第四話 『放課後デートにラウンドツー』
「よいっしょ、これで全校生徒分になります。住所とかの個人情報は記されてないので恐らく大丈夫だと思いますが、内緒ですよ」
「ありがとうございます」
橘先生の授業を受けているわけではなく、初めて話したりしてみたが、全然悪そうな人ではなさそうだ。
恐らく蜜は何か誤解している。もしくは巨乳に対しての悪い偏見が強く根付いていて、橘先生が声をかけただけでも殺されるだ何だ言っているのかもしれない。
「あと俺はこんな部活に入っていますが、その……巨……乳に対して特に敵対心とかないので大丈夫ですが、蜜はそのことに関してはすごく過剰に反応しています。だから少しは橘先生自身の持っている物と、蜜が持っていない物のことを考えて接するべきだと思います」
「ありがとうございます……。少し考えてみますね……」
俺は、「では」と告げて職員室を出て行った。
右手には全校生徒分の所属部活一覧表。
「よーしやるぞ~」
時刻はもう五時を回っている。
今から部室に戻って全校生徒女子の帰宅部者のチェックをしなければならない。
蜜がいてくれればいいが、一人だったらちょっと大変かも……。
こういう作業は話し相手が欲しいしな。
部室の前まで来てドアを開けると、オレンジ色の夕焼けが差す部室の机に突っ伏す蜜の姿。
「おーい、持ってきたぞ」
一声かけると、蜜は突っ伏した姿勢のままそのまま俺の方を向いた。
「ありがとうございます」
それだけ言うと、再び顔を戻してしまう。
俺は静かに蜜の背後まで行くと、両手を伸ばし、
「うりゃ!」
「ひゃあ!!何するんですか!!」
俺は蜜の両脇をつついてやると、効いたらしいのかバッと立ち上がり、羞恥の顔を俺の方に向けて言った。
「セクハラです……!」
「さーてやるぞーー」
「話をそらさないでください……!」
それからというもの、二人で手分けをして早速女子帰宅部者のチェックをすることになった。
他愛もないことを離しながらコツコツと作業をしていたらすぐ終わり、十分くらいで終わってしまった。
二人がチェックしたのを合わせると69人の女子帰宅部者がいることが分かった。
割と多いから何人かは見つかるといいんだがな。
そして、二人そろって達成感に浸っていると、蜜はなにやらもじもじした様子で何かお言おうとしている。
「どうかしたか?トイレならすぐそこにあるぞ」
「デリカシーがないですねシン先輩は。違います。このあと……久しぶりに一緒にお出かけしませんか……?」
あーそういうこと。
というか、久しぶりと言っても一か月前の五月のことだ。
この部活動ができて、少し離れているところから電車通学してる蜜は、この街についてはほとんど無知なので、学校付近の色々なアミューズメント施設などの案内を俺がしようということになって、二人で街をぶらついただけなんだけどな。
だから何気これが二回目。
「蜜は俺とデートがしたいんだな?仕方ないやつめ。しょうがないから付き合ってやんよ」
「デートじゃ断じてないんですから!」
そんな真っ赤な顔で言っても説得力の『せ』の字もない。
プンスカ頬を膨らませながらこちらに詰め寄ってくる蜜を手で制しながら、俺は「はいはい」となだめてやると、ようやく離れてくれたのでカバンを持って帰り支度をする。
「シン先輩はいきたい場所とかありますか?」
「あれ、お前がなんか行きたい場所でもあったんじゃないのか?」
素直に疑問をぶつけると、「いいえ特には」と言われたので、どうしたものか思考をめぐらせる。
俺は正直行きたい場所なんてない。
誘ってきたのも蜜の方だしな。
だからと言ってここで無下に断るのも誘ってきた蜜に対して失礼だ。
そう思い、俺はやけくそに提案した。
「ラウンドツーなんてどうだ?最近運動不足だしさ。お前もだろ?」
「センスないですね(笑)。まあいいでしょう。ですがこんな格好で大丈夫でしょうか?」
センスがないについては少しムカッときたが、結局OKがもらえたので良しとしよう。
そして俺たちは学校指定の制服を着ている。
俺に関しては多少動きにくいくらいで特に問題はないのだが、問題は蜜だ。
スカートなので、どうしても動きに制限がかかってしまう。
自分の姿を見て、どうしようかと不安の顔を浮かべる。
「まあいいんじゃないかそれでも。仮に転んだりしても俺以外見るやつなんていないだろうから」
「なんですかその遠回しに私には魅力がないみたいな言い方!しかも何さらっと俺は見ますよ宣言しちゃってるんですか!シン先輩には余計見られたくありません!」
「はいはい俺は幼女の穿いているくまさんパンツなんか見たくありませんよ」
「くまさんパンツじゃありません!」
「じゃあ何パンツよ?」
「そんなの言うわけないじゃないですか!あと、断じてくまさんパンツじゃないですからね!」
「へいへい」
ひとしきりからかったあと、俺たちは学校を出てラウンドツーに向かう。
横で未だに根に持っている蜜の姿を見て、「ぷっ」と笑ってしまう。
「なんで私を見て笑うんですか?」
さすがにさっきはからかいすぎたかな、と反省する俺であった。