第三話 裏の話① 『空気浸透型成長促進剤』
「いやー、立派です。ですが要さんの技術なら少なくとも成功すると私は思ってましたけどね」
とある研究室、白衣を着た女がここ数年の数値に満足いった様で褒めると、もう一人の白衣を着た要と呼ばれた男にその巨大な胸を押し付ける。
「ふむ。これで貧乳が絶滅するのも時間の問題だ。だれにも止められない」
「なんていったって空気浸透型成長促進剤を大量生産して全世界にばらまいたんですもん。もう要さん天才過ぎて私……、股間辺りが何かを欲しがって………」
「よせはしたない。ここはあくまで研究室だぞ」
要はパソコンの電源を落とすと、そのまま白衣を脱いでこの研究室から出て行ってしまう。
取り残された椿は、その背中を見て「いけずぅ」と漏らし、研究室から出て行ったのを確認してから、要が着ていた白衣を手に取り、そのまま顔を埋めて昇天していった。
一方要は、
「ようやくあの茜クソロリ野郎に復讐することができる。あの日の屈辱、絶対に晴らしてみせる」
口角を吊り上げ、悪だくみする子供の如く笑うと、スマホに「ぴろん」と通知音が鳴った。
それは、毎度チェックしている公式サイトの更新したときの通知。
そして、その内容を見た瞬間要は歩を止めて、その顔は怒りで染まっていた。
内容は、
『年々早まっている第二次性徴が早まってきている問題について、これが人為的によるものだと判明』
「チッ。だが想定内だ。予定より少し早かっただけでこの俺様の技術には逆らえない」
絶対的なまでに自分に自信がある様子の要は、スマホをポケットに戻し再び歩き出した。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「ようやく見つけました」
茜は数日の徹夜が報われたことに感動しつつも、ほかの研究員たちに研究結果を報告した。
「なるほど、空気中に溶け込んでいたということは、これは誰かが意図的にやったってことでいいんですよね?」
近くにいたほかの研究員が淹れたてのコーヒーを渡しながら尋ね、茜は小さくうなずき、真剣な表情になる。
「はい。仮に天然物だったと仮定して調べても、どうしてもその説明がつかないんです」
言い終わると茜は一口コーヒーをすする。
「にげっ」と一瞬ブラックコーヒーの苦さに顔を渋らせ、もう一度すすると今度は顔に出さずに済んだ。
「だから誰かによるもの……つまり人工物。なるほど、とりあえず茜研究長はゆっくり休んでください」
だが他の研究員の気遣いに茜は首を横に振った。
「まだやることがあります。この空気浸透型成長促進剤はどうしても場所によって濃度が異なります。なので最も濃度が濃いところを探れ………ば」
バタン。
茜はもう体力の限界で、そのまま倒れてしまった。
「茜研究長は休まないんですから、こうまでしないと」
コーヒーに一服盛ったのである。
その言葉と同時に、周りの何人かの研究員たちも毎度のことに笑ってしまう。
茜は皆に信頼されているのだ。
そのまま寝息を立てて爆睡している茜は、ベッドまで運ばれていくのであった。