られているのでしょう」
俺とレイの?······どういうことだ?
「ドワーフには影響が及ばないように私が加護を与えておりましたが、天龍様がいらしてくださったので、もう安心でございます」
『レイが? なんで?』
「天龍が来ただけで安心ってどういうことだ?」
「あぁ、我らドワーフやゴブリンなどの妖精族は、元々天龍様の御加護によって生まれました。 またこうしてお会いできただけで再び御加護が頂けているのです。 ですから悪しき現象を跳ね返す力を授かりました」
『えっ? レイ、授けた?』
クウ~ウ
首を振っている。
『そんなことはしてないって言っているが? 思い込みじゃないのか?』
「天龍は何もしていないと言っているぞ?」
「御自覚がないだけでございます。 我らにはわかります。 ちゃんと御加護はいただきました」
『それでドワーフたちは俺たちを······いや、レイを大歓迎していたのか』
なんか納得···って、やっぱりドワーフとゴブリンって妖精だったのか······魔物だと思っていた。
『そうか! だから妖精王のオベロンがゴブリンの所にいたのか。 それに訪問しただけでなぜあんなに歓迎を受けるのかと思っていたが、ゴブリンたちがレイを歓迎するわけだ』
キュイ!
「えっ? おい! お前、オベロンとも会ったのか?」
フェンリルが驚く。
その時、グノームの目がキラリと光った。
「加護者様! オベロンとお会いになったのですか?!」
なにげに迫力に気圧されながら、俺はうなずいた。
「では、ゴブリンの村に?」
俺は再びうなずいた。
「クッソ!! 私が最初だと思っていたのに!······あぁっ! もしかして、その首の珠はオベロンからでございますかぁ?!」
俺はまたうなずいた。
「ちくしょ~~~っ!! 私が先にお渡ししようと思っていたのにぃ!!」
なんだかもの凄く悔しがっている。 順番なんて関係ある?
「いや大丈夫···大丈夫······私にはあれがありますから、オベロンなどに負けはしません。 クックックッ」
何かを張り合っているようだが、二人は仲が悪いのか?
グノームはコホンと咳払いをすると、先ほどまでの落ち着いた様子に戻った。
「先ほども申し上げましたが、天龍様と加護者様と一緒におられたのであれば、霊獣であるフェンリル様にまで悪しき現象の影響が及ばなかったと思われます。 しかし、私にもこの現象の原因は分かりかねるのでございます」
「そうか······我はこのところ増してくる凶暴性を抑えるのに苦労していた。 そんな時にこいつらに会った。
初めは天龍がいるから警戒していただけだが、長くこいつらの近くにいると、あれだけ溢れだしそうだった凶暴性がすっかりなくなっていることに気がついた。 だからこいつらといっしょに行動することを決めたのだ」
『なんだ、初めから一緒にいたいって言えばよかったのに』
フェンリルは俺を睨んだ。
「弱っちい奴と行動を共にするわけにはいかないだろう? だから見極めた」
『あっさり負けたもんな』
「我の主になるにはそれくらいの技量がなくてはダメだから、それでいいんだ!」
······今······凄いことを聞いたぞ!!
『あ る じ ?』俺はニンマリ微笑む。
「あっ!!······えっ···な···何のことだ?······」
フェンリルは耳を伏せて尾を股の間に巻き込んでいる。
『遠慮しないで御主人様と言ってみろ。 可愛い奴め』
頭をなでようと手を伸ばすと、ガブッと腕をかまれた。
『いってぇ~~~っ!! この野郎!! 風!』
風でフェンリルの口が開かないように閉じる。
『ほらほら! 悪い子はお仕置きだぞ! おとなしくなでられろよ』
フェンリルの首を抑え込んで無理やり頭をなでる。
「はばべ! ぼぼばぼう!!」
『遠慮するなよ! ハハハハハハ!』
俺が無理やり頭をなでている所を見てグノームは笑いをこらえている。
「仲がよろしいですね」
「ぼぼばば!!」
「クックックッ あっ! 忘れるところでした」
グノームがパンパンと手を叩くと、三人のドワーフが手に何かを持って中に入って来た。
「これをお渡ししようと思っていたのです」
そのうちの一人が見事な細工が施された銀色の箱をテーブルの上にうやうやしく置いた。
グノームがそれを開けると、中には銀色に輝く鎖帷子が入っている。
「これはミスリル製でございます。 ドワーフの技術の粋を集結して作り上げたものでございます。これを加護者様に使っていただきたいと思います」
グノームはなぜかもの凄く得意げだ。
『そんな貴重なものを頂いてもいいのですか?』
「ぐびぼばべぼばぶべ」
『あぁ、忘れていた。 消えろ』
「ぶはぁ~~っ」
フェンリルは俺を一睨みする。
「そんないい物を、こんな奴にやる必要はないぞ!」
『ちゃんと訳せよ!!』
「とんでもございません。 加護者様こそこれにふさわしい御方でございます。 それと、お召し物が小さいようでございますので、魔法衣でございますが、用意させていただきました。 多少の魔法なら弾くことができます」
もう一人のドワーフが大きな盆に服を乗せてきていた。
濃いグレー地に、赤で不思議な模様が描かれているジャケットとズボンに、シャツとブーツまで用意されている。
着替えてみた。
ミスリルは重さを感じないほど軽く、なぜか伸び縮みして体に吸い付くようで、着心地はとてもいい。 着ていることを感じさせないほどだ。
そして、魔法衣もピッタリ···というより、少し大きめかと思ったがサイズが変わってピッタリになった?
『どうだレイ、似合うか?』
レイに向かって、一回転して見せた。
キュイ! キュイ!
飛び跳ねて喜んでいる。
俺が喜んでいるのを見てグノームも御満悦だ。
「とてもお似合いでございます。 それでは最後にこれを······」
最後のドワーフが持ってきたのは、小さな箱だ。 ふたを開けると琥珀色の小さな珠がついたブレスレットが入っている。 それを中から出して俺に渡してくれた。
「この珠を握りながら[グノーム召喚]と唱えていただければ、すぐに加護者様元に現れることができます。 いつでもお呼びください」
『俺、声が出せないのだが······』
「声が出なくても呼べるのか?」
「もちろんです。 心の中で唱えていただければ大丈夫です」
『よかった。 ということは、オベロンを召喚するときも声を出さなくても大丈夫なのだな』
一人で納得する。
ブレスレットを腕にはめると、一瞬輝いて元に戻った。 俺を認識したのだ。
なんだか1ランク上がったような気分だ。
俺たちが出発すると聞いて、どうやらドワーフ全員が集まったようだ。 広い中央広場に入りきれず、各階から顔をのぞかせている。
「山を抜ける先まで案内させます」
2人のドワーフが松明を持って控えている。 例の2人だ。 どうにか見分けることができるようになった。
『ありがとうございました』
「礼を言っているぞ」
「とんでもございません!! こちらこそありがとうございました。お気をつけて」
俺はグノームに頭を下げ、ドワーフたちに手を振ってから歩きだした。
後ろからは御礼の言葉や歓声が入り混じって、洞窟が崩れないか心配になるほどの大歓声になっていた。
どうやらグノームとオベロンの間には確執があるみたいですね。
(;^_^A




